リユート村にて その2
「こんにちは、マリアンヌさん。 ただいま戻りました」
「あっ…… お、お帰りなさい、タツヤさん。 ご無事でなによりです」
彼女の城であるマリー商会の中枢、執務室に入ると涙を堪えた彼女が佇んでました。
いつもであれば、駆け寄ってくるか、にこやかな笑顔で迎え出てくれる筈なのですが、今回はどこか様子が変でした。
「すみません。 お迎えもせず、こんな場所に出向かせてしまって……」
「いえ、随分と長い間、留守を任せっきりにしてしまい、こっちこそすみません」
ありきたりな挨拶を交わし、長椅子とテーブルのある場所へと移し、今までの経緯を話し合います。
長椅子に並んで座り、報告書を互いに受け取り、その内容を精査します。
そこではっきりと、いま彼女が置かれている立場が分かりました。
「なるほど、買い占めですか……」
「はい。 近隣の町や村だけではなく、この大陸の名だたる大きな街の商家から、村の行商人たちも、買い占めの弊害に悩まされています」
彼女はこの事態には、まったく予想もつかなかったようで、まさか町や村の盟主たちまでが、回復ポーションを転売をするとは、夢にも思わなかったそうです。
この転売は、いわゆる住民に対する裏切り行為であり、町や村を弱らせ、住民の生命や財産を危うくさせる行為です。
とくに、この北の地に置いては魔物も多く、危険と隣り合わせな地方なので、回復薬やポーションの確保は必須でした。
こういった事情で、住民の健康や居場所をまもる為にも、守護にまわる人に優先で使われます。
こんな状況が長く続くとは思わなかった彼女は、いまや各地の行商人からの突き上げを一身に受けてしまい、ほぼ孤立無援の状態となって、商売の先行きも悪く、追い詰められていました。
「こんな事ができるのは、父の代からの商売敵『ガラント商会』の仕業としかいえません」
「ガラント商会、ですか…… その商会とは、商売敵だったのですか?」
涙をこらえて、手を固く握るほどに、彼女が語る商売敵は、どうやら訳ありな相手であると感じました。
買い占めをする理由はあるとしても、その商売敵がそこまでして、マリーさんを追い詰めるのかが疑問です。
そもそも、そこら辺の話はいままでした事もないので、改めて商売の話を聞くことにしました。
話は彼女の幼少期にまで遡り、父親が商人として活躍した時代から始まり、その根の深さを彼女の口から語り始めます。
父親は若い頃から苦労を重ね、南の行商人たちを束ねる組織をつくって、人々の暮らしと共に徐々に大きくなっていく店の経営話は、胸に熱いものを感じる程に良いお話でした。
長い時間と、労力を惜しみなくそそぎ、人々からの信用を勝ち取って、大きな街へと成長した場所に、自分たちの居場所をつくった。
街の人々から感謝されてた父の偉業は、マリーさんの誇りであり、すべてであり、幸せそのものでした。
ですが、その幸せは長くは続きませんでした。 ある一人の裏切り者によって、すべてを奪われました。
その裏切り者の名は『グラント』といい、当時の父親が営む商会で働き、番頭にまでなった人物だったそうです。
商会の金庫番とまでになったその男は、資金を少しづつ自分の懐へとしまい、商いの状況は傾きはじめ、父親が気付いた時には、街の盟主の信頼すら、彼に奪われていたそうです。
「随分と、周到な人物らしいですね」
「はい。 前回お話した縁談も、おそらく彼の差し金だと思いました。 この手の嫌がらせは毎度のことでしたので、彼しか居ないと思います」
父親の代から、当代まで祟る男『グラント』という人物がどんな考えで、どういった信条の持ち主かは不明ですが、マリーさんがここまで苦々しく思う人物など、知る必要性はありません。
その喧嘩、俺が買ってやろうじゃないか。
商売の恐ろしさってやつを、その身にたっぷりと刻んでやるぜ!!
「なるほど、要するに喧嘩を売ってるのですね。 でしたら、私にも出来る事で対処しましょう」
「は、はい? どうしてタツヤさんが…… これは私達親子の問題なのですが?」
口元を歪めてまで歯噛みしていた彼女だが、親の代からの敵である男との確執に、関係のない俺から発せられたその言葉に、面を食らった様子で問われました。
「水くさいですね。 私の伴侶となる貴女が困ってるなら、それに手を差し伸べるは、当たり前の事じゃないですか」
「えっ!? あ、ありがとうございます。 私なんかの為に…… は、伴侶…… うふふ、うふふふ」
俺が彼女の手を取り、重ね合う形で見つめると、彼女もその言葉の内容もしだいに理解したようで、最後には頬を赤く染めあげ、嬉しそうに呟きました。
「さあ、反撃の準備に取り掛かりましょうか」
「は、はい! よろしくお願いします! あっ、でも何をするおつもりですか? ポーションを買い戻すにも、資金的に無理でしょうし、物資も最近値上がりしてまして……」
いざここにきて、彼女の報告書にもあるように、回復薬の不足によって起きた物価の値上げと、流通の不祥事による信用の不和は、リユート村にも押し寄せてきている状況に、それを躊躇させます。
「以前にも言いましたが、『お金は天下の周りもの』を分からせれば良いのです。 彼らには、たっぷりと稼がせてあげますよ」
「は、はあ…… えっ!?」
この後、村長さんや村人たちを巻き込み、リユート村が一丸となって、迫りくる災いと対峙する事となって行きます。




