69.突入
夜明け近くの王都の一角。雑居ビルの中で、数十人の少年少女達がいた。
まだ、日が昇る前で気温はそれほど上がっていない。
全員が都市迷彩の野戦服を着こみ、ヘルメットをしていた。手に持つ武器はP-90。体にぶら下げるのは、幾つかの手榴弾と弾倉と一本のナイフ。
そして、モノクル型のインカムだった。
モノクルの液晶部にはカウントダウンが表示されている。
残り五分。作戦開始まですこしばかりの時間がある。
今回に限りこの通常装備に加え、全員がボディカメラを装着している。
カメラの映像はリアルタイムで本部に送られ、カンパニーの幹部連がカラーズ大隊の仕上がりと成果を見守っていた。
この様に少年少女が潜伏している雑居ビルが他に5か所あった。
商業区画の一区画を包囲する様に待機している。
今回、カラーズ大隊に与えられた命令は、殲滅と保護。
殲滅対象は、京華国のマフィア。保護対象は、幹部の三公。
保護とは言っているが、実際は拉致である。
王国に勢力を伸ばしつつある京華国のマフィアを王都から一掃するのが今回の作戦だった。
京華国は、人を送り込み、そこに根付き、そこに京華国文化圏を形成し、ゆっくりと支配の根を広げていく。
他国では、一区画が文化圏に飲み込まれ、そこで違う文化が広がり、母国ではなく、京華国語が公用語として通用してしまっている。まるで飛び地の様だ。
一度根付くとそこから徐々に範囲を広げ、一つの街へと発展していく。そこまで行くと京華国から家族を呼び寄せ、親類を招き、勢力を拡大し現地人が住めなくなっていった。
そんな静かな侵攻を止めるためには、初期の段階で勢力を除去しなくてはならない。
だが、国は動けない。動けば、宣戦布告にあたり、戦争へと繋がる。戦争だけは回避しなければならない。
国力比が大きく違うのだ。王国が1だとすれば、京華国は100の戦力を持っている。敗北は必至だ。
そこで目をつけられたのが、カンパニー所属の軍事部門カラーズ大隊であった。
敵もマフィア、こちらもマフィア。マフィア同士の抗争であれば、国は関与していない。単純な話であった。
少年少女達は、深呼吸をする。カウントダウンが一分を切った。
銃のグリップを握り直し、安全装置を解除する。
『コントロールよりカラーズ。作戦は決行。成功を祈る。5,4,3,2,1,GO!』
カウントがゼロになると同時に静かに少年少女が雑居ビルから飛び出す。
だれも迷わない。実物大の模型で散々訓練をした。体が染みついている。
素早く、扉に取り付き蝶番へ爆弾をセット。五秒後に爆発。扉は簡単に外側に倒れた。扉は分厚かった。防弾、防爆に耐えられる扉なのだろうが、意外にも蝶番は強化材を使用したもので爆発物に耐えられぬ脆い物であった。
まだ、誰も中には雪崩れ込まない。手榴弾が数発放り込まれ、五秒後に爆発する。
「ギャー。」
「ウゲ。」
様々な悲鳴が通路から上がる。一連射をばらまき、中へ突入する。中も演習した模型通りだった。
担当区画の扉を蹴破り、片っ端らに動くものを掃射していく。
次々上がる悲鳴。それがビルのあちらこちらから聞こえてきた。
同時突入に成功した様だ。他の部隊も担当区画を制圧していく。
一部屋制圧し、次の部屋へと攻める。敵の反撃はまばらだった。夜明けと同時に襲われたため、大半の者が眠っていたのだろう。
何が起きたかわからぬまま、銃弾にハチの巣にされるマフィア達。京華国語で何か呟いているが少年少女には、言葉は理解できない。だが、意味は理解できる。
痛い。死にたくない。などだろう。
しっかりと訓練を施された少年少女は躊躇わない。淀むことなく、引き金を引く。そしてマフィアを沈める。
「1-1(ワンワン)からコントロール。制圧完了。」
「了解。掃討任務に移行せよ。」
「1-1了解。」
それだけを無線交信すると少年少女は、人が隠れていそうな場所を徹底的に探す。絨毯をめくり、本棚を倒し、隠し部屋を探す。
見つければ、中に手榴弾を放り込み、銃弾を撒き散らす。生き残りがいれば止めを刺し、完全にマフィアの息の根を止めていく。
二階に駆け上がった少年少女は、同い年位の子供達がベッドから起き上がるのを見てしまった。
躊躇いが生じる。自分の弟妹と被る。その一瞬が隙を生んだ。マフィアのAK-47が唸る。三人の少年少女が後ろ向きに倒れる。
生死不明だ。確認する余裕はない。即座に撃ち返す。マフィアと一緒に子供達も撃ち殺す。
今回の保護対象ではない。殲滅対象だ。後味の悪さが鉄の味として口に広がる。
―くそ。仲間が撃たれた。俺が躊躇ったからだ。俺が撃っていれば。―
少年は、歯を食いしばり特攻していく。倒れた仲間の責任を取るかのように…。
三階に辿り着いた少年少女は、定数のうち一割が欠けていた。敵の銃弾や長刀に斃された。自分より年下だった仲間もいた。だが、そいつらは引き金を引くのが遅かったのだ。敵発見と同時に引き金を引く。散々練習したことだ。
人を殺したことがない者の為に死刑囚を呼び寄せて標的にもした。
それでも奴らは、土壇場で躊躇った。教官達の教えを忠実に守らないからだ。
少年は教官の教えを忠実に守った。位置取り、死角、仲間の位置。次々更新される情報をドライアイスに表示させ、そこ以外に現れた人影は容赦なく撃つ。
撃たなければ、撃たれる。ここは戦場だ。後悔も甘えも許されない。そんなことは生き残って基地に戻ってから考えればいい。
今はロボットのように定められた通り、動く。それが戦場で生き抜く極意と信じていた。
アニョウは現場から近い路上に駐車された観光バスに偽装された指揮車の中に居た。
壁面一杯に並べられたモニターの前に都市迷彩の野戦服を着た少年少女がインカムで各隊へと指示を飛ばす。
「コントロールから2-1(ツーワン)。その制圧は2-3が完了。次の区画へ向かえ。」
「3-3。警告。一個分隊、三時。」
「1-4戻れ。生存者あり。殲滅せよ。」
「4-2,4-3。撃つな。相対する。すれ違え。」
「2-4。仲間の救護は後回しだ。作戦を続行せよ。他の仲間を見殺しにするのか。」
各隊の動きを見、的確なオペレーションを続けていた。
この部署は最も前線部隊から恨まれる場所だ。
理由は単純だ。安全な場所から偉そうに命令しやがって、だ。
偉そうに聞こえるのは、指示を簡略化するため。聞き間違えや誤解をまねかない為だ。
安全地帯から指示するのは、己の身は防御すら捨て、作戦を確実に成功させるため、意識を前線に集中させるため。
全て前線の兵士の為だ。これは何度も授業で教えているが、理屈と感情は同一になるとは限らないものだ。
―作戦はうまくいっている様だが、死傷率が想定より高い。敵の戦力が高いのか、こちらが弱いのか。さて、どちらだろうか。―
アニョウも前線に出れば、効果は絶大だっただろう。
迷うことなく、躊躇うことなく、敵の背後から掃討する。恐らくそれができた。ここにモニターを見ていれば分かる。
一緒に戦闘に出ていれば、幾分か死傷率を下げられただろう。
だが、アニョウは我慢をした。今後の作戦で常にアニョウが参加できるとは限らない。
少年少女だけで完遂せねばならぬのだ。他国のマフィア程度に負けるようでは、今後のビジネスを展開することはできない。
アニョウは握り拳を強く握りしめ、モニターを静かに見つめ続けた。




