第20話 深夜の来客は大抵厄介ごとを持ってくるものだがもっと厄介そうな話だった
「納得ができるものか!」
「よりによってエステルに渡すなんて!」
「それならば姉上や兄上に渡る方がまだ納得ができますぞ!」
案の定というべきか、彼らは憤慨して俺に詰め寄ってきた。
「ストーップ。もう結果は出てるんだからさ」
俺は両手を前に出すと、それ以上三人が近づかないように牽制をする。
「それにしたって、リクシス王子!」
なお、言い募ろうとするヴォルフを無視した俺は、
「エステル。その賢者の石を手に持ったまま魔法を使ってみてくれよ」
「はい。こ、こうですか? ファイア」
賢者の石が輝き巨大な炎がエステルの手から放たれた。
「一体、何を?」
困惑するヴォルフを横目に、賢者の石の色が変わるのを確認する。
「はい、これで持ち主登録が済んだな」
「「「えっ?」」」
ヴォルフとフェアリエルとエリオットの三人が目を丸くする。
「何だ、知らなかったの? 賢者の石は最初に魔力登録した持ち主にしか使えないって」
俺もナビゲーターに聞いて初めて知ったのだが、しれっと話しておく。
「……ということは、もう我々が使うことはできない?」
「それがあれば、私の魔法の研究が大いに進むというのに?」
「生意気な商人どもを力づくで従えられるのに?」
いざとなったらエステルから奪うつもりだったのだろうが、これで御破算だ。
「というわけで、世話になっている義理は果たしたのでこれからもよろしくな?」
俺はそう告げると、訓練場を後にするのだった。
『ブルルッ』
『ピキピキ〜♪』
『それにしても良かったのか? あの娘が賢者の石を保有して』
夜が更け、俺はクロノスの毛並みの手入れをしながらオリハルコンを撫でているとナビゲーターが質問をしてきた。
「良いも悪いもないだろ? エステルが賭けに勝ったんだから」
『惚けるでないのじゃ、事前にお主がオリハルコン合金の弱点をあの娘に呟いておったではないか?』
流石に一緒に行動しているだけあってか、俺がやったことのすべてを見逃さない。
『今頃、奴らは賢者の石の所有権を書き換える方法に辿り着いているはずじゃぞ?』
「賢者の石の所有権は持ち主が死んだ後、次に触れた人物に書き変わる」
おそらく今頃三人とも調べがついているのだろう。
『お主、最初からそれが狙いだったか?』
「誰が暗殺者かわからなければ、これをきっかけにエステルに迫る危険を潰してやろうかと思ってな」
暗殺者の裏取りをしたところで、相手がこの国の中枢を支配している権力者だった場合、俺には手出しする術がないのだ。
自分たちの正当性を説き、結局どこにも属さないエステルは騒動の責任をとらされることになる。
「今回、賢者の石を与えたことで、やつらは殺し方にも気をつけなければならなくなった」
殺した後で自分が確実に触れられる状況でないと、他の王族に横からかっさらわれてしまうだろう。自分は王族殺しの罪を着せられた上でだ。
「だから、殺し方は一択。寝静まった後の暗殺ってことになるな」
日中だとエステルは政務に励んでいるし、俺の世話をしている。そんな中殺しにかかろうとしてもバレるリスクが高い。
その点、夜は別々なので後数時間もすれば絶好のチャンスが巡ってくるだろう。
あらかじめエステルの部屋に潜伏しておき、暗殺者を排除していくのが俺が立てた作戦だったのだが……。
ーーコンコンコンーー
「ん、こんな深夜に誰だ?」
クロノスとオリハルコンを影に戻すと、俺はドアの前に立った。
可能性は低いが、逆恨みでこちらにも暗殺者を送り込んでこないとは限らなかったからだ。
「……エステルです」
「エステル!?」
驚いてドアを開けると、可愛らしいネグリジェに身を包んだエステルが立っており恥ずかしそうにこちらを見ていた。
「部屋。入れていただいてよろしいでしょうか?」
「ああ、勿論構わないが……」
本当は構う。大いに構う。
こんな夜遅くに淑女、それも王族と同室したことがバレたらどのように利用されるかわかったものではないからだ。
それでも、切羽詰まった様子を見せるエステルを、俺は拒絶できなかった。
「落ち着いて、聞いてくださいね?」
「ああ」
「私は過去を水に流したわけではありません。ですが、王子の命を蔑ろにするつもりもないのです」
「それは、嬉しいというか……」
お互いに同じことを想いあっているようで嬉しかったりする。
「今夜は私も貴方と一緒の部屋、同じベッドで眠らせてください」
「いや、ちょっと待て? 話が繋がっていないぞ?」
どうして、エステルの方からそのような提案をしてきたのか、俺は理解が追いつかず質問をするのだが……。
「ここからは大声は禁止です」
エステルは口元に指を立てると言った。
「リクシス王子、貴方は暗殺されそうになっているのです」
「それはお前のことだっ!」
俺はエステルの忠告を忘れ叫んでいた。




