新たな出発
今週も、よろしくお願いします。
ベースキャンプまでの道普請が開始されたので、俺はアイテムの補充を始めます。
今回、補充するアイテムは食料関連が中心と為ります。
煉瓦なども使う予定ですが、木材が豊富な森ですし、建材には事欠いていないので、滞在人数の事を考えての下準備です。
塩に砂糖、油と小麦をインベントリに入れていきます。
これらは、マリーさんに以前から注文していた物資なので、今では村でも買える様になっています。
あとは香辛料があれば良いのですが、そっちは別の大陸にあるそうなので、入手は困難らしく、少量しか手に出来ませんでした。
入手出来た香辛料は、胡椒のようなスパイスなので、出来れば種を入手したいところです。
まあ、いまは森で採れる、山椒のような木の実もあるので、そちらを加工して使っています。
「えーっと、あとは布と皮に綿とかだな」
「なにをしてるんですか? 達也さん」
俺が工房にある倉庫で物資の補充をしていると、入口から覗き込んでいる理恵ちゃんに声を掛けられます。
「ん? ああ、これはベースキャンプに持ってく物を準備してるんだよ」
「えっ? もしかして、もう出掛けるんですか?」
「なんだ理恵、こんなとこで何してんだ?」
「どうかしましたか?」
どうやら、三人とも一緒に居たようです。
まあ、お三方はパーティーを組んで仕事をしているらしいので、居ても可笑しくはないのでしょう。
「えっとですね。 道の工事も始まったので、明日にでも出発しようかなと思いまして……」
「なっ、マジで?」
「えー、もう行っちゃうんですかぁ?」
「それはまた急ですね」
まあ、職業支援の話をしたばかりなので、お三方の言い分は分かります。
「一応ですが、仕事を頼む形には為りますけど、皆さんの事は村長やマリーさんに話をしてますし、問題はないと思いますよ」
「えっ、俺らのこと置いて行く気なのか」
「えー、ん〜、まあしょうがないかぁ」
「まあまあ、それはまあいいとして、何でまた、そんなに急いでいるのです? お帰りになってから、まだそんなに経ってませんし」
ん〜、そうだな。 あって早々居なくなるとか、流石に不安だよな。
「それはですね……」
俺はその急ぐ理由について、ベースキャンプの先にあるダンジョンの経緯を説明しました。
「ダンジョンっ!!」
「はいはいはい! 行きたい、行きたい、行きたいです!」
「ははは、なるほど、ダンジョンがあるのですね。 それで、人手が要ると……」
「まあ、そうなんですが、まだ危険なので、まずは人を集めないと行けないのですよ」
ダンジョンと聞いて、田上兄妹の反応は仕方ないとしても、木村さんも乗り気でいたのも意外でした。
その後の話し合いで、急遽お三方も、ベースキャンプゆきが決まり、注意事項を伝え、装備や道具の作成に入りました。
◇◆◇
木村さん、田上兄妹の装備品は旅の途中で手にしたものや、また町で買った製品という事で、俺はそれらを鑑定します。
その結果は、この村で扱っているものより品質が悪く、俺が作った強化済みの武具ではなく、ごく普通の装備でした。
徹くんの剣は鋳造品だし、防具はただの皮で作られ、防御性能の低い、お粗末な代物でした。
また理恵ちゃんの弓も普通の品で、かなり使い古した感じで、買い替える必要もあり、皮の胸当ても防具とはいえない、ただの胸当てでしかありません。
そして、木村さんの装備品は、杖以外はただの布切れで出来たローブであり、町に住む一般人が着ている服と変わりない物でした。
ただ杖の方は、西洋風の長杖といった感じの杖で、以前世話になった教会で託されたものという事らしく、これだけがまともな造りで、強化の施された逸品でした。
『癒やしの杖』
持つ者に信仰を授け、神のみわざと加護を付与された長杖。
【効果】回復魔術効果+10% HP自動回復1%/5s
【装備ボーナス】MID+5 MP+10%
という、現在の俺にはとても作れそうにない代物です。
「お世話になった神父様に頂いたのですが、かなり良いものなのだったのですね」
「そうですね。 この杖は、大事にしないといけませんね」
「それに比べて、俺らって……」
「うん、悲しいね。 お兄ちゃん」
なにやら、木村さんはしんみりと杖を眺めていますが、何処か悲しげです。
そして、田上兄妹も別の意味でしんみりしてますが、こちらはそっとしておいてあげましょう。
◇◆◇
これまでに使用していた装備は解体して、新しい素材を使いそれぞれの要望にそった装備を新調しました。
徹くんには前衛職の装備を一式揃え、理恵ちゃんには魔法職の装備品を渡し、木村さんには俺と同じローブ以外に、薬師や錬金術師の道具を揃えて、それぞれの要望にそったアイテムを渡しました。
将来的には、俺を含むこのメンツでパーティーを組む事を念頭に、自分の職業も変更するとして、臨機応変にいこうと思います。
ベースキャンプまでの道も工事が始まり、皆の装備も整ったので、キャンプ行きの人選も決まりしだい、リユート村を出発する予定です。
翌日の旅立ちの際には、マリーさんと少々揉めましたが、そこはベースキャンプまでの道普請が終わるまでは、彼女の力が必要だと諭し事なきを得ます。
まあ、一ニ週間のうちには報告もあるので、問題が起きなければ、また会えるのだから、彼女には安全な場所に居てもらいたいと言うと、嬉しそうな表情を浮かべていたので、問題はないでしょう。
◇◆◇
リユート村を出発し、川沿いを遡ること二日。 森を抜けてキャンプ地にたどり着いたのは、日が傾き始めた頃合いでした。
「はあ、やっと着きましたね」
「意外と近くにあるんだな」
「んー、思ったより良いところですね」
「魔界という森の割には、魔物も出なかったですね」
俺たちを含めた二十五名のハンターたちに、キャンプでの建設要員が八名。
鍛冶や薬師といった、生産職三名を引き連れての森の移動には、まる二日が掛かりました。
ここまでのルートを何度も通ったことで、時間短縮出来たというのもあり、道案内がなければ、もっと時間は掛かっていた筈です。
それに、ゴブリンや敵性生物にも遭遇しなかった事も、大きな要因でした。
「うむ、何事もなく着いたな。 やっぱり、ゴブリンたちは北側に流れたのかも知れんな」
「可能性としては有りますね。 ダンジョンに潜ってみないと、まだ分かりませんが」
ダンジョンの北の森には、瘴気うずまく未開の地が広がっているとの事です。
「おお、ダンジョンかあ。 早く行ってみたいぜ」
「どんな感じかな? 強い敵も居るのかな?」
「ははは、まずはここのキャンプの整備が先ですよ」
キャンプに到着後、荷物を降ろす為に、それぞれの宿泊施設に向かいます。
木村さんと田上兄妹は、工房が隣接する、俺の宿舎へと案内します。
今後の彼らは、ここにある施設を使い、それぞれの仕事をして貰う予定です。
まあ、ぶっちゃけてしまうと、生産職のレベルあげをするのが、主な理由ですね。
前衛職なら、土木や建設で力(STR)は上がりますし、建材を作れば器用さ(DEX)も上がるので疎かには出来ません。
魔法職も、薬師や錬金術を上げれば知識(INT)が上がり、火力や効果の上昇、またMPの量も増えていくので、馬鹿には出来ません。
三人をダイニングに通し、荷物を降ろして、少し休憩を取ります。
「いま飲み物を出しますから、少しゆっくりしましょう」
「あ、私もお手伝いします」
「ここが達也さんの秘密基地かぁ」
「ははは、いいですね。 秘密基地、子供の時分を思い出します」
お湯を沸かしてポットに注ぎ、カップとスプーン、お茶やコーヒーを用意してダイニングテーブルの上に並べます。
「えっと、お茶とコーヒーがありますが、どうします?」
「あ、俺はコーヒーで」
「私は、お茶を下さい」
「お兄ちゃんは、自分で淹れられるよね」
相変わらず、理恵ちゃんは兄には厳しく、その兄は思わず苦笑いを浮かべます。
徹くんはコーヒーを淹れ始めたので、俺はお茶の仕度をして湯呑みを温めます。
ダイニングにコーヒーの芳ばしい香りが拡がり、お茶の暖かい香りが心を癒します。
「落ち着きますねぇ」
「あれ? 砂糖がねぇぞ」
「あ、お砂糖忘れてた。 てへっ♪」
「ははは、いま出しますよ」
インベントリから砂糖の入った木箱をだし、砂糖を入れる容器へと移して、テーブルの上に差し出します。
「ありがとうございます。 インベントリでしたっけ? 羨ましいです」
「うん、チートだよチート」
「まあまあ、私もいつかは欲しいですな」
「そうですね。 緊急ミッションの達成報酬なので、皆さんが取れる可能性はあるでしょうね」
二十種のアイテムを無尽蔵に入れられるインベントリは、リユート村で起きた、緊急ミッションの達成報酬で貰えたと伝えてあるので、なにかの機会で貰えるのではないかと、期待しています。
まあ、インベントリを知った時の彼らの騒ぎようは、致し方なしといった感じでしたが、木村さんのフォローもあり、今は落ち着いています。
休憩をとった後、彼らの住居をどうするかを話し合い、工房近くの土地に建てると決まり、その日は理恵ちゃんにベッドをゆずり、男どもはリビングで雑魚寝をしました。




