13 再会
「お姉ちゃん!」
「マイカ!」
あれから屋敷の中を探索したアウィンたちは、地下牢にマイカの姉と他数人の娘たちが入れられているのを見つけた。もちろん、その場でアウィンは彼女たちを助け出した。ただ、憔悴しきっていた者もいたため、すぐに出られる状態ではなかった。
マイカは姉に抱きついて、わんわん泣いている。マイカの姉もぎゅっとマイカを抱きしめて泣いていた。ひとしきりそうした後で、マイカはハッと気付いたようにアウィンの方を見た。
「あの人が助けてくれたんだよ。アウィンさんって言うの」
マイカが言うと、近くにいた娘たちも口々にアウィンに礼を言った。
「私も、すっごく助けてもらったんだよ」
マイカは姉に身振りを交えて伝えている。
今はアウィンも娘たちを怖がらせないように人間の姿をしている。
『どうしてまた人間の姿になるの?』
ここに来る前にマイカに聞かれた。だから、アウィンは当たり前のように答えた。
『人間たちを怖がらせてしまうだろう?』
『でも、アウィンさんは悪い魔族じゃないよ』
『マイカ……』
『だから、そのままでもカッコいいよ』
『……ありがとう』
涙が、出そうだった。
『だが、元魔王の俺がこんなところをうろうろしていては誰に何を言われるかわからんからな。これでも正体を隠しているんだ』
『そっか。ならしょうがないね』
『ああ、そうだ。これは二人だけの秘密だ』
『秘密! かっこいい! 私、ちゃんと秘密守れるよ』
『マイカはいい子だな』
『えへへ』
その約束を、マイカは守っていた。
姉にも、アウィンの正体を話す様子は無い。賢くて強い子だと改めて思う。
そして、そんなマイカの姉が無事で、再び会うことが叶って本当によかったと思った。
◇ ◇ ◇
「すべての娘が無事だったわけではなかったようだな」
無事だった娘たちを連れて屋敷を出てから、その事実を聞いたアウィンは苦々しい思いをしていた。
「ですが、助けられた命もあるのです」
隣から、すかさずゼオが気遣うように答える。
「そうだな……。だが、まだ他にもこういったことはあるのだろうな」
「……」
アウィンの言葉に今度はゼオも答えなかった。アウィンの前で気休めなど言える男ではない。だが、そこが信頼できるところでもある。
無事だった娘たちは皆、元の家へと帰ることができた。
今はマイカとマイカの姉が、手をつないで家に帰るのを見届けようとしているところだ。
アウィンが後ろからついてきているのを確かめているのか、マイカはチラチラと後ろを振り返ってはこちらに向かって手を振っていた。
家に着いて、マイカの母に事情を説明すると最初は驚いた顔をしていたが、最後には二人の娘を抱きしめて大声で泣いていた。マイカも、マイカの姉も、そんな母を見て泣き出してしまった。
だが、それは安堵と喜びからの涙だった。悲しみの涙ではない。
再開した家族たちを見ていると、それはやはり魔族も人間も変わりが無かった。魔界で、アウィンが見続けてきたものと同じだった。
アウィンは自分がしてきたことが間違っていなかったことを実感する。
魔界も人間界も同じだ。この世界全ての人が幸せになることを、不幸にならないことを、アウィンは望んできた。
アウィンはマイカたちを見ながら小さく、だが満足げに頷く。
この街の他の場所でも、同じこと光景が繰り広げられていることだろう。
アウィンは、黙ってマイカたちに背を向ける。そのままなにも言わずに行こうとするが、
「アウィンさん!」
マイカの声に引き留められた。
「もう行っちゃうの!? ずっとこの街にいてくれないの?」」
「ああ、俺は旅人だと行っただろう?」
「いっぱいいっぱい、お礼がしたいよ!」
「あ、あの私からも、ありがとうございます! もう、家には帰れないと思っていたので、本当に……」
マイカの姉も目に涙を溜めながらアウィンに頭を下げる。
「娘たちを、ありがとうございました。私がもっとマイカの言うことを聞いていればよかったんです。娘がそんな目に遭っているとは思いもせず、私は、私は……」
マイカの母は泣き崩れる。
そんなマイカの母に向かって、アウィンは穏やかな声で言った。
「おぬしはおぬしで家族を守ろうとしていたのだ。それを責めることはない」
アウィンにはマイカの母の気持ちもわかる。大きな屋敷の使用人として娘に何不自由ない暮らしをして欲しいというのも親心だ。そして、そのお金があれば細々とでもマイカと二人で食べていくこともできる。
「おぬしも悩み抜いた末の決断だったのだろう」
アウィンが言うと、マイカの母は泣き崩れた。
「これからは親子三人で暮らせるな」
「うん!」
今度はマイカが嬉しそうに答える。
「礼がしたいと言われたが、そんなものはもうもらっている。その笑顔だけで十分だ」
アウィンは微笑んだ。




