4 マイカの家へ
「アウィンさん、お腹空いてるの?」
「う、うむ」
アウィンが照れ笑いすると、マイカがつられたように笑った。そして、今度はマイカからアウィンの手を引いた。
「ん?」
アウィンが戸惑っていると、マイカが言った。
「さっき助けてもらったお礼! うちに来たら食べ物あるよ」
さっきまでの沈んだ様子とは表情が少し違っていた。誰もマイカの言葉を聞いてくれないくらい、忙しいのだろうかとアウィンは思わずにはいられない。
「いいのか?」
「大丈夫! ……だと思う。それに、私の話、ちゃんと聞いてくれて嬉しかったから」
はにかむように笑うマイカの顔は、これまで見た中で一番子どもらしかった。
その様子に、アウィンは嬉しくなる。こういう顔が見たくて、アウィンは和平への道を歩んできたのだ。
「早く早く!」
「ああ」
今度はマイカがアウィンを先導する番だった。
◇ ◇ ◇
思ったとおりと言うべきか、マイカの家はそれほど裕福そうには見えなかった。街の外れにある小さくて質素な家だった。
「お母さん、ただいま」
「マイカ! 突然飛び出していくから心配してたじゃない!」
扉を開けると、母親が突然マイカに怒っている様子でアウィンは戸惑った。家の中も薄暗くて、お世辞にも豪邸とは言えない。
けれど、マイカの姿を見た途端に駆け寄ってきた母は、本当に娘のことを心配している様子だった。
「まさか本当にお屋敷に行ってきたの? あまり近付かないようにって言っているでしょう?」
「だって、お姉ちゃんが心配で」
「この子の言うとおりだ。あまり叱らないでやってくれないか」
「え? あなたは……」
自分の子どもの姿しか目に入っていなかったようで、マイカの母は驚いたようにアウィンのことを見た。
「す、すみません! 人がいるとは思っていなくて。あの、うちになにか?」
「あのね! このおじさんが私を助けてくれたんだよ!」
「え?」
マイカの母は娘がなにを言っているかわからないようで、首をひねる。
「それは私から話そう。この子が、そのお屋敷の前で姉に会いたいと門番と話しているところに偶然通りかかってな。暴力を振るわれそうになっていたので、その場を収めたというわけなんだ」
「まあ! すみません。ご迷惑をお掛けして。マイカもほら」
「いや、もう礼は言われている。礼儀正しくてよい娘さんだな」
「あ、あら」
おろおろとするマイカの母を見て、マイカはくすりと笑っている。
「アウィンさん、お腹空いてるんだって。うちで食べていってもらってもいい? 私の分、少し減らしてもいいから」
「それはいかん。飯はしっかりと食わないとな。大きくなれんぞ」
「いえ、お世話になったのでしたらお礼もしたいですし、どうぞお上がりください。ちょうど昼時ですし」
「それなら、邪魔をさせてもらおう」
マイカの分をもらうのは気が引けたが、あまり断るのも悪いかと思いアウィンは玄関をくぐった。
小さくて薄暗い家だったが、中はしっかりと掃除してあり清潔そうだった。家の中には二人の他に、誰かいる様子はない。そういう気配がない。
「他に、ご家族は……」
うっかり言葉にしてしまってから、アウィンはハッとした。姉が働きに出て帰ってこないと言っていたばかりだ。嫌なことを思い出させてしまったかと、ちらりとマイカを見る。
「今はお母さんと二人だよ。お姉ちゃんは帰ってこないし、お父さんは、魔族との戦争に行って死んじゃったの」
「そうか、辛いことを聞いてすまなかった」
そして、その一端は戦いを早く止められなかったアウィンにもある。苦いものが胸にこみ上げる。
「このご時世ではよくあることですから」
アウィンの言葉に、マイカではなくマイカの母が無理に笑顔を作ったような顔で答えた。
「よくあること、か……」
「ようやくその戦いも終わりましたから、これからは時代が変わるといいんですが。この子にまで同じような思いをして欲しくないですから」
「ああ、そうだな」
力強く、アウィンは頷く。まさに、その為にアウィンは力を尽くしてきたのだ。
「すぐに準備しますから。待っていてください」
「私もお手伝いする!」
「はいはい」
仲の良さそうな親子の様子に、アウィンは目を細める。




