新たな資源
徹くんの鍛冶職人がレベル10になった事で、ダンジョン探索の準備が整いました。
これまでは、キャンプ地の警備や補給路の確保で、ダンジョン前の広場には人が送れずに居たので、ダンジョンの探索をする為にも、リユート村からの支援とキャンプ地防衛の人員待ちとなっていました。
実際の話は、徹くんの鍛冶レベル待ちではなく、この人員の補充待ちであったことは、彼には内緒になってました。
彼のやる気をそぐ可能性は極力避けるべきと、キャンプ地の皆に頭を下げた程に、彼のやる気スイッチは不安定なので、お酒も少しだけなら飲ませても良いと通達されていたのも、内密となっていました。
そんな配慮も今を振り返れば気鬱で、泣き言はあるも彼なりに努力が見られたことで、キャンプ地の皆も感心する程に、それ程時間も掛からずに達成され、誰もが彼に称賛の言葉を送ることと為りました。
その間に、ダンジョン探索の為の装備も早めに用意しなければならなくなり、結局のところ『魔鉱石』の開発は成功はならず、鋼の装備と魔道士用の新たな杖とローブを新調することにとどめ、ダンジョン探索を開始することに為ります。
「よっしゃー! ダンジョン突入だぜ!」
「お兄ちゃん、まだだから。 まだダンジョンに、たどり着いてないからね」
「ははは、若いっていいね。 私も、頑張らないといけませんね」
「木村さんは回復役なんで、慎重にお願いします。 理恵ちゃんも、あまり無理しないでね」
今回のパーティー編成は、アタッカーは鋼の斧を装備した戦士の徹くん、後衛索敵魔術師の理恵ちゃん、回復役の木村さん、俺が盾職戦士を務めることで、生存率を高める事にしました。
現在、ダンジョン前がどうなっているかは分からないが、数日まえに確認した時には、ゴブリン達も居ないと報告されているので、いまは森の中をダンジョン前までに続く道を歩いています。
時折、野生の動物を見かけるが、これからダンジョンに行くので、そのまま進んでいます。
この道ができて、ふた月は経つので草も膝までの高さに生えており、踏みしめながら進みます。
木村さんが薬草を拾ったり、食用の木の実などを取りつつも、食事の苦労を忘れられずに、ついつい採取してたと語り、全員で頷いてしまいます。
俺も、この森でサバイバルしてた記憶もあり、田上兄妹もお金のない時には、野草や木の実が主食だったと、苦い記憶を語り合います。
「いやぁ、みんな苦労してますなあ」
「そうですね。 俺も、初日には木の実と野草しかなくて、ずっと腹へってましたね」
「冒険者ギルドとかなくて困ったけど、仕事にありつけたのは、運が良かったよな」
「そうそう、町の近くで野宿になったけど、お腹すきすぎて寝れなかったよね」
それぞれが、この世界の初日を振り返り、遠い目で過去を思いだして、その苦労を分かち合います。
「やっと、ここまで来ました。 長かったなぁ」
「「うんうん」」
「ええ、もうすぐ一年と五? いや半年になるのか……」
前回のお知らせメールから数えて、来週あたりがちょうど十八カ月となります。
「ふむ、もうそんなに経つのですね」
「えっと…… 俺、十八歳なのか? 気付かなかったぞ!」
「えっ? お兄ちゃん、気付いてなかったの? 誕生日どころじゃなかったけど、あたしでさえ、ちゃんと日にち数えてたんだけど」
その話に違和感をもち、俺は初めて気付きます。
「ん? ちょっと待って、みんなもしかして、メールとか着てないとか?」
俺の問は、三人ともに首を傾げて、訝しげに答えます。
「「「はい?」」」
「マジかよ……」
その後、三人に今までやり取りを含め、神からの『お知らせメール』が、毎月届いていると伝えると、口を揃えて自称神と名乗るクソ野郎に吠えます。
「「「仕事しろよ、クソがー!!」」」
俺は、その魂から叫びに、邪神が悪い顔で笑みを浮かべ、せせら笑いをしている奴の姿を幻視してしまいます。
◇◆◇
そうこうしていると、ダンジョン前の広場に到着するまでの距離になりました。
「理恵ちゃん、どうかな? ゴブリンたちは居そうかな?」
「えっと、何も感じませんね」
「木村さんはどうですか?」
「私も感じません。 ただ、広場には何かありそうです」
魔力感知を持つ二人に、索敵の仕方をレクチャーしたあと、実際の索敵は初の試みになります。
理恵ちゃんは狩人の経験もあり、敵の感知には自信もあってかすぐに答えが返り、木村さんに至っては索敵が初めての事なので、別の何かを感じているようです。
「では、行ってみますか。 敵は居なくとも、慎重にいきましょう」
「「はい」」
「うう、緊張してきた……」
俺たちは腰を少し落とし、森と広場の境まで進み、茂みをかき分け広場の様子を覗います。
「あ、これは居るね。 いや、居た形跡はあるから、分からないか」
「あれが、ゴブリンたちの小屋?」
「へえ、あんなのなんだね」
「なるほど、勉強になるね」
茂みの中から見えた光景は、広場の中程に木々を集めてつくった粗末な小屋が、複数建てられていました。
ただ、小屋の住人は不在なのかあまり臭わず、汚くもありません。 ここに居たことだけが分かる程度に、何かを捌いた形跡だけが残っていました。
「うん、森で狩りをして、腹を満たしたのは確実かな」
「マジかあ、ゴブリンって結構頭いいのかよ」
「お兄ちゃん、ゴブリンだって生きているんだよ。 子供でも狩りはするんだからね」
「ははは、我々と同様に、生きるのに必死になれば、自ずと知恵もつくという事だね」
三人の会話を聞きつつ、俺は他に痕跡がないかを探し、周辺の様子に気を使います。
「取り敢えず、大丈夫そうですね」
「うん、なにも感じませんね」
「私もです。 お兄ちゃん、なにしてんの? そんなとこで」
「ん? うん、これが気になってな……」
周辺の気配には何も感じないので、警戒を少しだけ緩めましたが、徹くんが何かを発見した様子でした。
「これって、なんだろ? 石みたいだけど」
「うーん、鉄じゃないの?」
「あ、それってあれかな? 達成くんの鑑定で調べよう」
徹くんの手には、鈍く光る鉱石が握られており、それに気付いた木村さんは俺の鑑定を勧めてきました。
「あ…… これって、ミスリルじゃん!」
「ほぇ? ミスリル?」
「おお! マジかよ!」
「やっぱり、ミスリルでしたか」
俺の手に乗せられた石は、鑑定の結果『ミスリル鉱石』と判明して、思わず驚きの声をあげてしまい、理恵ちゃんは戸惑い、徹くんはテンションが上がったようで、木村さんは改めてミスリルと認識した様子です。
「ちょっと待って。 もしかして、このダンジョンの中で採れるのか?」
「ねえ、ミスリルってなぁに?」
「おまっ!? そこからかよ。 ミスリルって言ったら、ファンタジー武器の素材じゃん!」
「んー、やっぱり貴重な資源でしたか。 なるほどなるほど」
いまだ冷めない驚きとテンションの高い俺たちの間で、理恵ちゃんと木村さんだけは何処か冷静であり、その会話はしばらくの間続きました。
ただ俺の頭の片隅には、まだ成功してない『魔鉱石』の存在があり、それを飛び越して『ミスリル鉱石』が手に入った事が余りにも突然で、今後のダンジョン探索の方針が変わりつつありました。




