11 アウィン、登場
間に合えと念じながら、アウィンは屋敷へと駆けつけた。その前をゼオが先導する。前にこの屋敷の中を偵察しただけあって、よくわかっているからだ。
ゼオがある一室の扉を開ける。ここにいるのだと確信していたようだ。
目が合う。マイカだ。
怯えた目のマイカが、門番に羽交い締めにされていた。
「何者だ!」
声がした方へと目を向けると、そこにアウィンの同族である魔族の男の姿があった。見たことのある顔ではない。
ただ、醜いと思った。
「なんだ、貴様! 人間の分際で勝手に屋敷に入るとは!」
豪華な椅子に座っていた男が叫ぶ。
アウィンはその顔をキッと睨みつけた。
「くっ」
その目力の圧に、男が一瞬怯む。
「俺の顔がわからないか?」
「なんだと? 人間の顔などこの儂が知るわけ……、ん?」
男が目を細めた。アウィンの顔を、目をこらして見ている。そして、急に目を見開いた。
「せ、先代の魔王様!?」
「まさか、そんな……! ただの人間ではございませんか?」
「いや、この顔は……」
「そのとおりだ」
アウィンは人間姿の変化を解く。人間に変化していても、顔自体は変えていたつもりはない。やはり、よく見ればわかるようだ。
ふと、アウィンはマイカを見た。
マイカは怯えたようにアウィンを見ていた。その顔に少しだけ悲しくなる。
が、アウィンはその視線を振り切り、魔族たちを睨みつけた。
「どうして魔王様が、こんなところに……」
男が絞り出すように言う。
「なぜ、だと? 貴様らの悪行、知らないとでも思っているのか。俺がまだ在位しているときに、人間に危害を加えぬようにと全ての魔族に向けて告げたはずだ。これからは、魔族と人間、手を取り合って歩む時代だとな。そのためには、争いの元を絶たねばならん。忘れたとは言わせんぞ」
「う、ぐ……」
アウィンの言葉に、男が歯噛みする。
「人間と共に歩む、だと? ふざけるな! 人間などただの奴隷ではないか! ただの食料ではないか! どうしてそんな下等な者と同列に扱われなければならないのだ!? 魔王様、いや、前魔王のお前のせいで儂らがこんな目に遭っているのだ! くそっ、以前ならば人間など殺し放題だったというのに! お前のせいで、お前のせいで……!」
男は血走った目でアウィンを睨みつけた。その顔は憎しみに満ちている。
「……そうか」
アウィンは強く拳を握って呟いた。
「悲しいな」
「悲しい、だと?」
「そうだ。そのような者がいることが悲しいのだ。俺は、信じていた。魔族と人間でも手を取り合うことが出来る、な。その為に心血を注いできた。だというのに、貴様は……」
「ご隠居様……」
いつの間にか隣に控えていたゼオが、アウィンの胸中を察するように呟くのが聞こえた。
ゼオのように、アウィンに従いその思いをわかってくれる者もいる。だからこそ、アウィンは信じていた。真っ直ぐに進んでいけば、世界はよくなるのだと。辛さに泣く魔族も人間もいなくなる。そんな世の中が来るのだと。
「ふざけるな! お前さえ魔王にならなかったら! お前さえいなければ!」
男がわめく。
「黙れ」
アウィンの地の底から響くような低い声に、男がびくりと体を縮めた。
「貴様らのような者が、我ら魔族の中に存在しているなどということが嘆かわしい! 同族を手にかけるなど不本意だが、争いの種は取り除かねばならないな。ゼオ、その子を頼む」
「はっ」
ゼオはアウィンたちの会話を聞いて放心していた様子の門番の手から、素早くマイカを助け出した。
「さ、こっちへ」
「あ、お前!」
門番が追いかける間もなく、マイカを抱えてゼオは部屋を出て行く。それを見届けてから、アウィンは男に向かって構えの姿勢をとった。
「旦那様!」
隣にいた配下のような魔族が、男の前に立つ。が、それでも助からないと思ったのか、男は叫んだ。
「くそっ! 誰かー! 誰かおらぬか! 侵入者だ!」
どこに潜んでいたのか、男を守るために屋敷から複数の魔族たちが現れる。その魔族たちは、どう見てもその魔族たちはアウィンからすると小物にすぎない。しかし、これだけの数がいればあの元凶の男に辿り着くまでの障害にはなる。
どうやら、あの男に雇われた魔族たちは同族であることに躊躇するような様子は全く無いようだ。
アウィンが元魔王だということも気付いていまい。
「ふっ!」
アウィンは息を整える。
「殺せ! 殺してしまえ!」
もはや自暴自棄になったように男が叫んだ途端、現れた魔族たちがアウィンに向かって襲いかかってきた。




