第17話 愛想の良い王族には裏があるが、彼らが欲しがっていたのはよりにもよってうんこだった
侍女に案内された俺は、エステルが待つ食堂へと来たのだが、
「えっ?」
そこにはエステルの他に三名おり、席に着いていた。
まず上座に座っているのはこの国の第一王子ヴォルフだ。
彼は俺に気付くことなく書類に目を傾けると眼鏡をクイっと右手で直している。
年齢は二十歳ということらしく、読んでいるのはこの国の政治に関わる重要書類だろう。こんなところで読むというのはこちらを試しているのだろうか?
続いて、俺から見てヴォルフの左に座っているのは第二王女のフェアリエル。十七歳ということで、ラメを散りばめた青のドレスを身につけ特大サイズサファイアがいくつも使われたネックレスを身につけている。
エステル級の美少女で、立派に育った胸を強調しており思わず視線が吸い寄せられそうになる。
そして、正面の一つ席を開けて座っているのが第四王子のエリオット。こちらは先程会っているのでわざわざ紹介する必要はないだろう。一応年齢は十五歳ということらしい。
ヴォルフが書類から目を離し三人が俺に視線を向けているのだが……。
「……えーと」
俺は席に座ることなく立っているエステルに顔を近付けた。
「どういうことなんだ?」
「わかりません」
昨晩は何も言っていなかったのに急に王族三人と一緒というのは不意打ちすぎる。
「わからないって、そんなことはないだろう?」
「ただ、朝になったところで、兄様たちがリクシス王子との会食を希望されたのです」
困惑しているエステルを見るとどうやら彼女も寝耳に水の話だったらしい。
「まあいいか、とりあえず飯食いたいし」
上座が独占されているので、俺とエステルは末席に腰を落ち着けようと移動するのだが……。
「リクシス王子。こちらに座るといい」
ヴォルフ王子が冷めた目で自分の左に座るように指差した。
「あら、お兄様。リクシス王子は私の隣が良いとのことですよ?」
フェアリエルが腕を組みニコニコと俺に訴えかけてくる。
「いやいや、立場もあるでしょうから。リクシス王子は俺の左に座るべきかと」
エリオット王子も負けじと自分の下座に俺を導こうとしてくる。
俺はエステルに助けを求めようとするのだが、彼女はフェアリエルから一つ席を下座に座っており、目を合わせようとしなかった。
(一体、何なんだ?)
やつらは何かを企んでいるのだが、エステルのことは眼中にないらしい。
『どうやらそれぞれ思惑があるようじゃな?』
ナビゲーターの声が聞こえる。
(それはわかるけど、誰の隣に座るのが正解なんだ?)
この選択肢で何かが決まってしまう気がする。誰の派閥に所属するとかそういう話をされるのだろうか?
『取り敢えず、全員の出方を伺うのが良いのじゃ』
ナビゲーターがそんな提案をしてきた。
『リクシスが仮にも王族とはいえ、この国の王族と接する機会はそうそう作れるとは思えぬのじゃ。せっかく向こうから接触してきたのならこの機会を活かすべきじゃ』
一理あるな。
俺はフェアリエルの正面へと座った。ここなら全員と会話をすることができる。
俺が座ると同時に料理が運ばれてくる。
ふかふかのパンとコーンスープの味わいに舌鼓を打つ。
この国の料理はとても美味しく、海外の一流レストランで食事をしているかのような感動を俺は味わっていた。
スープやサラダに加えて仔羊の香草焼きなど朝の活力になりそうな料理が次々と運ばれてくる。
俺はそれらの料理を楽しんでいたのだが……。
「ところでリクシス王子。滞在中に不便はないだろうか?」
ヴォルフが話しかけてきた。
「特にはない……いえ、ありませんが?」
流石に王位継承権一位相手に乱暴な口調はまずいと思い言葉を改める。
「本当に? 未熟なエステルでは貴方を怒らせないかとヒヤヒヤしているのですけど」
「……いえ、彼女はとても良くしてくださいますよ」
初日にパンとスープが入ったトレイを投げつけられたことを思い出してしまったが、あれ以来敵意を向けられることはないので流しておく。
「それにしても、リクシス王子は気品がありますな。そこらの平民と違い、ただその場にいるだけで圧倒的なオーラを放っており目が離せなくなりそうですよ」
「……」
お前さっき訓練場にいる俺に気付かなかったよな?
そんな冷めた視線をエリオットに投げかけるのだが、当人はあの場に俺がいたとは知らずおべんちゃらに力を入れていた。
「皆さんのような方々とともに食事をさせていただけるだけで、この身に余る光栄ですよ」
俺は精一杯の営業スマイルを浮かべるのだが、どうにも不自然で頬の端が引き攣ってしまう。エステルはそんな俺をチラリと一瞥した。
頼むから助けてくれ……。
「時にリクシス王子、王子が持ち込んだ魔物の素材のお蔭で、宮廷内は大騒ぎなのだが?」
「それは申し訳ないです。ですが、いつまでも保存できるものではありませんので」
空間収納系の魔導具に入れていたことになっているのだが、その手のアイテムでも時間経過は避けられないと聞く。俺は素材を持ち込んだ言い訳をヴォルフに告げる。
「希少な素材も沢山あるのでしょう? 是非見学させてくださいな」
フェアリエルは目を輝かせると同行させてくれと要望を出してきた。
「解体した素材はどうされるとつもりかな? 国に持ち帰るにしても荷物の量が増えてしまうでしょう? 俺は商人に顔が利きましてね」
どうやら意図がわかってきた。
彼らが俺に接触してきたのは魔物の希少な素材を入手したいがためらしい。
「生憎、今のところ手放すつもりはありませんよ」
素材はそのままラピスに預ける予定になっているのだ。
貴重な素材とはいえ、エリクサーには変えられない。
「……この国に迷惑を掛けておいて、少しくらい気を使うつもりはないのか?」
「そうよ、誰のせいで我が国が攻められていると思っているの?」
「あまり調子に乗るなよ?」
ところが、三人は途端に態度を翻すと本性を見せてきた。
「そこを突かれると確かに痛いですね」
俺がやったことではないと開き直ってはいるのだが、過去のリクシスの行いについてはどうしようもない。
「わかりました、俺も一つだけ交渉に応じましょう」
魔物の素材はかなりの量がある。多少彼らに譲っても問題はないはずだ。
「それで、何が欲しいんですか?」
俺が彼らに問いただすと、
「「「賢者の石を」」」
「えっ?」
オリハルコンのウンコだぞ、あれ?




