第9話 エテルニス王国にて国王と謁見する
「その……リクシス王子。遺産が回収済みと言うのはどう言う……?」
「だから、俺はリクシスじゃないんだよ」
このまま誤解されたままだと会話が通じないので話してやることにする。
「俺は違う世界で死んでこの世界に転生した人間なんだ」
俺の告白に三人は目を丸くする。
「魔導王ネクロヴァーンが自分の朽ちた肉体を復活させるために俺をこの世界に呼びだしたんだ。本人は憑代って言ってたな。そんで、俺がこっちの世界で活動するのに必要な肉体としてこのリクシスが選ばれたってわけらしい」
アルテミシアたちが大変な境遇にあると言うのならせめて真実を明かしておこうと思う。大抵の物語では異世界から来たものは自分が転生者ということを偽るが、偽ったところで益がないのならする必要がない。
「それ、信じろって言うのか?」
「伝説の魔導王の憑代にリクシス王子が? 御伽話でもそんな突拍子のない話なんて聞いたことないよ!?」
ザックスとミリアナは素直に信じることができずに驚くのだが、アルテミシアだけは口元に手を当てて考え込んでいる。
「つまり、貴方は記憶を失っている、もしくはリクシス王子ではないと言うことですね?」
「記憶は……確かに失ってるな。元の世界で何者だったかも覚えていないわけだし」
あれ? そう考えると俺が記憶を失ったリクシスという可能性も生まれるのか?
いやいや、ネクロヴァーンに話を持ちかけられたのは魂が身体に入る前だ。それはあるまい。
「正直なところ、私としても貴方がリクシス王子であるかはこの際良いのです」
アルテミシアは俺をまっすぐ見ると告げてくる。
「ですが、争いを収めるためリクシス王子のフリをしていただけないでしょうか?」
彼女はそう言って頭を下げるのだった。
※
『ロヴァン王国第七王子、リクシス=ロヴァン様が入場されます』
名を呼ばれ中に入るのだが周囲を貴族に囲まれてドキドキする。
何せ今から俺は皆を騙さなければならないからだ。
前まで進み膝をつく。王座に座っているのがこの国の国王レオニス=アウグトゥス=エテルニスだ。
「よくぞ無事だったな」
「そこにいるアルテミシアに救出していただきましたゆえ」
結局、俺はアビスエンドにてアルテミシアに救出されたことにした。
「行方不明になっていたそなたが無事だったことを非常に嬉しく思う。だが、リクシス王子。そなたが巻き起こした事件のせいで大陸は揺れている。なぜアビスエンドに居たのか? 何が起きたのか説明してくれんかね?」
周囲の視線が鋭くなる。知らされた話によると俺が行方不明になったことで周辺国が口実に攻めて来ているのだという。
実際に身内を戦争に駆り出されている者にしてみれば元凶といったところだろう……。
「どうした、説明できぬのかね?」
「陛下、よろしいでしょうか?」
アルテミシアが横から口を挟む。
「アビスエンドはおそろしい場所です。Sランクの魔物が平然と動き回っておりますし、即死する罠もあります。私たちが王子を保護した時、彼は憔悴し切っていたのです」
事実とは違っているのだが、アビスエンドがそういう場所なのは間違いない。
周囲の人間もアルテミシアの言葉を信じ険しい表情を浮かべた。
「生還が絶望的とされるアビスエンド奥地にて王子は生きておりました。ですがその代償に記憶を失ってしまったのです」
『なんと……』
『お可哀想な』
周囲の視線も同情へと変わる。アルテミシア曰く、この国の貴族は美少年好きらしい。俺の容姿で不遇な状況を伝えれば上手くいくと確信していた。
「そうであったか……」
レオニスも俺に同情的な表情を向けてくるのだが、これはポーズでもある。事前にアルテミシアからそう言う設定だと伝えられており、この会話は茶番だからだ。
「私の軽率な行動にてこの国の方々に多大な迷惑をお掛けしたことをお詫びします。ですが、どう償って良いのか……」
涙ぐむ演技をする。あまり長く話すを記憶喪失という嘘のボロが出る。何せ、この中には元のリクシスと会話をしたことがある貴族もいるのだから。
「王子の生存が確認できた以上、周辺国も我が国に侵略する口実を失った。彼は我が国で保護して、交渉の後ロヴァンへと返還することとする」
レオニスの宣言に周囲の貴族は納得してくれた様子。最初の敵意が混ざった視線は消えており、しばらくの間は大丈夫そうだ。
アルテミシアと目が会うと彼女は目配せを送ってくる。
これだけの大人数を騙しているというのに豪胆なこと。
彼女にとっては戦争を収めるのが一番重要で、後のことは後で考えるということらしい。
「滞在中の彼の世話は、エステル。お前がしなさい」
「はい、承りましたわ」
名指しされたのはエステル=エテルニス第四王女。歳は俺の肉体とそう変わらない十二歳とのこと。
美しい容姿と豪華なドレスに身を包んでいるが身体つきは慎ましく今後の成長に期待したい。
「リクシス王子、こちらに」
彼女は俺の手を握ると部屋を出るのだが……。
「えっ?」
出た瞬間俺を強く睨みつけてきた。




