イノシシ狩り
ドワイトさんに頼まれたハンター達6名を連れて、北の森へと向かう。
今回の目的は、上質の薬草の採取と、イノシシの調査である。
これは、あくまでの名目で、実際はイノシシの狩猟が目的であった。
昨日のドワイトさんとのやり取りは、可能であればその狩猟に参加したいという話であり、イノシシ狩りはずっと避けて来たことが理由で、イノシシを狩る経験がないハンターが増えてきているという実情があったからだ。
要するに、このチャンスは逃せないというドワイトさんの親心から発せられた案件なのだ。
俺も、イノシシの狩り方や罠の仕掛け方とか、ドワイトさんに相談していたからこその話で、それに参加したいという願いも頷けるものであった。
◇◆◇
「えーっと、ケントさんとラルさんはチームリーダーということで、それぞれの班に分かれて行動して下さい」
「「わかった」」
ケントさんは足が早くて斥候タイプのハンターチーム、ラルさんはガッシリした体格をした前衛タイプのハンターチームに分かれて、それぞれの役割りを分担する。
斥候チームはイノシシの捜索に、前衛チームはイノシシの威嚇と誘導をお願いしてある。
それぞれのチームには、煙幕と催涙ガスが詰まったビンを渡してある。
危険を感じたら、イノシシに投げつけるようにといい含めて渡した。
今回の作戦は単純なものだ。
イノシシをテリトリーからおびき出して、罠をはった場所へ誘い込み仕留めようという作戦だ。
「罠の場所は把握しましたか?」
「「おう、大丈夫だ」」
「それじゃあ、行きますか。 俺は右側に、ケントさん達は左側を任せます」
「分かった、任せておけ」
「ラルさんたちは、しばらく待機でお願いします」
「ん、了解した」
俺はケントさんとラルさんに頷き、二人もお互いに頷いた。
そして、お互いの役割りに従い、作戦は開始される。
まずは獲物の捜索を開始。
ケントさんのチームは左へと向かい、俺は右へと向かう。
お互いの行動範囲は、大体2キロメートル程にして捜索を開始。
すでにイノシシのテリトリーは判明しているので、確認ができ次第戻るようにと打ち合わせは済んでいる。
大凡、5分といったところで俺はイノシシの気配を感じて、近くの木に登る。
「ん、いたぞ。 やっぱデカいな、大丈夫かな?」
俺の視線の先には、フゴフゴと鼻を鳴らすイノシシの背中が見えていた。
体長は2〜3メートル程で、体重はかなりありそうな感じがする。
取り敢えず確認は出来たので、俺はラルさん達が待つ場所へ戻る事にした。
罠が仕掛けてある場所へと戻り、俺はラルさんに報告する。
そして、15分程でケントさん達も戻ってきた。
「おや? 早いな。 もしかして、タツヤさんの方にもイノシシが?」
「はい、すぐ近くで見つけました」
捜索範囲を2キロメートルにしたが、ケントさん達も近い場所でイノシシを発見したと報告された。
「どうする? タツヤさんが見つけたのは大物なんだろ?」
「ええ、大きいですが一頭でした」
「ケントの方は親子連れなんだろ?」
「ああ、母親と子供2頭だな」
「今回は大きい方にしましょう。 子供のいる時はヤバいと聞きますし」
「「そ、そうだな」」
という感じで、全員が賛同した。
今回の獲物は、単独行動の大きなイノシシと決まり、それぞれの役割りを果たす為の行動に移っていく。
「そっちに行ったぞー!」
「あいよー!」
イノシシは森の中を走りまわり、ケントチームのハンターに襲い掛かっていく。
「プギィーー!」
「うひゃ!? 危ねえ!」
イノシシの突進を森の木を盾にしつつ、ケントチームの誘い込みにイノシシは突っ込んで行く。
ザザザ、ザザーン!
藪に突っ込んで止まったイノシシは、別方向からの声に反応する。
「おい! こっちだぞ!!」
ガザガザザ、ズーーン!
声の主へと走り、突撃を敢行したイノシシであったが、その突撃は硬い木の幹に阻まれた。
木の幹で止められた体は宙に浮き、やがて地面へと落下する。
「ブゴォッ!!」
「よっしゃ、掛かったぞ!!」
「「オオー!!」」
木の幹にぶち当たったイノシシは、茂みの下の隠れた大穴に落ちて、穴の底へと頭から落下したのである。
「ひぃー、やっぱこぇーわ」
「ん、まったくだ。 生きた心地がしなかったぜ」
「「「しんどかった〜」」」
頭から穴に落ちたイノシシはぐったりとしているが、まだビクビクと足を痙攣させている。
「皆さん、お疲れさまでした。 あとは任せて下さい」
「「「お、お願いします」」」
俺はハンター達に労いの声をかけ、皆に水の入った皮袋を渡して休憩して貰った。
今回のイノシシの狩猟は、ハンター達に中心となって貰い、俺はサポート側に徹した。
転んだり怪我をしたりと、まだまだ動きがぎこちない所を手助けし、イノシシを罠のある方へと誘導したくらいで、最後の罠に嵌ってくれたのでホッとした。
木の幹にぶち当たった衝撃と落下によるダメージで、イノシシは気絶したと思うが、まだビクビクと動き生きている事は間違いない。
そんなイノシシの足を縄で縛りあげ、穴の中から引きずり出し、気絶中の前足も縛り、その縄を太い枝にまわして動きを止めた。
「すまないが俺らの糧になってくれ」
手をあわせた俺はそう呟くと、木の枝にかけた縄を渾身の力でひっぱり、イノシシの身体を持ち上げた。
「「「す、すげぇ」」」
ミシミシと鳴る縄を木の幹に廻して、そのまま縄を縛って固定する。
木に吊るされたイノシシは、頭を下にしてぶら下がり揺れていた。
俺はアイアンソードを手に取り、その切っ先をイノシシの喉に当て、一気に差し込み喉元を切り裂いた。
これが初めてではないが、驚く程に血が吹き出し、俺も含めてハンター達も後退った。
流れでる血飛沫はすぐに収まったが、イノシシの喉元から滴り落ちる血は、吊るされた木の下に大きな血溜まりをつくっていく。
俺は、その光景を暫くの間見ていたのだが、いつの間にか自然と頭を下げて、手をあわせていた。
なんでだか判らんが、そんな気分になったのだろうと思い目を開けると、ハンター達も頭を下げて祈りを捧げていた。
不思議と笑いが漏れ、そのまま笑ってしまった。
ハンター達もそれに釣られて笑いだした。
「オ、オレらはやったんだよな」
「ああ、俺らがやったんだぜ」
「そうだよ、オレたちはやり遂げたんだ」
「「「おおー!」」」
それぞれが命を掛けた結果、与えられた恵みに勝鬨の声を上げた。




