揺れる想いと確たる思い
今週は、この回までです。
今朝も早くから起きた俺は、昨夜の話を一時、忘れる事にしました。
まじめな話、理恵ちゃんが量産した回復薬と、木村さんが作ったポーションが大量にあるからです。
リユート村の収益とまではいかなくとも、回復薬はどこの町にも卸せる品なので需要も多く、村のハンターたちの怪我にも必要な回復手段なのです。
キャンプから持ってきた回復薬と、理恵ちゃんが量産した回復薬の数を数え、それぞれを出荷用の木箱へ詰めます。
あとは、木村さんが作ったポーションの数を確認して、出荷スペースに並べます。
今回の報酬は、村からでるものと、マリー商会からもでるらしく、お三方の給金は別口に貰い、キャンプ地にいる方たちへの配給と為ります。
◇◆◇
回復薬とポーションの出荷を終えたあと、その他の素材のを売りに買取り所へ向かいます。
「こんにちは……」
「こ、こんにちは、タツヤさん」
「えっと、素材の売却にきました」
自宅のすぐ隣りが買取り所なので、便利ではあるが昨夜の事もあって、少し気まずさがあります。
「は、はい。 では、こちらに……」
マリーさんも、どことなくぎこちなさがあり、俯きがちにカウンターから出てきて、店の奥へと案内してくれます。
「すいません。 昨夜は飲みすぎてたみたいで……」
「えっ? そんなことはないですよ」
「えっと、取り敢えず、買取りを先にしますか。 お話しはその後で……」
「あっ、はい!」
赤くなってるマリーさんの顔をみて、先に仕事を済ませようと、奥の部屋へと進みます。
部屋に入ると、薬品の棚と獣の皮が棚に並んでいます。
持ち込まれた獣の解体作業とは別の部屋で、ここは主に薬品の倉庫だった筈です。
おそらく、獣の皮は出荷待ちの品だとは思いましたが、少し疑問に思い確認します。
どうやら、皮革に加工する作業が、収穫量に追い付かず、隣村へと出荷する為に、一時的に保管しているのだとか…… 以前なら、俺が皮革へと加工していた分が、そのまま出荷されているそうです。
それはそれで、隣村でも加工の仕事に就く人もいるらしく、逆に感謝されているそうで、一安心しました。
「なるほど、うまく経済がまわっているのですね」
「はい、すべてはタツヤさんのお陰です。 ありがとうございます」
近隣の村の事情までは知らないし、考えてもいなかった俺は、感謝されても実感もないので、苦笑いでごまかします。
実際、隣の村へ行ったこともなければ、その村の人達にあった事もないし、行く予定もありません。
その後、素材の買取りを済ませて、昨日お願いした素材や、食糧と酒を買い込み、工房の倉庫へと運んで貰います。
「えっと、支払いの方はいつも通りで大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。 毎回ではないですが、タツヤさんの収入とは別に、リユート村からもお金がでてますので、ご安心下さい」
そういった会話のあと、何時もの収支報告書を渡されます。
そこには、未だに価値が分からない金額と、収入と支出の内訳が並んでいました。
「いち、じゅう、ひゃく…… いっ、一千万ですか?」
「はい。 いつも、ありがとうございます。 リユート村も、マリー商会も、順調に商いが廻っております」
「あははは…… 順調でなによりです」
このやり取りは毎回の事ですが、俺が現金を持ち歩くのは、せいぜい数千Gくらいで、インベントリには金の粒といった感じの通貨が100個入っているだけです。
1Gは鉄貨で価値は円にすると十円未満で、銅貨が百円ほど、銀貨は数千から一万円ほどらしく、安定した価値はないとの事です。
金に関しては、時価取り引きで数十万まで行くときもあり、ほぼ流通はしていないとの事です。
鉱物資源の価値で、一番安いのが鉄くず、二番目が銅、三番目が銀なのですが、現在の価値はまちまちで、流通する貨幣の価値が変動しているのは、誰のせいかはお察しです。
以前、報酬で貰ったお金は何だったのか、この世界の通貨が素材そのものだった理由と、渡された金額の違いに、違和感が湧きます。 (ちゃんと仕事してないだろう、あいつ)
「どんどん貯まりますね、これ……」
「はい、貯まって行きますね。 うふふ」
「いやいや、まずいですよ、これは……」
「はい? まずいですか?」
このやり取りも、何度も繰り返していますが、この世界の経済がどうなっているかも、謎でした。
「えっとですね。 商いを通して、お金を人々にまわすのは良いことですよね」
「ええ、商売敵は別にして、身内でお金がまわる商いは、重要ですわ」
「いや、それはそうですが…… くっ、学がないのが痛い!」
「だ、大丈夫ですか? どこかお加減が悪いのでしたら、お薬をお持ちしますが……」
これも何度か経験してますが、自分の学力ではうまく説明も出来ずに、情けなさが身にしみます。
もっと経済の勉強をしようとしていたあの時、あの震災に巻き込まれたあの日が、悔やまれます。
「いえ、病気ではないので、大丈夫です。 ただ、自分の勉強を疎かにしてた報いなので、情けないばかりです……」
「えっと、タツヤさんが勉強不足とかは、ないと思いますわ。 それこそ、勉強不足な私達に、たくさんの技術や知識とレシピは、どれもがとても価値のあるものばかりなのですよ。 ですので、ご自身のことを卑下するのはおやめ下さい」
真摯な言葉を投げ掛けてくるマリーさんに、俺は眼を一度つむり、改めて感謝と信念を伝えます。
「分かりました、ありがとうございます。 ですが、これだけは知っておいて下さい。 『金は天下の回り物』 けっして、一人が独占して良いものではないのです」
「はあ……? 分かりました。 肝に銘じておきます……」
現代の日本にも、それが通じるとは思えない人も居ますが、これは過去から通じる金言とも云えるので、この世界でも通用する筈です。
貧しくとも苦労をかさね、俺たち三人を育ててくれた両親に感謝出来たのも、あの会社と出会い、そこで様々な経験と価値ある言葉に学び、なにが大事であるか語ってくれた、諸先輩方の教えがあったからこそです。
いま、この異世界を生きる人々がどんな思いでいるかは分かりません。
ですが、自分が起こしたこの村の出来事は、紛れもなく事実であるし、救いの手を差し伸べ、感謝された事も忘れていません。
たとえ打算であっても、今後もこの村で活動し続け、評価を稼ぎつつ貢献出来るように、頑張るつもりです。
それで、元いた世界に遺してきた家族たちに仕送りが出来ることが重要だし、今の俺を支えている要素といえます。
今はまだ、この貯まる一方のお金を、この村の為に使う事を拒否されてはいますが、今後くるであろう災いに備え、すべてを注ぎ込む気でいます。
なんの保証も後ろ盾もなく、ふらりと現れた自分が、幾ら村を救ったからと言って、あの当時の自分は見捨てる気もあったわけだし、けして皆が思っている様な人物でもないのに、誰とも区別せず、心から受け入れてくれた彼らに恩を返す機会とあらば、貯まる一方のお金を吐き出す事など、何も惜しくはありません。
偽善といえば偽善ですが、確かに思う気持ちに、変わりはありません。
この異世界でも、俺は恵まれています。 誰よりも。 彼らとの縁は幸せであり、誰に対しても、それだけは譲れません。
そして、断言も出来ます。
『この村は、俺が守ってみせる』と誓います。
ただ惜しいといえる点がひとつだけあります。
この世界の神が『あいつ』だという事と、その神に誓っていえないという事実が、実に悔しいところでした。
『今に見てろよ、邪神!』
心の中で叫び、天に向かってツバを吐きかける俺の気持ちを、誰にも伝えられずに、奥歯を噛み締めた。 ちくせう。
この回で、10万文字達成しました。
ここまでお付き合い下さり、誠にありがとうございます。
これも偏に、皆様の閲覧があっての事なので、感謝いたしております。
しかし、週に3〜4話が私の限界ですね。
先週は、書きかけをまわした分、5話と為りましたが、今週の4話目はぎりぎりでした。
さて、次回の更新ですが、4/4の0時となります。
よろしくお願いします。




