収入の格差
今週は、この回までとなります。
徹くんやドワイトさんを見送ったあと、俺はある事を思いだしていた。
「あー、そうだった。 こりゃ、失敗だわ。 徹くん、すまん……」
「えっ? どうしたのですか? 達也さん」
「ふむ、なんでしょう?」
俺はインベントリにある証書を取り出し、二人に差し出します。
「これ、今回の売り上げに対しての、報酬です」
「あー、そんなのもありましたね。 お兄ちゃんの分なら、渡さない方が正解かも」
「はっはっは、お酒に変わったかも知れないよね」
二人はそんな反応をしつつも、受け取った証書にある金額をみて、顔色が変わります。
「いち、じゅう、ひゃく、せん…… えっ!? に、二百万ゴルド……」
「わ、私のは、四百万とありますが、こんなにですか?」
「はい、細かい報酬は省いて、皆さんの売り上げに対し、出来高払いを採用して、この金額になりました」
二人の反応に対して、俺はそう告げると、理恵ちゃんはフリーズして、木村さんはフルフルと手が震えています。
「えっと、大丈夫ですか?」
「……!? はっ! 達也さん! これ、お兄ちゃんにはナイショにしましょう!」
「えっ? あー、えっ? いや、そういう問題じゃないよ、理恵ちゃん」
どういったらそんな回答がでるのか分からない理恵ちゃんの『兄にはナイショ』発言に、一瞬だが分かった反応を捻り出した木村さんだが、すぐさま否定の声をだすという回答に、俺は困惑しました。
「ははは、やっぱりそうなりますよね。 俺も以前、そういった反応になりましたよ」
「「は、はあ……?」」
俺は、約十カ月程前のマリーさんとの出会いと、その後に起こったやり取りの内容を、お二人に伝えた。
「えっ? そんなに高く取り引きされてたのですか」
「回復薬って、殆ど原価取り引きだったのね……」
「ええ、ポーションひとつが十万ゴルドですから、回復薬はその材料とあって、ほぼ原価で取り引きされてますね」
現代日本で、商売をした事のある場合、買い取られる物品にある程度のコストと、運送や護衛といった物流の費用が上乗せされるのは、常識中の常識であるが、ことこの異世界においては、その常識が通用せず、回復薬とそれに類する必須な物品につき、税はもちろん、販売に関しても特別枠が設けられていて、回復薬の販売価格はひとつ一千ゴルドに決まっており、その上に位置する回復ポーションは時価取り引きとなって、今はポーションひとつが、最低一万ゴルドとなっていました。
正直にいうと、俺から言わせて貰うと、まさに濡れ手で粟といった具合いであった。
なにせ、回復薬は薬師でなければ作れず、HP回復ポーションは薬師だと量産もできず、錬金術師に至っては、現在のこの大陸には、存在すらしていないとの事です。
回復ポーションが流通にのる場合は、ダンジョンの宝箱からしか回収されず、その大半は手にしたハンターたちが使ってしまうので、まず出回らないそうです。
そんな回復ポーションを作れる俺は、素材さえ揃えばスキルで量産が可能となり、まさに濡れ手で粟の、金のなる木を持っている人物だと、当時のマリーさんに力説された程です。
この場にいない徹くんの報酬額でさえ、五万ゴルド分の売り上げと、素材確保の報酬を足して、十万ゴルドの収入があります。
まあ、この破格の報酬であっても、お二人の報酬とはかけ離れているので、反発するだろうと、理恵ちゃんが断言したのは言うまでもないとのことです。
「うわぁ、一気にお金が貯まりそうです」
「うん、そうだね。 そうですか、そんな事情があるのですね」
「ええ、回復薬の需要は計り知れないですし、魔物との戦いでも消費されてますし、各町や村でさえも、重症者がでない限り、回復薬の使用を躊躇ってる程に、足りてないらしいです」
こういった背景には、統治者も悩んでいるらしく、回復薬の租税を免除しているとの事です。
ただ、回復ポーションに限っては、希少性を鑑み高値での買取が横行しているらしく、マリーさんに卸した物はすべて、各町や村の統治者に販売しているとの事です。
その後、回復ポーションがどうに扱われているかは、その統治者のみが知るところであり、中にはオークションのような入札で転売されているとの事です。
この話を聞いたときは、流石に呆れましたが、直接の販売や入札による販路をさけ、統治者たちに恩をうる形にしたのは、正解であったと、マリーさんは笑っていました。
そのお陰もあってか、マリー商会の評判は鰻登りとなり、回復薬の需要も増えて、幾らあっても足りず、ほぼ完売状態だそうです。
とくに、リユート村への移住者や労働者の確保が容易となり、その需要も増えているらしく、近隣の村もその影響で景気が良くなっているそうです。
「今後、徹くんには土木や石材といった力仕事をさせるつもりですが、収入面に問題がありそうですね」
「うーん、間違いなく騒ぐかな。 きっと」
「困りましたねえ」
このマリー商会の証書を、徹くんに渡すのが厄介事の種となるのは、避けられそうもないです。
「お兄ちゃんなら、いっそのことドワイトさんに預けちゃうとか、どうかな?」
「おお、それは妙案かも知れませんねえ」
「それしか、ないかなぁ……」
今の彼には、お金よりも信用と実績が何よりも足りないので、しばらくドワイトさんに預ける方向へと、お二人と話し合いました。
「まあ、何かあったらお酒でごまかしましょうか」
「あはは、お兄ちゃんだもんね」
「ええ、間違いなく誤魔化せるでしょうね」
俺の脳裏には、『俺のあつかいひどくね?』という、徹くんの陰が思い浮かぶも、そういうキャラの人もいたなぁ、と思う事にしました。
次回は、4/11の0時更新となります。




