第21話 暗殺者に狙われている夜に男女がベッドに入って何も起きないはずがない
「こ、声が大きですよ、リクシス王子」
エステルは慌てて俺の口を手で塞いできた。
指輪が唇に当たっているのだがそれを抗議しても無駄だろう。
「そっちが変なことをいうからだろ?」
俺は幾分音声を落とすと、エステルを見る。
「唐突なのは理解しております。ですが、事態は一刻を争うのです」
エステルはそう謝罪しながらも真剣な表情で俺の目を見た。
「それで、どうして俺が暗殺されるって?」
狙われているのはそっちだろう?
そんな疑問を浮かべながらも彼女に詳細を求めるのだが……。
「実は、偶然立ち聞きをしてしまったのです」
エステルは胸の前で拳をぐっと握ると説明を始めた。
「ノクティスをご存知ですか?」
「確か、エテルニスの西側に位置する鉱石を輸出している小国だよな?」
俺の言葉を肯定してエステルが頷いた。
「そのノクティスの者がリクシス王子を殺すために暗殺者を送り込んでくると話していたのです」
「なるほど。しかし、今の状況で俺を暗殺するのは国を滅ぼす結果にしかならないだろう?」
俺がエテルニスに滞在しているのは利害関係が一致しているからだ。
元々の発端は俺がエテルニスで死亡したということから始まっている。
生存していたことを各国にかけ合って停戦を持ちかけている状況なのだ。
ここで俺が死ねば、王族殺しが確固たる真実となるので戦争は避けられなくなるだろう。
「祖国の汚点を晒すようで偲びないのですが、我が国も一枚岩ではありません。戦況の不利を察して、他国と内通する貴族や王族も存在しているのです。その者たちにとってはリクシス王子が邪魔なのですよ」
彼らにとってエテルニスの敗戦は決定事項となっており、その為に投資を行なっていたのだから、今更エテルニスが生きながらえるという未来は都合が悪いとのこと。
「随分と身勝手な連中だな……」
俺だからまだいいが、元のリクシス王子だったら泣いてしまっているだろう。
「生憎だが、俺に護衛は必要ないぞ?」
「どうしてですか!?」
「俺はエステルが思っているよりも強いし、そもそもエステルは弱い」
初級魔法しか使えないということだし、体術や武器を扱う訓練もしていないのだろう。
「それは……そうですがっ!」
「何より、エステルが俺を殺しにきた暗殺者じゃないと証明できるのか?」
俺の問いにエステルの瞳が揺れた。
「確かに、その証明はできません」
エステルは寝間着をぎゅっと掴むと声を震わせた。
「私は貴方を殺したいくらい憎んでいましたし、その態度を隠そうともしませんでしたから」
「ならこの話はここで終わりだ」
「ですが、アビスエンドから戻ってきた貴方は殺す程の悪人ではないと思います。ラピスやラインハルトと仲良くしており、私にも賢者の石を授けてくださいました」
「賢者の石はお前の知恵によるものだろう?」
「あの時、リクシス王子があの金属の弱点を教えてくださらなければ思いつきませんでしたよ」
エステルはじっと俺を見つめると、
「今の私には賢者の石があります。これを使えば並の魔導師よりは戦力になるかと思います」
どうしたものか?
本来は彼女に暗殺者を仕向けそれを防ぐことで事件を片付けるつもりだったのだが、これでは彼女を狙う暗殺者をいつまでも片付けることができない。
「でも、暗殺者が今日来るとは限らないんだが、毎日一緒に寝るつもりか?」
「も、勿論です!」
エステルは一瞬どもるとそう答えた。
(まあ、仕方ないか)
狙われている者同士都合が良いというのもある。
俺は彼女と一緒に寝ることにした。
「すーすー」
『深夜三時か。中々頑張った方じゃな?』
先程まで暗殺者を警戒していたエステルだが、とうとう寝息を立て始めてしまった。
「無理もないだろう。日中は政務をこなしてるんだから」
自由な俺と違い、彼女は毎日多くの仕事を片付けているのだ。この時間まで起きていたことの方が凄いだろう。
俺はエステルの頬を撫で髪を撫でてやる。
「うぅーん?」
くすぐったかったのか、可愛らしい寝言を言うエステル。
「これは、可愛いな?」
起きてる時は憎たらしい面もあると思っていたのだが、俺の命を守りにきて頑張る姿にはどうにも絆されてしまいそうになる。
『抱けば良いのではないのか?』
ナビゲーターが余計なことを言い出した。
「抱けるわけないだろ?」
確かに可愛いとは思うし、肉体の歳の割には成長している方だと思う。
だが俺はロリコンではないのでエステルに欲情することはない。
(オリハルコン。そっちの様子はどうだ?)
『ピキ〜』
エステルのベッドに潜り込ませたオリハルコンに念話を送ると『まだ何もきてないよ』と返事が戻ってきた。
(このままだと今夜は空振りかな?)
暗殺にもっとも適している時間というのなら今から小一時間程になるだろう。全員が寝静まっているし、日が出るまでに活動しなければ逃亡も難しくなるからだ。
次の瞬間、刃物を抜く音がかすかに聞こえた。
余程の手練なのか、ほとんど音を立てることなく俺も注意していないと気づけなかっただろう。
「悪く思われるな?」
暗殺者は俺とエステルが眠るベッドに近づき小声でそう言った。
(なん……だと?)
あり得ない声の主に俺は一瞬固まってしまった。
ーーガタンッーー
『何事だ?』
『リクシス王子の寝室の方で物音がしましたっ!』
「ちっ!」
遠隔で音が出るようにしておいたのだが、その音を聞きつけて警備の人間がこちらに向かってくる。
慌てて逃げていく暗殺者。
『リクシス王子、御無事ですか!』
「ああ、大丈夫だ。何も問題ない」
「う……。すみません。眠ってしまっていました」
「「あっ!」」
部屋に入ってきた警備兵が俺とエステルが同衾しているのを発見する。
「ち、ちがうんですっ!」
慌てて否定するエステルを警備兵は気まずそうに見るのだが……。
(どうして、ラインハルトが俺を殺しにきたんだ? いや、狙いはエステルなのか?)
俺はエステルを見ながらこのことを告げるべきか悩むのだった。




