リユート村にて その3
今週は、この回までと為ります。
リユート村での話し合いは、比較的穏やかに進みました。
『ガラント商会』に関しては敢えて言及せず、我々は現状維持を貫きます。
マリーさんに語った『金は天下の回りもの』という言葉とは裏腹ですが、まあそこは実際に味あわなければ理解は難しいので、今は何もする必要がありません。
お金は回るところには回ります。 その理由は様々です。
そんなお金を、どの様に稼ぐかは自由です。
それが、どんなに悪どくあって、でもです。
◇◆◇
「えっと、本当に現状維持なのですか?」
「はい。 今まで通りで良いですよ」
マリーさんは少し焦っていますが、俺はあえて応えます。
「しばらくは様子を見ましょう。 焦っても向こうの買い占めは続く筈ですしね」
「そうでしょうが、困ってる人が居るんですよ。 何か対応をしないと……」
「そうですね。 ポーションの方は仕方ないとして、回復薬の出荷数は増やしましょうか。 ちょっとした手間は増えますが、周辺への供給は大事ですし」
「あ、ありがとうございます! 少しでも助かる人を増やさないと駄目な状況ですし、材料となる素材も集めますね」
そんな言葉を言いきる前に、彼女は俺の前から去って行きました。
「うん…… 今は動いていたいよね。 俺も少し前までは、あんな感じだったなあ」
正社員となって頑張っていた頃を思い出して、俺はひっそりと呟いた。
焦ってる時にミスは起きるもの。 大事なのは、あわてず騒がず状況を見極めて、すべき事のタイミングを逃さず、実行に移せるかである。
どんなに稼ごうとも、何時までも稼げるとは限らず、虎視眈々とその時を待つばかりであった。
◇◆◇
回復ポーション関連の話し合いから、約一月が経ちました。
あれから色々と準備を始めて、やっと回復薬の流通も増え始めてきました。
依然として、回復ポーションの買い占めは続いてますが、近隣の村には十分な量の回復ポーションを配布しています。
この回復ポーションは、当初と変わりない回復量であり、量産品ではありません。
もし、この回復ポーションが市場に流れれば、今まで販売してきた回復ポーションの価格が大変なことに為ります。
なにせ、始めの頃に作られた回復ポーションは、薬師と錬金術師のレベルも低く、完全なノーマル品質であり、ノーマル品質の量産品は、さらに回復量が少なくなっていたからです。
それはさておき、ベースキャンプでいまも絶賛レベルあげ中のお二人には、その手ずから手作業で回復ポーションをつくって貰っています。
そうやって経験値を稼ぎ、量産された手作りポーションが、近隣の村にて無料で配られて行きます。
かたや販売する回復ポーションは、今も昔もリユート村の薬師さん達が量産しております。
回復薬もそうですが、ポーションを量産する為にも、彼らには従来の品質でつくって貰っています。
こうして販売する回復ポーションの多くは、我々スキル持ちがつくる物とは違って、量産化したことでさらに効能は落ちていきます。
まあそれでも、彼らの回復ポーションは、我々がつくる回復薬よりも、数倍の効能があるのは確かなので問題はないでしょう。
ただ、あのお二人がつくる、手作りの回復ポーションが、販売の為の量産品に、負ける事はないと言えます。
◇◆◇
そして、現在のリユート村は以前と比べようがない程に、住人が増えています。
初めて来た時のリユート村は、子供を含めてやっと五〇人いくといった感じでしたが、今は大人だけでも、軽く三〇〇名を超えています。
しかも、ベースキャンプの人員、ダンジョンで活動するハンター達の人数を含めると、実に五〇〇名の人々がリユート村に、住んでいる事になるのです。
なぜ、リユート村にこれ程の人々が移り住んだのか…… それは仕事や家を失い、より安全に暮らせて、仕事につける場所へと、人づてに彷徨い、居場所を求めていたからこそ、この村にたどり着いた結果なのです。
今回、ガラント商会が起こした、回復ポーションの買い占め騒動によって、彼らは人生と財産を失う結果となってしまい、たどり着いた先でも、さらに彼らを路頭に迷わせます。
こうして各地で起きている異変は、やがて街からも徐々に活気をうばい、やがて物資も滞るように為り、自然と物価もあがっていきます。
安全な場所である筈の街が傾き始めた頃、さらに遠くの村や開拓地で異変が起きてしまいます。
滞った回復ポーションや回復薬の値段は跳ね上がり、末端の人々にも影響が出るほどに大きくなって現れたこの事態は、まさに寝耳に水でした。
魔物たちを増やさない様にと、毎日を狩りに費やしていたハンター達に限界が訪れて、ついに魔物たちの氾濫が起きてしまいました。
抑えきれなかった魔物たちによって、次々と開拓地や近隣の村は飲み込まれて行きました。
多くの農作物をつくり、町で必要な資源を産出していた人々が、その生命や居場所を失って行きます。
この流れは、やがて近隣の町にも伝わり、住民たちによって盟主たちの吊し上げが始まります。
ここまでに、どれだけの人達が亡くなり、またすべてを失い路頭に迷った人々が何処へ向かうのかは、明らかです。
より安全で仕事や住処を求めれば、行く先はたったひとつしかありません。
そう、より大きな街に人々は押し寄せて行きます。
ですが、大きな街であっても流石に受け入れ難く、難民となった人々を拒絶しました。
それは物資が少なった事により、物価があがり続けるいまの現状で、受け入れたところで金のない彼らに無償で与える訳にもいかず、農村を失い食糧すら入る目処が無くなったことで、自分たちの分ですら危ういと判断したからです。
そこからはもう、お話にならない世界となって行くしかなく、路頭に迷う人々がなにを行うかは知れたこととなって行きました。
さあ、彼らはこの先どうなって行くのでしょうね?
この事態を予想してたのであれば、まだ助かる道もあるのでしょうが、どうなんでしょうか……
俺のターンは、もう来ないのでしょうね。
せっかく色々と追い詰めていくプランを用意してたのに、異世界はななめどころか、どストライクの豪速球を投げて来ました。 ちくせう……
そんな彼らの下には、破滅の足音が聞こえているのかも知れませんね。
次回は、来週と為ります。
彼らについては、書く予定はありませ。
このストーリーでは、あくまでもちょい役であり、主人公たちと出会う事なく終える人たちなので、ご了承ください。




