変わりゆく村
今週も筆が重いです。
あともう一話上げる予定です。
ドワイトさん率いる、ハンター達が狩ったイノシシを買取り、その解体役を買って出た女性。
彼女は『マリー商会』の会頭であり、このリユート村初の専属商会として、この村に商店を開いた、マリアンヌ本人である。
「お疲れさまです、タツヤさん。 これがドワイトさん達が獲ったイノシシの内蔵です」
「ありがとうございます。 では早速、作業に取り掛かりますね。 解体作業、お疲れさまでした」
彼女から手渡されたトレーには、解体されたばかりのイノシシの臓物がのっており、キレイな布で中身を隠している。
「あ、タツヤさん。 そろそろ、新しい住人の方たちがこちらに到着すると、連絡が届きましたので、例の薬を卸して頂けると、助かります」
どうやらマリー商会の伝を使って、薬師か錬金術師さんが来るらしいと『薬』というワードを使い、遠回しに教えてくれた。
「あ、はい。 そうでしたか、もう来るのですか。 では後でお持ちしますね」
「はい、お待ちしてますね」
月に数名の移住であるが、鍛冶師や薬師の候補をリユート村に呼んで、将来的に村人からも職人を増やす計画に変更した。
これは、ダンジョン解放のお告げという体で、俺が持ち掛けた相談を、マリーさんや村長さんと話あって合意した計画である。
まだ公には内緒なので、あからさまな住民募集は出来ないという、マリーさんからの忠告でもあった。
せめて、私たちの店が軌道にのり、かつダンジョンが発見されるまでは、慎重に計画を推し進めるのが最良なのだと、マリーさんに押し切られたのだ。
最初はなんの事なのか分からず、マリーさんのお願いなので了承はしたのだが、翌月の来訪でここ(工房の隣)に、マリー商会の店を建てるのだと言われ、気付けばうちの工房と繋がる買取り所までつくり、準備万端に用意してきたと語るマリーさんの意欲に、俺は負けた。
どうしてそこまでするのか? その問いかけに彼女はこう答えた。
『こんなビッグウェーブに乗らないなんて、商人じゃありません!』と、熱く語られてしまった。
◇◆◇
はあ、忙しいわ。 でもこんなに仕事が楽しいのも、久しぶりね。
つい、数カ月前に出逢ったタツヤさん。 今までの誰よりも、刺激的で聡明な男性。
そして、謎多き彼からの告白。 もうこれは、運命的な出逢いに間違いないし、私の全てを捧げても構わないと思える人物である。
『神の御子』
たしか、この世界を創り、私達は勿論、精霊さまや神獣さま方をお創りあそばした『神』の眷族。
この地に穢れを撒き散らし、この世のすべてを闇の世界へと変える『魔神の眷族』たちを打倒し、この世を救った存在。
その末裔と思われる『神の御子』タツヤさん。
「ああ、こんなチャンスに恵まれるなんて、最高の巡り合わせよね。 絶対、添い…… な、成し遂げるんだから!」
マリーは、忙しく楽しい毎日に感謝していた。
人生最良の好機と出逢い。
そして神のお告げにあった『ダンジョン』の発生は、またとない商機が眠っている。
そんな夢のような話が、達也を介して舞い込んだのが、彼女の琴線に触れる。
逃しては駄目。 必ず手に入れてみせる。 これを逃せば、一生独…… もとい後悔すると思い、思わず漏らした本音が頬を染めた。
「姉さん、早くしてくだせい。 客が多くて、廻りゃしやせんぜ」
「え? あっ、はい! えっと、買取りですね。 では、こちらにお願いします」
時刻は午後の3時過ぎ、出稼ぎハンター達が、森の採集活動から帰り始める時間帯。
北の森で採れる様々な素材は、マリー商会の利益を生む商品であり、達也との仲を結ぶ為の口実であり、それらを持ち込む彼らは大事な顧客なので、自然と頬を緩ませ、気分よく対応するマリーであった。
ふふふ、この仕事だけは絶対に譲れない。
たとえ本拠地を譲ってでも、タツヤさんの傍に居られる方が幸せなの。
私は必ず手にしてみせるわ!
商いと伴侶の座は、私のもの!
彼と私の出逢いは、神さまが与えて下さったに違いない!
マリーはそう信じて疑わなかった。
マリー商会の本拠地は、元々近隣の大きな街にあった。
そして、それを商売敵の商会に売り払い、少なくない資金を手にして、その街に小さな販売店だけを残して、このリユート村に移り住んだのである。
達也が齎した、ダンジョン発見の知らせは、まだ聞かない。
そんな話しを鵜呑みにして、本拠地を売り払う事を、大半の仲間たちに呆れられたが、マリーはその意思を曲げなかった。
自ら下した判断に、間違いはない。
いずれこの地が大金を生み、ダンジョンが発覚すれば人は押し寄せ、村は近隣の中心地となるのは必然なのだから。
「マリアンヌさん、お茶が入りましたよ。 皆さんも、交代でお茶にしましょう」
「はい! ありがとうございます」
「「「ゴチになりやす!」」」
そして、もうひとつの理由。
美味しいお茶とお菓子。
達也が作った燻製も素晴らしいものであったが、彼が作り出す様々な食品はどれもが一級品であった。
とくに食材となるものは、ありふれた物であるも、それに使われる調味料とレシピが素晴らしい。
芋ひとつ茹でたとしても、それに添えられる塩や油が、食材を引き立てるのである。
『じゃがバター(もどき)』を食べた時の幸せは、全身を駆け巡った程だ。
茹でられた森芋は、冬場の定番である。
しかも、腹が膨れるだけの味気ない、その場しのぎの食材として、辺境でしか消費しない物である。
そんな食材を茹でたものに、塩とイノシシの背脂からとった油をかけ、あつあつを差し出され苦笑いをしたのは、マリーだけではなかった。
だが、その渡されたじゃがバター(もどき)を口に含んだ瞬間、全員が恍惚の表情にそまり、無言で貪るように完食した。
ほんのり漂う芋の香りと甘み、そして濃厚な油と塩がより一層食材の味を引き立て、旨味として味あわせてくれる。
あの味気ない森芋が、腹を満たすだけの食材がである。
しかも、次にだされたポテチなる菓子には、全員がやみつきになった。
『森芋バンザイ!』と、皆は絶賛し、達也は称賛されたのは言うまでもない。
そして今、目のまえに出された焼き菓子、これも定番の菓子であるも、達也が作れば別物となった。
『バタークッキー(もどき)』という、見た目が少しだけ違い、ヤギの乳からとったバターなる脂を小麦と砂糖に混ぜて練り込み、その生地を焼き上げた、ほんのりと甘い薫りがする焼き菓子であった。
それはもう、今までの焼き菓子とは、まったくの別物だったのは言うまでもない。
以前、王都で作られた焼き菓子を手に入れて食べたが、どちらかと言えばあれは保存食であった。
お茶や水に浸して食さねば、歯が折れかけない代物であり、お茶請けに出される物ではないのである。
あと、出されるお茶にも違いはあった。
『たんぽぽ茶』という、野草から作られたお茶は、このリユート村では既に主流となっていた。
マリーは、初めて飲むたんぽぽ茶にほっとした。
琥珀色のお茶は、ほんのり苦味はあるものの、香ばしく優しい味わいであり、暖かい気持ちにしてくれた。
そして、たんぽぽコーヒーなるものも味わった。
こちらは強烈な香りが鼻を刺する真っ黒な液体であった。
眉をすぼめ勇気をだし液体を一口すすると、口の中から鼻へとその香りが駆け巡り、芳ばしい薫りと苦味がたんぽぽ茶とは異なる刺激を与えてくる。
どちらも、たんぽぽという野草の根を乾燥させ、それを刻んで抽出したものではあったが、たんぽぽコーヒーの焙煎方法が違うだけで、これ程に違う味わいになるとは恐れ入った出来事であった。
その後のティータイムは、達也が作ったお茶と菓子が定番となったのは言うまでもない事である。
「はあ、幸せよね〜」
「「「同感でさあ〜」」」
たんぽぽ茶を啜るマリーは、たんぽぽコーヒーを愛飲する男共を眺め、ふと思ったことを口にする。
「あんた達、ここに来れて良かったんじゃない?」
「姉さん、一生ついていきやす!」
「「「ついていきゃっす!」」」
その答えを聞いたマリーは満足な表情を浮かべ、お茶請けのバタークッキーをひとつ手に取り、香りを楽しみ口へと運ぶ。
「美味しいわ〜 もう、他のは食べたくないわね」
「うまい酒と食事、つまみもありやすもんね」
「「「ちげえねぇ」」」
男たちはコーヒーを啜りながらポテチを貪り、マリーの呟きに同意するのであった。
彼らの想いはそれぞれ違うも、商売のネタに事欠かないこの村は、まさに天国といえた。
持病もですが、体調が悪いと厳しいです。
もう暫く時間を下さい。
よろしくお願いします。




