第三話 憤怒の炎と青き魔族
「……冗談じゃない!」
俺は声を荒げた。
何が「すべてを捧げる」だ。ふざけるな。
利用されて、弄ばれて、最後には捨てられる――そんな未来しか見えない。
拒絶の叫びと同時に、胸の奥の炎が暴れ出した。
赤黒い焔は一瞬で広間を呑み込み、ノクターリアの姿すらかき消す。
「はぁっ……はぁっ……」
息を吸うたびに胸が焼けつく。
心臓を握り潰されるような圧迫に、呼吸すらまともにできない。
「ぐっ……があああっ……!」
痛みはすぐに怒りへと変わった。
頭の中を埋め尽くすのはただひとつ――理不尽を叩き壊したいという衝動だけ。
黒炎はさらに膨れ上がり、石造りの広間を軋ませながら天井まで伸びていった。
「その力は……憤怒の力」
振り向けば、さっき炎に呑まれたはずのノクターリアが立っていた。
「本来、その力は七大魔族と呼ばれる存在にしか許されない禁忌の力。
人間が触れれば、心も魂も一瞬で焼き潰される……なのに――」
彼女はじっと俺を見つめ、かすかに息を呑んだ。
「なぜあなたが持っているの?人間で正気を保てるはずがない……どうして狂わずにいられるの?」
彼女は一歩、また一歩と近づく。
舞台の役者のように笑みを浮かべ、両手を広げた。
「契約を交わしましょう……あなたを助けてあげるわ」
胸の奥の炎がさらに暴れ、喉の奥から血の味が込み上げた。
身体が裂けるように痛い。今にも自分が自分じゃなくなる。
ノクターリアは笑みを消さず、ただ俺を見つめる。
「選びなさい。契約か、破滅か」
広間を揺るがす黒炎。
苦しみに耐えながらも、俺の手は――無意識に彼女の差し伸べた手へと伸びていた。
ノクターリアの指先が俺の手を絡め取った瞬間、彼女の顔がぐっと近づく。
「――対価を忘れないで。あなたの魂、死んだときには私のものになる」
そのつぶやきと同時に、唇が深く重なった。
舌を絡め取られた瞬間、赤黒い炎と青黒い魔力が全身を駆け抜けた。
「……ッ!!」
思考が一瞬で吹き飛ぶ。
魂の奥まで灼き尽くされるように、熱が全身を走った。
口づけを交わした瞬間、魂と魂を無理やり繋ぎ合わせる、呑み込まれるような契約の儀式。
唇が離れる頃、俺の右手の甲に赤い紋章が焼きついていた。
焼け焦げる痛みと同時に、異質な力が染み込んでいく。
「――これで契約は成立したわ」
ノクターリアの艶めいた声だけが耳に残り、俺の意識は闇へ沈んでいった。
これにて序章終了となります。
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次話から物語が本格的に動き出します。お楽しみに!




