第6話 お腹いっぱい
食堂に入ったノクターシアは、戸惑いながらも辺りを見渡す。
まだ夕方に差し掛かったばかりだからか、客はあまり入っていなかった。
不安を感じながら奥へ進もうと、カウンターを通り過ぎようとした時。
「いらっしゃいませー。まずはこっちで注文をお願いします」
そう言われて振り向くと、そこに年若い少年が立っていた。
緊張しながら、その前に立つ。
「え……と」
「お客さん。この食堂は初めてですか?」
「あ……そうだよ」
「じゃあ、メニューは後ろにある看板にありますので、あそこから選んでください。あっ、水は最初の三杯まで無料ですので」
「……分かった」
そう言って、メニューを見ていく。
あんまり高くなくて、いっぱい食べられそうなのは……。
具沢山の肉と野菜のシチューとパン。しかも頼めば大盛りにもできるみたい。
メニューを見て、目を輝かせた。
食べられる。
いっぱい食べられる。
さっきもらった銀貨だけでも十分。
そう思うと、興奮を抑えきれずに注文を始めた。
「え……えと……じゃあ、シチューとパンを大盛りで、水ももらえる?」
「シチューとパンの大盛りと水ですね。18銅貨になります」
「えっと……これで」
そう言って、さっきもらった銀貨を手渡すと、少年は笑顔でお釣りを渡してくる。
「じゃあ、少し待っててくださいね。席はお好きなところに」
こくこくと頷くと、素早い動きで空いている隅の席についた。
少年が注文を伝えると、奥から「あいよー」という返事が聞こえる。
しばらくすると、湯気が立った大きめの皿と、四つほどのパンが入った皿、そして水が入ったコップがお盆の上に並べられる。
その盆を給仕らしき男が持つと、ノクターシアの席まで運び、目の前に並べて置いた。
「はい。お待ちどう。熱いから火傷しないようにね」
そう言って、運んできた男はすぐに戻っていく。
「ふわぁぁ〜」
目の前の料理を見て、思わず歓喜の声が漏れた。
運ばれてきた大きな皿。
その中にはシチューが入っていた。
とろりとした茶色いシチューの中には、ぶつ切りにされた肉と、柔らかく煮込まれた芋や人参、玉ねぎが惜しげもなく入っている。
そして横には厚めに切られたパンも添えられており、立ちのぼる湯気とともに、煮込んだ肉の香りと野菜の甘い匂いがふわりと鼻先をくすぐった。
今まで自分が焼いた肉とは、まるで違う匂いだった。
焦る気持ちを抑えつつ、スプーンでシチューをひとすくいし、息を吹きかけて冷ましてから口に運ぶ。
まだ少し熱かったが、口の中に広がったその味に、思わず声にならない叫びを上げた。
「〜〜〜!」
あまりのおいしさに、思わず狼耳がぴくぴくと動く。
パンも昔とは全然違っていた。
ノルトたちがいた頃のパンは、外も中も硬く、顎が疲れるパンだった。
だけど、このパンは違う。
外側は少し硬く、香ばしい。
そして中は、噛むとほどよく弾力があるくらいで、全然顎が疲れない。
何より、あの頃よりおいしい。
夢中になって食べ進めながらも、パンは一口分ずつちぎり、シチューも一度に頬張りすぎないように口へ運ぶ。
ルシェラから教わった食べ方は、今でも身体が覚えていた。
結構な量があったが、すぐに食べ終えてしまった。
空になった皿を名残惜しそうに見つめた後、どうしようかと悩む。
「……もうちょっとなら食べてもいいかな」
そう思い、空になった皿を持って、もう一度カウンターに立った。
「どうしました? お皿はテーブルの上に置いておいてもいいですよ?」
少年は戸惑った表情で、ノクターシアを見つめていた。
その視線に気づき、思わず顔を伏せる。
皿を持ったまま、ためらいがちに口を開いた。
「えっと……おいしかったから……もう少し食べたい。おかわりもらえる?」
そう言って、顔を赤らめる。
その言葉を聞いた少年は、驚いたように目を瞬かせたが、すぐに納得したように頷く。
「もちろんです。メニューはどうしますか?」
「ん。もう一度シチューとパンがいい。今度は大盛りじゃない方で」
「かしこまりました!」
代金を支払い、再び席に戻る。
しばらくすると、先ほどと同じ香りが漂ってきた。
運ばれてきたシチューを、今度はゆっくりと味わっていく。
そして、最後のパンを食べ終えたあと。
「……ふぅ」
満足げに息を吐き、椅子の背にもたれかかった。
お腹はもう、いっぱいだった。
「……おいしかった」
そう呟くと、自然と頬が緩んだ。
メニュー値段表
具沢山の肉と野菜のシチュー+パン 15C
焼いた鶏肉+パン 16C
豆と野菜のスープ+パン 9C
各大盛り+3C
水 無料(三杯まで。三杯以降1C)
果実水 3C
ビール 4C
ワイン 5C




