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第九話 人探し

 次の日の朝。


 洞穴を出て水浴びを終えた後、外套をまといギルドに向かった。


 扉を開き、昨日と同じように辺りを気にしながら受付の前に立つと、エレーナが声をかけてくれた。


「シアさん、おはようございます。朝早いんですね」


「うん。依頼こなしてお金稼ぐ。それで素材集めて、新しい武器作る」


「なるほど。ちなみに、どういったものを?」


「剣と剣を、こう合わせてくっつけるやつ」


 手の動きで表現してみるが、エレーナは困った顔で苦笑していた。


「うーん……ちょっと分からないですね。でも剣でしたら、確かにいい素材がありますね」


「ほんと? それ行きたい」


「うーん……紹介したいのはやまやまなんですが」


「だめ?」


「そうですね。その依頼はランクが高いので」


「ランク?」


「はい。あっ……」


 エレーナは思い出したように、口元を手で押さえた。


「ごめんなさい。そういえば、ランクについてお話ししていませんでしたね」


 エレーナは改めて説明を始めた。


「冒険者にはE、D、C、B、A、Sの六つのランクがありまして、基本的にご自身のランクより高い依頼は受けられないことになっています」


「じゃあ私はEランク?」


「はい。シアさんは昨日登録されたばかりですので、Eランクですね。依頼の実績などをもとに、ギルドから本部へ申請して、認められれば昇格できます」


「じゃあ、しばらくはEランクの仕事?」


「そうですね。素材を集めるには討伐依頼が一番ですが、剣の素材になる魔物や魔獣ですと、Cランク以上になってしまいますね」


「そうなんだ……」


 落ち込んだ様子を見て、エレーナは少し焦ったように付け加えた。


「ですが、シアさんは昨日、途中から想定以上に難しい内容になった依頼を見事にこなしていますので、きっとすぐにDランクになれますよ。それに、ランクが上がればもらえるお金も増えていきますよ」


 それを聞いたシアの顔が、ぱっと上がった。


「そうなの?」


「はい。依頼の難易度に応じて報酬も増えます。今はEランクですので、高くても銀貨2枚くらいの依頼しかありませんが、Dランクになれば、もっとお金に余裕が出てくると思いますよ」


「……なら頑張る。依頼、早く見せて」


 シアはふんすと気合いを入れ、エレーナに催促した。


「分かりました。では、えっと……評価につながりそうな依頼は……あっ、これなんかいいと思います」


 差し出された依頼書は、捜索依頼だった。


「数日前から戻らない夫と、その友人を探してほしいという依頼ですね。報酬は銀貨2枚。二人とも無事なら追加報酬がありますし、魔物や魔獣を討伐した場合は、その証となる体の一部か素材を持ち帰っていただければ、討伐報酬も出ますよ。ただ、この依頼は出されてからすでに数日経っていますので、迅速に行動する必要があります」


「分かった」


「この依頼でいいですか?」


「うん。すぐ見つけるね」


 シアはすぐにギルドを後にした。


 行方不明になった二人が向かったのは、昨日と同じく、北門から出た先にある森だった。


 ノクターシアは少し駆け足気味に街道を進みながら、二人のものと思われる痕跡を探していた。


「……どこかなぁ」


 きょろきょろと周囲を見回し、不自然な痕跡がないか探していく。


 しかし、今のところ見つかるのは、どれも特に変な動きをしていない足跡や荷車の轍ばかりだった。


 気づけば、昨日調査した範囲よりも先まで街道を進んでいた。


 そんなノクターシアの後を、複数の影が草むらに身を隠しながらつけていた。


「う〜ん……」


 ノクターシアは尾行に気づいていないかのように、警戒する様子も見せずに歩き続ける。


 やがて街道の曲がり角へ入り、その姿が影たちの視界から外れた。


 影たちは少し急ぎ足になり、曲がり角の先をのぞき込む。


 しかし──。


 そこにいたはずのノクターシアは、忽然と姿を消していた。


 驚いた影たちは、隠れていることも忘れたように草むらを揺らし、ノクターシアの姿を探し始める。


 だが、いくら探しても見つからない。


 やがて捜索を諦めたのか、影たちはガサガサと草を鳴らしながら山の方へ移動し始めた。


 その動きを、街道脇の草むらで地面すれすれまで身を伏せていたノクターシアが目で追っていた。


 十分な距離が開いたと判断すると、素早く木へ登り、今度は彼女が影たちの後を音もなく追い始める。


 ほどなくして追いつくと、木の上から草を揺らして進む影の正体を確認した。


 小柄な体格。


 緑色の肌。


 尖った耳。


「……ゴブリン」


 そのまま観察を続けた。


 数は三体。


 適当に歩いているわけではない。互いの位置が三角形になるよう、自然に歩幅を合わせている。


 それだけでも、普通の野良ゴブリンではないことが分かった。


 先頭を歩く一体は、ひっきりなしに後方を振り返っている。その首に下げられた小さな笛を見たとき、その役割をおおよそ理解した。


「……群れ」


 短く呟き、追跡を続ける。


 やがて、木々の向こうに少し開けた場所が見えてきた。


 目を凝らしてみると、自然にできた空間ではない。木や草を切り払い、ゴブリンたちが拠点を作ろうとしているようだった。


 それを確認すると、ノクターシアは剣を抜き、枝を蹴った。


 トンッと軽い音を立てて降り立ったのは、三角形の隊列を組むゴブリンたちの中央。


 突然現れたノクターシアに、三体の動きが止まる。


 その一瞬で十分だった。


 ノクターシアは低く身を沈め、その場で身体を一回転させながら剣を振り抜く。


 剣はゴブリンの首を一瞬で通過し、三体の首がほぼ同時に宙を舞った。


 遅れて、首を失った身体がどさりと地面へ崩れ落ちた。


「さてと」


 ゴブリンたちの持ち物から使えそうなものを探し、とりあえず小さなナイフとゴブリンの短槍を二本、そして弓を持っていたゴブリンからは使えそうな矢だけを回収した。


 そして、ゆっくりと拠点の方へ近づいていく。


 見えてきたのは、少し広めの空間に作られている作りかけの拠点。


 ゴブリンたちが寝るためだけに作られたような、扉のない簡易的な家。


 広めの空間を確保するために切られた木の置き場。


 作りかけの木の柵。


 そして、商人が荷運びに使うような木箱。


 さらに拠点の奥側には、人間が作った古い小屋が見えた。


 ゴブリンたちも、それなりの数がいる。


 外周では一体が木の柵を組み立て、二体が互いに反対側を見張っている。


 拠点の中では二体が木箱を開けようとしており、小屋の前にはさらに二体が立っていた。


 先ほど倒した三体も含めれば、この拠点には少なくとも十体のゴブリンがいたことになる。


 それなりの数がいるにもかかわらず、拠点がまだ作りかけなことに違和感を覚える。


「……どうしようかな……」


 自分が受けた依頼は、行方不明の人間二人の捜索。


 このゴブリン拠点を調べるのは依頼から外れている。


 それに、行方不明になってからそれなりの時間が経っていると聞いた。


 ここを調べていたら、間に合わなくなるかもしれない。


 そう思い、一度戻ろうとしたノクターシアの耳に、微かだが声が聞こえた。


 拠点奥の古い小屋の前で、ゴブリンたちが何か声を荒らげている。


 ゴブリン同士で喧嘩でもしているのかと様子を見てみるが、そんな様子はない。


 見張っていた一体が扉に向けて怒鳴り、おもむろに持っていた小さな棍棒で、ガン、と扉を叩いた。


 そのまま小屋のそばから離れていく。


「……もしかして、あの小屋」


 初めは使われなくなった小屋の中に物資でも集めているのかと思っていたが、それにしては木箱との距離がある。木箱の中身を取り出すのなら、小屋の近くで開けるだろう。


 それに目を凝らすと、小屋にはどうやら南京錠がついている。


 そして先ほどのゴブリンの行動。


「……何か捕まえてる?」

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