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ジャングル・ファンブル・オペレーション ~俺はジャングルに全てを…~  作者: しゅう かいどう


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68.質疑

 会議室は、兵学校の教室の一つを改築したものだった。

 壁に遮音材を入れ、ガラスを全て吸音ガラスに入れ替えた。AV機器を増強し、黒板の代わりに大型液晶タッチパネルを設えてある。

 外からの視線を遮る為、分厚い暗幕カーテンが引かれている。

 教壇には、アニョウ、ネービャ、リトルの席が設けられ、生徒達と向かい合う形となる。

 生徒側は長机に折り畳み椅子の組み合わせで、五十人ほど腰かけられるように並べらていた。

 今そこに十四歳から十歳までの少年少女四十人が小隊単位に固まって座っていた。

 時刻は間もなく午後五時になろうとしている。遅刻や欠席する者は一人も居なかった。

 少年少女からはあどけなさが抜け、猛禽類や肉食獣の様な目力を皆がもっていた。

 ストリートチルドレン時代の濁り腐った目をしている者は居ない。

 今は、生きる活力に溢れている。死が身近な存在だった頃とは見違えた。


 アニョウは、時計を確認する。午後五時になった。

「では、ミーティングを始める。

 ここに呼ばれたお前達四十人選抜組の部隊名が決まった。特殊部隊ストライクバックだ。

 第一小隊から第四小隊と呼称する。コードネームは付けない。

 ストライクバック第一小隊をコールする時は、エスビーワンと呼称する。

 エスビーワンからエスビースリーまでを実行部隊とし、エスビーフォーは支援部隊とする。

 なお、ストライクバックおよびカラーズ大隊の総隊長は俺、アニョウが選ばれた。

 ネービャとリトルは副隊長とする。次席はネービャだ。俺が指揮不能の場合、ネービャが指揮をとる。俺、ネービャが指揮不能となった場合は、三席のリトルに指揮権がうつる。リトルの指揮は、超接近戦になる傾向が強い。それが嫌ならば、しっかりと働き、司令部を守れ。」

 会議室に少年少女達の苦笑いが広がる。訓練で散々リトルが肉弾戦をやらせたことを思い出したのであろう。

「ストライクバックは極秘部隊だ。我々四十三名以外に知られてはならない。

 普段はカラーズ大隊所属の第一中隊として行動してもらう。敵に情報を与えぬ為、以前つけていた色のコードネームは付与しない。

 これは各中隊に役割分担をしないからだ。旧カラーズ中隊は、小隊ごとに役割を決め運用をしたが、柔軟性にかけ、実戦で全滅させてしまった。

 その轍を踏まぬ様に今回は全小隊が同じことが出来る様に汎用性を持たせて鍛えた。

 その中でも優れた人間を選抜したのがお前達だ。特に旧カラーズ中隊の生き残りの十名もストライクバックに加わっている。貴重な実戦経験者であり、勝利と敗北を知る者だ。その者達の経験談を聞くだけでも生還率は上がるだろう。起立。」

 突然のアニョウの命令にもかかわらず、十名の生き残りは即座に立ち上がった。

 懐かしい顔だ。一年前に比べ、皆大人へと確実に成長していた。

「彼らが古参だ。頼りにしろ。死亡率五十%の戦場を生き延びた兵士だ。お前達より強い。着席。」

 十人の少年少女はすぐに着席する。命令から遅れることはない。練度が高い証だった。


「では、次の議題だ。明日、ストライクバックに命令が下る。初出撃、初実戦だ。

 だが、緊張することはない。初戦に高難度の作戦はさせることはないだろう。肩慣らしレベルだ。

 本来のストライクバックは、過酷な作戦を与えられる。

 ストライクバックの存在意義は、人質奪還作戦がメインとなる。秘密裏に敵本拠地に潜入し、人質を無傷で救出し、母国へ帰還させる。

 これは非常に難易度の高い作戦となる。

 では、仲間が動けない様な怪我を負った場合の最善手を答えろ。」

 アニョウの正面に座っていた少年が手を真っすぐに上げる。

 アニョウが指差すと少年は立ち上がり、両手を背後で組むとしっかりとした声で言った。

「はい、チームワークを発揮し回収します。」

「ダメだ。そんなことは求めていない。我々は軍隊ではあるが軍隊ではない。マフィアの暴力装置だ。次。」

 少年はしょんぼりと着席し、代わりに中ほどに座る少女が手を上げる。アニョウは頷く。

 少女も同じ様に立ち上がり、両手を背中に組み、声をしっかりと腹から出す。

「はい、安楽死させます。身元が分かる物は処分します。」

「そうだ。正解だ。座って良し。」

 少女は表情を変えることなく着席する。少しだけ周囲がざわつく。そこまで深く考えていなかったのだろう。

「お前達の命は軽い。そして安い。装備品の方に金がかかっているくらいだ。仲間を救おうと思うな。楽に殺してやれ。

 仲間に殺しの罪悪感を持たせたくなければ、さっさと自殺しろ。それが仲間の為になる。悩む時間も節約でき、作戦の遂行を速やかに行える。

 そして、俺達三人も同様だ。足手まといになると思えば切り捨てろ。

 何度も言うが、俺達は軍隊の様であるが、軍隊ではない。どこかの軍の様に仲間一人を救うために一個小隊全滅させる様なことは一切しない。

 効率だけを考えろ。俺達が行う戦闘はビジネスだ。金儲けだ。赤字になる要素は排除しろ。

 その覚悟がない者は、今夜中に転属願を出せ。SPや警備部などに口利きしてやっても良い。ただし、今より給料は格段に下がる。また、成功報酬は支給されない。無論、異動後も部隊のことを口外すれば処分されるので注意せよ。

 さて、ここまでで何か質問はあるか?今から質疑応答の時間とする。自分達の命だ。聞きたいことがあれば、しっかりと聞いた方がいいぞ。

 その方が後悔しなくて済むだろう。」

 アニョウは、そう言うと着席した。

 幾人か手を上げる。アニョウは動かない。それを確認したネービャが動き、少年少女達の質問・疑問に答えていく。


 ・自分が死んだ場合、孤児院に預けた弟妹はどうなるのか? 何も変わらない。今まで通り育成される。

 ・作戦が失敗し、取り残された場合、どうなるのか? 他の部隊により攻撃され処分する。

 ・味方の処分を自分がする可能性があるのか? 十分にある。

 ・人質を死亡させてしまった場合、どうなるのか? 作戦失敗と認定され成功報酬が出ない。また、過酷な再訓練を施す。

 ・敵地への潜入方法はどの様な手段か? 情報部が集めた情報を元に本部が作戦を立案する。我々は作戦通りに実行するのみ。

 ・なぜ、その作戦を実施する必要があるか説明はあるのか? ない。捕虜になった場合を考慮し余分な情報は与えない。

 ・現地にて作戦実行が不可能だった場合、情報が無いと作戦の変更ができない。情報の提供を求める。 考慮に値する。本部に上奏する。

 ・ストライクバックは、カンパニー所属なのか? 今はそう思え。

 ・欠員が出た場合はどうなるのか? 他の中隊から選抜され補充される。

 ・外国へ派遣されるのか? 派遣されることの方が多いと思われる。

 ・外国語を習得した方が良いか? 母国語以外に英語の習得は推奨される。

 ・英語教室は開講されるか? 開講しても良い。

 ・外国でも電子頭脳ドライアイスのサポートは受けられるのか? 衛星通信対応型へ更新済みだ。空が見える限り、フルスペックのサポートを受けられる。

 ・屋内かつ圏外ではどうなるのか? 従来通りスマートフォンの性能の範囲内のサポートに留まる。

 などなど、少年少女達の質問が続いた。それにネービャとリトルが代わる代わる答えていく。

 アニョウは静かに少年少女達の表情を一人一人じっくり見ていく。

 ―まだ幼く若い者を死地へと送り込む。自分は比較的安全な後方から指揮をするだけだ。

 初陣では、何人が死ぬのだろうか。それとも全員が生還できるのだろうか。

 いや、本部も自信を持たせるために比較的簡単な仕事を初陣には回すだろう。

 実績も無いチームに人質奪還を任せるような企業や国は無い。最初の数戦は、敵対マフィアの殲滅戦だろうか。

 そうであって欲しいものだ。そこで経験を積み、実力を高める。

 それが現実的なルートだろう。

 しかし、子供を戦争に駆り出すというのに罪悪感が湧かないのはどういうことだ。一切の迷いが俺にはない。

 ハーモニーの命令に従い、ティハの居場所を守るだけだ。そちらの方が俺にとっての最優先事項だ。

 おかしい。そんな思考は不自然だ。やはり俺の脳は壊れているのだろうか。―

 アニョウは、白熱する質疑応答の中、冷めた目で少年少女達の顔を見続けていた。

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