第七話 クリケット用具店
久しぶりの満腹感。
ノクターシアは幸せそうに食堂から出ると、酒を飲んでいるヴィオラの姿を見つけた。
ヴィオラもノクターシアに気づき、軽く手を上げる。
「満足したかい?」
「うん」
「そいつはよかった」
ヴィオラは嬉しそうに笑い、酒をあおった。
「それで、今から用具店の方に行くのかい?」
「うん。魔法アイテムとか武器があるなら見てみたい」
「なるほどねぇ。ただ、魔法武器だと結構値が張るよ?」
「そうなの?」
「あぁ。素材の値段も込みになるからね。もし欲しいなら、素材は自分で集めるのをお勧めするよ」
ヴィオラはニヤリと笑った。
「特にシア。お前は戦える側の冒険者だからね。そっちの方がいい」
「戦える?」
ノクターシアは首を傾げた。
「あぁ。冒険者ってのは、魔物を倒すだけが仕事じゃないんだよ。戦えない奴だって登録してる。ギルドには日雇いの求人も来るからね」
「日雇い?」
「一日だけ働く仕事さ。報酬は安いが、戦うより安全だし、色々な経験もできる。戦える冒険者でも、料理や応急処置を習うために働く奴がいるくらいさ」
「へぇ……」
「シアも機会があればやってみな。薬草の知識なんかも覚えておけば、冒険で役に立つよ」
ヴィオラはそこで、思い出したように笑った。
「おっと、話がそれちまった。用具店に行くんだったね。場所は──」
用具店への道を教えてもらい、ヴィオラと別れた。
教えられた道を進むと、特に迷うことなく店に辿り着く。
店内に入ると、並べられた品々から、魔法アイテム特有の感覚が微かに伝わってきた。
「……本当にたくさん売ってる」
昔とは違い、手頃な値段で売られている魔法アイテムに驚いていると、店主が声をかけてきた。
「いらっしゃい。なんか欲しいものでもあるのかい?」
「あ……えと……」
答えに詰まった。
ただ珍しくて見ていただけで、そもそも何が売られているのかすらよく分かっていない。
なんと答えようか迷っていると、店主がもう一度声をかけてくる。
「もしかして新人の冒険者? ここに来るのも初めてかい?」
こくりと首を縦に振った。
「なるほど。じゃあ、軽く自己紹介しておこうか」
店主はカウンターに肘をついたまま、愛想よく笑った。
「俺はケビン。この店はクリケット商会が経営してる『クリケット用品店』だ。日用品から冒険者向けの物資まで色々扱ってるぜ。それで、お嬢ちゃんは何を見てたんだい?」
「あ……えと……魔法アイテムが珍しかったから」
「珍しい?」
「私はあんまり使ったこと……ない」
「へ〜、珍しいね」
怪しまれただろうか……。
少しドキドキしながら待っていると、ケビンは近くにあったランタンを手に取った。
「魔法アイテムに馴染みがないなら、これなんかお勧めだね。魔力ランタン。普通のランタンより高価だけど、魔力さえあれば灯油なしで使えるから便利だよ」
ケビンからランタンを受け取ると、ノクターシアは試しに魔力を流し込んでみた。
すると、ランタンの中にぽっと光が灯る。
「お〜……すごい」
「光の強さも、流す魔力の量で変えられるんだ。お次はこいつ」
ケビンは地図を取り出し、カウンターの上に広げた。
「地図?」
「地図もだけど、本命はこっち」
手に持っていたのは、黒い羽ペンだった。
「こいつはマジックペン。魔力で色をつける代物だ。よく見てて」
インクもつけずに、地図の上にペンを走らせる。
すると、ペン先から色が現れた。
「色が……」
「面白いだろ? ただ、こいつは一時的にメモするためのもんだから、時間が経つと消えてしまう。重要なことを書いた日には……まあ、後悔することになるな」
脅かすような口調に、不安そうにマジックペンを見つめた。
「とまぁ、こんなところかな。ペンの方は結構するからやめた方がいいけど、ランタンなら銀貨1枚で買えるからお得だぜ?」
しばらく悩んだあと、「分かった」と頷いた。
「毎度あり。他に何か欲しいものは?」
「それじゃあ……武器は?」
「武具かい? それなら、まぁ少しは置いてるが」
ケビンが出してきた武器は、どれも粗悪なものばかりだった。
「一応、武器や防具も扱ってるが、ここは用品店だからな。ちゃんとした装備が欲しいなら武具屋に行きな。あっ、でも魔獣や魔物を倒すことが多いなら、工房に行ってみるのもいいかもな」
「どうして?」
「武具屋には新品から中古品まで色々揃ってるが、魔物の素材を使った装備は高いんだ」
「じゃあ工房は?」
「素材を持ち込めば、加工費を払って武器や防具、装飾品なんかを作ってもらえる。素材によっては完成品を買うよりずっと安く済むぞ。それに、駆け出しの頃から腕のいい職人と知り合っておくのも損はない」
ノクターシアは少し考えた。
「じゃあ武具屋と、その工房……両方の場所も教えて。そこに広げてある地図も買うから」
「おっ。嬢ちゃん、分かってるねぇ。またいつでも来てくれよ」
買った地図を大事そうにしまい、教えてもらった工房の場所を思い浮かべながら、店を後にした。




