行商人、マリアンヌ
なんとか間に合いました。
今週は、この回までです。
村の窯場で騒動を起こしてから、二日経った。
マリアンヌこと、マリーは商人である。
父親が遺してくれた仕事は、行商人ではあったが性分もあって、他の行商人達に負けず劣らずの仕事で行商を行ってきた。
今年で、28歳となる若さではあるも、商魂逞しく強かな彼女は、まだ独身であった。
並居る男性商人を打ち負かし、現在の行商ルートを勝ち取ったからが故か、この仕事を継いでからは男っ気はないままであった。
そんな彼女ではあるが、ここリユート村に来てある男性に出逢い、興味深い仕事ぶりに関心を寄せていた。
その男性の仕事は、村の一画に造られた窯場の管理と製造。
鍛冶仕事かと思いきや、材木や建材の製造、薬の調合といった具合で、俄に信じ難い生産能力を持っていたのである。
これ程の人材は、大きな街にも居ないし、王都や何処の国にも居やしない能力の高さである。
そんな男が、なぜこんな危険な辺境の開拓村に居るのかも分からない上に、突如現れたゴブリン達の襲撃を退け、あまつさえ怪我人の命を救い、尚かつ復興を支援してきたと聞いた時、己の耳を疑った程である。
最初の出会いは、リユート村の恩人として、二度目は村長がいう程の人物か興味を唆られ、三度目は自身の目で見た異能の力と、その多岐にわたる生産の知識と製造の確かさは、正に神がかっていると確信を得ていた。
マリアンヌこと、マリーは思った。 この人しか居ない、商人として、すべてを賭けようと想うのであった。
◇◆◇
「姉さん? 姉さん!!」
「ふぇ!?」
「どうしたんすか? ぼーっとして」
マリーは達也の事を考えていて、使用人の男に呼ばれていた。
「ごめんなさい、ちょっと商売の事を考えていたの」
「そうですか、それはすいやせんでした」
「いいのよ、ぼーっとしてたのも事実だし。 ところで何かしら?」
「へい、明日の出発の件ですが、予定通りの朝出発でいいすか?」
「そうね、変更はないわ。 明日の朝に出発しましょう」
マリーは、使用人に明日の予定に変更はないと告げ、再び達也の事を考え始める。
どうしましょう。 どういう切り口でいこうかしら。
今までにない考え、新しい保存食や建材を生み出した叡智、どう扱うかは難しいわ。
村長さんは、あの方を信用してるから問題ないでしょうし、問題があるとしたら、私達の方よね。
何としても、彼を守らないとならないわ。 あの品の価値は、商人にとって途轍もない武器になるのだから……
「はぁ、難しいわね……」
マリーはため息と共に、思案を続ける。
◇◆◇
マリーは、今後の商いは達也のつくる商品を売る事に決めた。
その為にも、リユート村の村長をはじめ、達也を知る人々にこの村から、その類の情報を漏らさない様にと、口止めをお願いする事にした。
リユート村の安全と財産、達也に関する生産品と、その身の安全を確保しなければならないと説得して、村の人々から了承を迫ったのである。
結果は言うまでもなく、全員が快く二つ返事で認めてくれた。 誰しもが、恩のある達也を守るのは、当然であると答えたのであった。
あとは商隊の仲間から、情報が漏れなければ、何の問題はないと安堵する。
長年、この商隊を引き連れての行商は、何度も危機を乗り越え、信頼を得てきたからこそ、商いを続けて来られたのだから。
「姉さん、良うござんしたね。 これでまた、店が大きくなりやすね」
「ありがとう。 だけど今回の商いは、なにがあろうと情報を漏らさない様にしないと、私達だけでなく、この村の人達にも迷惑を掛けてしまうわ。 みんなもよく聞いて、絶対に秘密だからね!」
「「「はい、姉さん!」」」
マリーは万全の体制が整うまでは、他言無用だと商隊の仲間たちに言い聞かせるのであった。
男たちは勿論、ここの秘密は漏らさないと誓う。
「美味いよな、これ!」
「酒が進むんだ、これが!」
「「「燻製肉、おかわりー!!」」」
「ふっ、男ってちょろいわね……」
酒樽と肉に酔いしれる男たちを見て、マリーはまたひとつ仕事をうまく乗り越えていくのであった。
◇◆◇
マリーは、達也がお世話になっている家へやってきた。
出迎えてくれたのは、この家のご主人だったので、達也に用があると告げる。
「こんばんは、何かごようですか? マリアンヌさん」
「こんばんは。 えっとですね。 明日の朝に出発となったので、ご挨拶にきました」
「そうですか、わざわざ知らせに来てもらい、恐縮です」
「あ、あの、それでですね。 タツヤさんのご注文なさった物資は、15日ほど掛かりますので、例の件の方は大丈夫かなと思いまして」
達也は、鉄や銅といった素材を注文し、可能であれば生産品との物々交換を申し出ていた。
マリーにとっては、もってこいの条件だったので可能であるとし、早い段階での安定供給を確保したい旨を伝えたのであった。
「ああ、はい。 大丈夫ですよ、分かってます。 生産品の件は、しっかりと準備をしておきます。 販売に関する事はお任せしますので、よろしくお願いします」
「はい! おまかせ下さい!」
達也にお願いした生産体制の件で、確認がとれたとマリーは安堵し、販売を任せてくれるとの言葉に、思わず笑顔で答えた。
マリーは、明日の早朝に立つと告げ、次回の訪問はひと月後と、達也と約束を交わして、その翌日の早朝、旅立っていった。
マリーは、運命的な出逢いを手に入れた。
あとは、私たちの努力と、結果しだいだと、胸を躍らせる想いを秘めての旅立ちである。
◇◆◇
リユート村を旅立ち、荷馬車は街道とは呼べない道を走っていた。
「絶対、ものにしてみせるんだからー!!」
マリーは目を輝かせ、拳を握りしめて思わず荷馬車内で叫んでしまった。
「姉さん! 危険ですぜ、座ってくだせい!」
「そんなこと、わかってるわよ! ちょっとは気を利かせなさいよ!」
気分良く、胸にふくらむ想いを、使用人たちには伝わっているのかいないのか別とし、主の幸せより、いまは身の安全を優先して欲しいと、旅仲間たちは思う。
「「「姉さん、座って下さい!」」」
「わかったわよ、もうー!」
主であるマリーは頬を膨らませるが、旅の仲間たちを乗せて荷馬車は走る。
主の幸せを願う、仲間たちの想いも乗せて。
次回は、2/8の0時更新となります。
次週も、よろしくお願い致します。




