70.披露
部隊名1-1と呼ばれる少年少女は、ビルの最上階である四階に辿り着いた。一番乗りであった。
敵マフィアは階段にバリケードを築き、徹底抗戦の構えをとっていた。
「1-1よりコントロール。最上階手前に到達。予測通りバリケードありランチャー使用の許可を申請する。」
「コントロールより1-1。ランチャーの使用は却下。拘束対象を死傷させる可能性がある。手榴弾迄の火器で対応を求む。」
「1-1、了解。」
隊長格の少年は、胸にぶら下げている手榴弾を外し、バリケードへと投げ入れる。
「副長、四秒後にもう一発だ。」
「了解。」
一発目の手榴弾が爆発し、爆発音の中に悲鳴が混じる。素早く副長である少年が手榴弾を投げ入れる。
きっかり五秒後に爆発。今度は爆発音だけで悲鳴は聞こえなかった。
「突撃。」
隊長の命令と共に少年少女は躊躇うことなく最上階へ階段を駆け上がる。砂塵舞う中、人影が見えた瞬間に銃弾を叩き込む。
情報では廊下の最奥の扉に三公と呼ばれるマフィアの三人が居るはずだ。
左右の扉を同時に開け、隙間から手榴弾を転がし、扉を閉める。
密閉された空間で手榴弾が爆発する。爆発音に幾つもの悲鳴が混じる。爆風の影響が治まったところを見極め、扉を開き、一斉射を部屋にばらまく。
銃を構えていたマフィアは銃弾を喰らい、床に倒れた。すでに床に倒れていたマフィアへは止めの一撃が加えられる。
小隊は部屋に入り、見逃しが無いか確認しつつ、生き残りを探し、止めを刺していく。
老若男女関係ない。この部屋に、いやこのビルに居る人間全てが標的だ。
「エリア1、クリア。」
「1-1へ、2-1が階段を上がる。FF注意。」
「1-1、了解。」
FFとはフレンドリーファイア。同士討ちのことだ。仲間同士で殺し合うことほど非効率なことはない。
「2-1、昇降中。まもなく、廊下。現着。エリア2を制圧開始する。」
「1-1、2-1を確認。了解。制圧完了まで待機。その後、合流する。」
向かいの部屋から手榴弾の爆発音と悲鳴、続いて銃声が続いた。
「2-1、クリア。」
こうして、1-1と2-1の二個小隊二十名は合流し、最奥の扉の前に辿り着いた。
最奥の扉は、防弾耐爆仕様の観音扉だった。
まずは、天井に取り付けられている監視カメラ二台を破壊する。続いて、マイクや隠しカメラが無いか捜索をする。
ザラリとしたコンクリート製の壁に埋め込まれている形跡はなかった。
観音扉の横に備え付けられているテンキー付きのインターホンがこの扉を開錠するシステムだろう。
インターホンの上部には黒いドームが取り付けられている。中にカメラとマイクが仕込まれている可能性が高かった。
とりあえず、布テープを巻きつけ、視界を塞ぐ。
「1-1からコントロール。観音扉に取り付いた。蝶番は耐爆仕様。C4では破壊不能。指示を請う。」
「コントロールから1-1。工兵を送る。状況を維持せよ。」
「1-1、了解。周辺警戒厳。2-1はエリア1および2の再検索実行。1-1の半分は階段にバリケードを築け。残りはここを守備。」
『了解。』
少年少女は命じられた場所へと散っていく。
左右の部屋に各五人が飛び込み、生き残り及び隠し通路を探す。
階段へ五人が駆け出し、周囲に散らばった瓦礫を積み上げ、簡易陣地を構築していく。
たちまち、最上階の最奥の部屋以外はカラーズ大隊の制圧下に置かれた。
「コントロールより各隊へ。目標ビルの制圧を確認。ボス部屋の制圧にかかる。1-1、2-1はボス部屋前で戦闘配置。第1、第2の残りの小隊は、ビル内を検索。第3小隊は周辺警戒。敵の増援に備えよ。第4小隊はビル周辺に隠れている敵を掃討しろ。多少の民間人への被害は許容する。」
『了解。』
アニョウは流れる様な作戦行動に安堵していた。だが、満足はしていないし、安心もしていない。ボス部屋の内部に敵が何人立て込んでいるか分からないからだ。今のところ多少の被害は出たが、最終的には許容範囲だと考えている。殺し合いが被害ゼロで終わる訳が無いと最初から考えている。
被害を如何に少なくするかが、指揮官や参謀の仕事だ。被害ゼロであれば文句は無いが、そんな戦場があるなどと信じていない。
―ビルの制圧に十五分。これはやや遅いな。できれば十分を切って欲しかったが、初陣ではこの程度だろう。
各隊の連携の甘さ、行動の無駄の多さが時間短縮の妨げとなったな。ここで問題が明らかになったのは喜ばしい。
次の訓練の課題だな。今後は小隊単位の訓練より中隊単位での訓練時間を増やした方がいいな。まあ、これは教官達も同じことを考えているだろう。
敢えて俺が指摘する必要は無いだろう。
さて、1-4が上手くできるだろうか。訓練の成果を見せてもらおう。―
司令部=コントロールが幾つも飛ばしているドローンの一台がビルの屋上をモニターに映していた。
そこには十人の少年少女、一個小隊が居た。
十人のうち三人一組を三組となし、屋上へ何かの機械を何度も押し付けている。人間の肩程の高さに直径六十センチほどの円柱形をしており、側面にモニターとキーボードが付属していた。
超音波検査機、赤外線検査機、X線検査機等をミックスさせた透視装置だった。これで屋上からボス部屋内部の構造と人員の配置を確認する。
透視装置の画像は、司令部に送られてきており、ボス部屋の内部が丸見えだった。コンピュータによる補正が掛けられ、天井から直接覗いているかの様な錯覚するら起こさせる。
カラーズ大隊がカンパニーのトップであるハーモニーの管轄になってから、アニョウはこういった機械類の配備を推進していた。
1-4小隊は、屋上に黒い線上の物を仕掛けていく。仕掛け終わったものは直径二メートルの円だった。
それを隊長が監督し、スムースに進めさせている。
―準備は完了したな。では仕上げのフェイズに突入か…。―
「1-4より各隊。状況02を開始する。十秒前。」
1-4の小隊長の声は少女の声だった。幼く、舌足らずな声が無線に響く。
戦場には似つかわしくない。だが、先ほどからの無線交信は全て少年少女が行っている。
子供の声しかしない異様な戦場が、展開されていたのだった。
「3,2,1,0.」
カウントゼロと同時に円状の黒い線が爆発する。屋上のコンクリートは円形に綺麗に切り抜かれ、ボス部屋へと落下していく。
一か所目は、三公の真後ろ。二か所目は、その護衛の頭上。三か所目は、観音扉の直上。
同時にコンクリートの円が落下し、一か所目と二か所目の穴に1-4の面々が飛び降り、銃撃を加える。
三か所目の円は、観音扉を支える構造物を破壊し、観音扉が内側へとゆっくりと倒れる。
即座に廊下に待機していた少年少女がボス部屋に突入する。
だが、勝負は決まっていた。三人の老人を除き、敵マフィアでボス部屋に生きている者は居ない。1-4が後ろと右側から老人三人に銃をつきつけ、拘束している。
突入部隊は、周囲に敵勢力が無いか確認をするが見当たらない。そのあたりは、透視装置を使用し確認済みだが、機械を完全に信用してはならない。
己の目でも安全を担保しなければならない。そう教官に押し込まれたからだ。教育の成果がここに発揮されていた。
「1-4,目標保護。」
「1-1、クリア。」
「2-1、クリア。」
「コントロール了解。1-4は保護対象を確保し、脱出。他の部隊はこれを援護。」
『了解。』
1-4は三公と呼ばれる老人三人に猿轡を噛ませ、目隠しをする。そして両手首と両足首を軍用の結束バンドで素早く拘束し二人で一人を担ぎ上げる。
「1-4、撤収準備完了。」
「了解。1-1、2-1が先導する。走れ。」
1-1,1-4,2-1分隊が一斉に廊下を走り、転げ落ちるかのように階段を走り降りる。その脇を他の部隊が固め、敵の接近に備えた。
玄関に辿り着くと同時に黒いワンボックスカーが滑り込む。後席ドアは開かれており、1-4は三公を担いだまま、車にそのまま乗りこむ。と同時に1-1の一人がドアを閉めた。車は急発進をし、現場から離れていく。その前後を挟むように別の黒いワンボックスカー2台が横道から取り付いた。
車の護衛チームだ。
「コントロールより確保チームへ即時撤退せよ。撤退ルートは初期値のまま。繰り返す。撤退ルートは初期値のまま。」
『了解。』
その命令で一斉にビルから少年少女が走り出す。路地裏に走りこむ者。マンホールから下水道へ降りる者。近くの駐車車両に乗り込む者。様々な方法で蟻の子を散らす様に撤収していく。
ビル内から人気が消えるのに三分と掛からなかった。
ほんの二十分ほどでその四階建てのビルは、墓標と化した。百人近いマフィアとその関係者の血を吸い込んで。
恐らく、二度と買い手はつかないだろう。解体されるしかないビルだけが残された。
京華国の王国進出が絶たれたことは明白だった。
そして、カラーズ大隊のお披露目として十分な戦果だった。
この様子を宣材として使用すれば、人質奪回部隊として売り込みができるだろう。
遠く安全な場所で映像を見ていたハーモニーの幹部連は、確かな手ごたえを感じていた。
「この人質奪還ビジネスはイケる。」
幹部の一人が呟いた。




