リユート村にて その1
この回より、三日間一話ずつの投稿です。
不定期になりますが、よろしくお願いします。
前回のダンジョン探索から、十日が経とうとしています。
手元にある素材で作れる物も無くなり、俺は一度リユート村に行く事にしました。
ダンジョンの探索も一段落したのもそうだが、マリーさんの顔を見たくなったからです。
流石に、一月以上あっていないので、彼女の機嫌が気になったというのもあります。
「はあ、では後をお願いします」
「ふふ、達也さん。 しっかりと叱られるのも、旦那さんの役割りですよ。 うぷぷ」
「ぷぷっ、そ、そうだぜ、旦那ぁ。 土産もあるし、だいじょぶだいじょぶ。 うぷぷ」
「ははは、そのお気持ち分かります。 お仕事での事ですし、午前様で叱られるよりは、幾分ましかと思いますよ。 頑張って下さい」
手土産にダンジョン産の極上チーズを携え、試作品をインベントリにしまっての帰還と為りました。
極上のチーズは量も少なく、材料となる乳がないのでつくれず、貴重な品なので彼女も喜ぶとは思います。
ですが、一月も会えずにいた負い目は払拭出来ないのも、俺の足取りをいっそう重たくしました。
「うん、彼女の為にも覚悟をしないとな!」
なにを言っているのか意味不明な決意を新たにして、俺はリユート村へと向かいます。
道中、俺の心は彼女との明るい未来ために、なにがあっても許して貰おうと考えていたり、なにかプレゼントを用意してもいいかな、などと妄想を膨らませていましたが、その先に待つ災いなど知らぬままに、彼女の下へと向かうのでした。
◇◆◇
あれこれと考え事をしていると、街道の先はひらけて行き、荷馬車はリユート村に到着します。
リユート村の周囲には、大きな木の壁がならび、今もなおその壁は村を囲う為にのびて行きます。
村の門にたどり着いた馬車は門の前で停車し、門衛が荷の確認をしつつ、乗客の手続きを開始します。
荷物の大半はベースキャンプからの物品で、専用の箱に詰められているので、その数を数えてから書類にサインを貰います。 通常、箱の中身も検査されるのですが、そこはマリー商会の焼き印が付いている箱なので、門衛もそれを確認するだけで済みました。
あとは俺や、ベースキャンプからの休暇組が数名で、村の入村手続きを完了すれば、荷馬車は先に進んで、乗客は門をくぐってリユート村に入って行きます。
「お疲れさまでした」
「「「お疲れっしたあ!」」」
門前で解散したハンター達は、足早に酒場へとくり出します。
まだ午前中なので、酒は提供されないが、女っ気のないベースキャンプとは違って、酒場の女子店員が目当てだろうと、残った俺と門衛は苦笑いを浮かべます。
俺は門衛に礼を言って、その足で自宅へと向かいます。
道すがら村の景色を見つつ、広場にならぶ出店の数を数え、少し驚きます。
肉を串にさして焼く屋台は、かなり繁盛していて並ぶ人も少なくありません。
それだけではなく、自家製の燻製をつくる屋台まであります。
白パンや堅焼きパンに野菜などの食品を扱う出店や、木製の食器や調理器具、生活雑貨などを扱う出店も並んでいます。
今までは、村に来た流れの行商人が路上販売をしたり、商会関連の露店が並ぶことはあっても、村人たちが出店をだす事は無かったので、これは嬉しい光景でした。
「へえ、みんな頑張ってるんだなぁ」
「あっ、タツヤさま! お帰りなさい」
俺が露店をながめていると、マリー商会の出店で売り子をしている村人から、声を掛けられました。
「はい、お疲れさまです。 ただいま戻りました」
「あっ、お疲れさまです。 そうなんですね。 えっと、お帰りのところ失礼ですが、お時間が出来ましたら、マリアンヌさまにお声を掛けて貰えませんか?」
「えっ? まあ、そのつもりでしたので、問題はありませんよ。 もしかして、何かあるのですか?」
「……ええ、少しお元気がないようなので、タツヤさまのお顔を見せて頂けたらと思いまして」
少し困った表情でそう伝えられて、売り子さんは自分の仕事に戻って行きました。
「はあ…… 怒ってるのかも知れないな。 早めに会いに行くしかないよな」
俺は足早に広場を抜けて、自宅へと急ぎます。
自宅へ到着した後、必要のない荷物はおろし、整理を後回しに身支度を整え、お土産をもってから彼女の下へと向かいました。
◇◆◇
マリー商会が営む買取り所は、自宅の隣にあるので、まずはそこへ顔を出します。
すると、買取り所の受付係の人しか居ませんでした。
普段も、この時間帯はあまり人はいないものの、まったく居ないのも珍しく、俺の顔をみてカウンターから人が対応に出て来ます。
以前、何度か買取りの時に見かけた人で、マリー商会の制服をぴしっと着こなし、物腰のよい三十代後半くらいの男性で、マリー商会の移転と共に町から移り住んで、この買取り所の責任者となった方です。
「お帰りなさいませ、タツヤさま。 ただいま、主は不在なのですが、ご用向きはなんでしょうか?」
「お疲れさまです。 えっと、マリアンヌさんに会いに来たのですが、どちらにいらっしゃいますかね?」
そんな不躾な質問にも、彼は礼儀正しく、マリーさんの居場所を教えてくれました。
どうやら、彼女はマリー商会のお店の方に居るらしく、俺は彼にお礼とお土産を渡して、買取り所を後にします。
マリー商会のお店は、リユート村の中心に近い場所にあります。
村の入口から広場を抜けて、真正面となる土地に、彼女のつくった商会の建物が、道を塞ぐ形で建っています。
これはこの村を守る為に、彼女が先を見越して建てたと聞きます。
理由は、俺を含め村の危機の際には、この建物を避難場所として、場合によっては籠城戦も辞さないといった感じで、今も増築中です。
そんな、彼女のお店マリー商会に到着すると、何時もの使用人が出てきて、対応してくれます。
今では番頭となった彼は、結構な人を使う立場となっており、すんなりと彼女が待つ執務室に案内をしてくれました。
「お嬢、タツヤさまがおいでです。 お通ししますよ」
「えっ!? ど、どうぞ、お入り下さい」
番頭となった彼ですが、以前と変わらない態度で執務室の扉に手を掛けつつ、室内へ声を掛けました。
何やら、急な対応だったらしく、彼女の声はうわずって聞こえましたが、それでも何時ものように答えが返ってきたので、準備は出来ていたのでしょう。
「こんにちは、マリアンヌさん。 ただいま戻りました」
「あっ…… お、お帰りなさい、タツヤさん。 ご無事でなによりです」
俺はその時、机の向こう側に立つ彼女の姿を見て、違和感を覚えました。




