第八話 今日からの目標
とりあえずちゃんとした武器を揃えておきたいと思い、ケビンに教えてもらった武具店へやってきた。
──カランカラン。
扉の鐘が軽く鳴り、女性店員がこちらに顔を向けた。
「いらっしゃいませ〜」
軽く頭を下げ、店内を見回していく。
「……あれ?」
弓はある。
標準的なものなら、大体銀貨2枚。
質を気にしないなら、中古品と書かれた樽の中に乱雑に入っているもので銀貨1枚くらいだった。
ただ、片手剣が見当たらない。
厳密に言えば、連結できる片手剣が。
双剣も置いてあるが、どれも連結できるタイプではなかった。
しばらく店内を見て回っていると、女性店員が笑顔で近づいてきた。
「何かお求めのものはございますか?」
「えと……双剣……が欲しくて」
「双剣でしたらこちらに──」
「あっ……いや……連結できるのが欲しくて」
「連結……ですか?」
「うん……こう……柄と柄を合わせて捻ると伸びる……ない?」
「えと……少々お待ちください」
店員は奥へ戻り、しばらくして一人の老人を連れてきた。
「店長、この方です」
老人はノクターシアを一目見ると、尋ねてきた。
「少し変わった武器が欲しいんだって?」
「変わった……?」
「柄先同士を嵌め込んで捻ると、収納されていた柄が伸びて長柄になるやつだろ?」
「えと……うん」
「そいつは一時期流行った、特殊機構付きの双剣だね」
店長は少し考え込んだ。
「うーん……残念だが、今じゃ扱ってる武具店はほとんどないだろうね。作るのに手間がかかるうえ、扱いにくくてあまり売れなかったんだよ」
「……そうなんだ」
「どうしても欲しいなら、工房で作ってもらうしかないねぇ」
「……」
少し考えたあと、頷いた。
「……わかった。教えてくれてありがとう……えっと、じゃあ弓もらえる?」
「あっ、はい! どの弓がいいですか?」
「……んと」
中古品の樽から弓をいくつか取り出し、一本ずつ軽く弦を引いて確かめる。
その中から一本を選び、差し出した。
「これがいい」
店長は弓を眺め、ニヤリと笑った。
「それでいいのかい?」
「うん。傷みも少ないし、変な癖もないから」
「なるほどねぇ」
店長はそれだけ言うと、店員に何かを伝えて奥へ戻っていった。
会計を済ませ、弓を背負っていると、店員が矢の入った矢筒を持ってきた。
「こちらもどうぞ」
「これ……買ってないよ?」
「店長からです。矢筒と矢はおまけだそうですので、遠慮なく持っていってください」
「……いいの?」
「もちろん。ぜひまた寄ってくださいね」
「……わかった」
矢筒も背負い、出口へ向かう。
「またね」
扉の前で振り返り、軽く手を振って店を後にした。
日は落ち始め、道も薄暗くなっていた。
先ほどの大通りと比べると人通りは少なく、歩きやすい。
教えてもらった道を進んでいると、
カン! カン!
何かを叩く音が聞こえてきた。
音のする方へ歩いていくと、やがて一つの建物に辿り着く。
『ガリバー工房店』
──カン! カン!
どうやら、先ほどから聞こえていた音はここかららしい。
店に入る前に、そっと裏手の様子を覗いてみた。
そこには使い込まれた鍛冶道具や研磨台が並び、さらに二つの炉が置かれていた。
一つは、赤々と燃える木炭が敷き詰められた、大きな開放式の炉。
もう一つは、人の背丈を優に超える巨大な石造りの炉だった。
正面の分厚い金属扉へは緩やかな階段が続き、扉には船の舵輪を思わせる回転ハンドルが取り付けられている。
あのハンドルを回して扉を閉じれば、内部を密閉できる構造なのだろう。
あれほど大きな炉は見たことがなかった。
そして二つの炉の前には、大きな金床が置かれていた。
その前に腰を据えた男が、何度もハンマーを振り下ろしている。
ガン! ガン!
男の背中は岩のような筋肉で盛り上がり、その迷いのない動きから、かなりの熟練者だと分かった。
「客か?」
男は振り返りもせず、声をかけてきた。
「えと……」
「誰の紹介か知らないが、俺はやりたいと思った仕事しかするつもりはないからな」
男は叩いていた鉄を水の中につけた。
じゅうじゅうという音とともに、白い蒸気が立ちのぼる。
水から引き上げた刃をしばらく眺めたあと、炉のそばに立てかけ、ゆっくりと立ち上がった。
男がのっしのっしと歩いてくる。
「それで、何を打って欲しいんだ?」
目の前に立った男を見上げ、ノクターシアは思わず呟いた。
「……ドワーフ?」
「……正確に言うなら、人間とドワーフのハーフだな」
男はまだ若そうだったが、ドワーフ特有の立派な髭と赤い鼻をしていた。ただし、身長はドワーフより高く、普通の人間ほどある。
「言っとくが、この街じゃ俺のようなハーフは珍しくないぞ?」
何を今さら、とでも言いたげな口調だった。
「それで? 見たところ何も持ってきていないように見えるが、要件は?」
「あ……!」
思い出したように、腰に差していた折れた片手剣を取り出した。
「これ、直せる?」
男は剣を受け取り、まじまじと眺めていたが、やがて顔つきが変わった。
「お前……この武器を扱ってるのか?」
「うん」
「ほぉ……」
興味深そうに、剣を色々な角度から確かめる。
「これの相棒は、お前の腰にもう一つ差さってるそれか?」
「……うん」
「なるほど……」
男は剣を手にしたまま、ノクターシアを見つめた。
「こいつは初めからお前のものか?」
「……違う。昔、それを買ってきた人が扱えなかったから私がもらった」
「……じゃあ実質、こいつの相棒はお前だけか」
男は嬉しそうに笑った。
「この武器がここまで使い込まれてるのは初めて見た。それに手入れもよくされてる。折れたのは……まぁ寿命もあるが、無理が祟った感じだな」
「直せる?」
「無理だ」
即座に答え、剣を返してきた。
「連結機構がだいぶイカれてる。柄の歪みもひどい。何よりこいつの機構モデルが古すぎる。おそらく初期モデルだと思うが……壊れてなかったら、骨董品として欲しがる奴もいただろうな」
「そうなんだ……」
ノクターシアは少ししょぼんとした。
「……この武器に思い入れでもあんのか?」
「ある。……けど、これにこだわるつもりはないよ」
「ほぉ」
ガレスが言っていた。
『武具にどれだけ愛着があっても、変える時が来たら迷うな』
その言葉を思い出しながら答える。
「その子は十分、私と一緒にいてくれた。そしてこれからも、その子と磨いた技で私は命を繋いでいく。それがその子への敬意」
男は少し考えた。
「なるほど。じゃあ新しく武器を作るんだな?」
「うん」
「一から作るからな。それなりの代金と素材がいるぞ?」
「わかった」
「ならいい」
男はノクターシアの前に手を差し出した。
「バルガスだ。素材が手に入ったら持ってこい。使えるか見てやる」
「……シアだよ。よろしく」
差し出された手を握った。
新しい武器を作るために、まずは素材を集める。
その目標が、ようやく形になった。




