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第三十二章 処置室

救急病院の処置室は、

白い光に満ちていた。


私は毛布に包んだ寅次郎を

そっと診察台に乗せた。


医師が傷口を見た瞬間、

表情がわずかに曇った。


「……これは酷い」


その一言で、

事の重大さが胸に落ちた。


医師は続けた。


「壊死する可能性があります。

それから……排尿ができなくなるかもしれません。」


淡々とした説明だったが、

どこか動揺しているようにも見えた。


それほどの状態だったのだろう。


すぐに処置が始まった。

私たちはただ、

祈るような気持ちで見守るしかなかった。


どれくらい時間が経ったのか、

よく覚えていない。


やがて医師が振り返った。


「処置はできました。」


その言葉を聞いたとき、

胸の奥で何かがゆっくりほどけた。


診察台の上で、

寅次郎は静かに呼吸をしていた。


まだ、生きている。


それだけで十分だった。


処置が終わったあと、

医師は静かに説明を続けた。


「しばらく排尿が難しくなる可能性があります。」


その言葉に、

私はすぐ別の不安を思い浮かべた。


正月休みだった。

この先しばらく、

病院はほとんど開いていない。


――排尿はどうするのか。


これまでのように

通院してカテーテルで排尿させてもらうことも、

しばらくは難しい。


すると医師は続けた。


「バルーンカテーテルを装着しておきます。

これなら自然に排尿できます。」


その言葉を聞いた瞬間、

胸の奥で張りつめていたものが少しだけ緩んだ。


通院での排尿は、

しばらくしなくてもいい。


だが、

不安が消えたわけではなかった。


医師が最初に口にした言葉が、

頭の中で何度もよみがえった。


「壊死する可能性があります。」


「バルーンカテーテルを装着しておきました。

これなら自然に排尿できます。」


その言葉は、

処置が終わったあとも

胸の奥に残り続けていた。


そしてふと、

一つの考えが頭をよぎった。


もしかすると寅次郎は、

このことを見越していたのではないか。


正月休みで病院が閉まる。

排尿ができなくなる。


その前に、

自分で状況を変えたのではないか――。


もちろん、

本当のことはわからない。


けれど、

あの朝ハウスの中で座っていた寅次郎の姿を思い出すと、

ただの偶然とも思えなかった。


寅次郎は静かに目を開け、

ゆっくりと呼吸をしていた。


生きている。


だがその命は、

まだ不安の中にあった。


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