表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャングル・ファンブル・オペレーション ~俺はジャングルに全てを…~  作者: しゅう かいどう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/68

66.演習

 促成栽培の少年兵達が、兵学校のジャングル演習場に蟻のように散らばっているのをアニョウ達は見下ろしていた。

 そこは校舎屋上に建設された監視塔だった。円形の部屋に周囲を防弾ガラスで覆い、兵学校の敷地全てを見渡すことが出来た。

 空調の効いた室内で双眼鏡を手にジャングルの中を這いつくばる少年兵の姿を見ていた。

 左右をリトルとネービャが固め、数人の教官が同じ様に少年兵達の動きを見下ろしていた。

 今日から少年兵達への教育の成果を確認する演習が始まったのであった。

 形式はフラッグ戦。陣地にある旗をお互いが奪い合うルールだ。

 ルールはシンプルだった。

 一、殺さない。

 二、ゴム弾以外は使用禁止。

 三、防弾ゴーグルを着用。

 以上だった。

 一チーム約五十名の二チームがジャングルで敵陣地の旗の奪い合いを行っていた。

 ジャングルの中に蛍光色のゼッケンをつけた人間が十数名うろついている。

 審判役の教官だ。死亡判定された少年兵が動かないことを監視しているのだ。死んだ人間が銃撃を行うことはありえない。その様な行為を処罰するために存在した。処罰の方法は単純だ。ゾンビ行為だと審判が認定した瞬間、気絶するまでゴム弾を容赦なく撃ちこまれる。

 これにより演習終了まで絶対に目を覚ますことは無く、本人は全身を骨折したかのような激痛に数日のたうちまうことになる。

 今回は、火薬量は減らしていない。弾丸がゴム製であるだけだ。ゆえに死亡する可能性は十分にある。

 ゴム弾といえども当たり所によっては気絶し、倒れる時に頭部を強打し死亡することは充分にありえるのだ。

 また、心臓に当たり心臓発作を起こすことも考えられた。

 だが、それに対する安全対策は何一つとっていない。

 運が悪かった。ただ、それだけだ。安全な戦場は存在しない。そんな危機感も演習の一環に加えた。

 その為、訓練時よりも少年兵達の動きが少し鈍い。遮蔽物に慎重に身を隠し、遠距離での撃ち合いが見受けられた。

 少年兵達が手を抜いているとは誰も思っていない。限りなく実戦に近い演習となれば、身がすくむのも当然であろう。

 そして、ゴム弾の直撃が如何に痛いか、身に染みている。

 それがゆえに慎重な行動となって、演習に現れているのであろう。


「兄貴、校長先生としてどう見ます?」

 ネービャが演習の感想をアニョウへと求める。

 少し思考したアニョウは口を開いた。

「半年で仕上げたと思えぬ良い出来だ。遮蔽物の利用、指揮系統の確立。どちらのチームも問題ない。あとは実戦経験をつませれば良いだろう。」

「おや?モタモタするな!距離を詰めろ!無駄弾を撃つな!って、返事を期待していたんすけど。」

「そうなのか?銃を持って半年であれだけ動ければ十分だろう。やはり、若いと物覚えが良く、恐怖に対して鈍感になるようだな。

 あと、ボスが派遣してくれた教官達が良い仕事をしてくれた。やはり傭兵会社を一社丸ごと借り受けてくれたのは大きいな。

 俺には半年でここまで仕上げることはできない。」

 教官は、傭兵会社を一社丸ごと借り上げ、ストリートチルドレンを一人前の兵士に仕上げる契約を結んでいた。

 様々な戦場を潜り抜けてきたプロ達だ。アニョウの経験よりも濃い経験を積んでいる者もいた。つまり、特殊戦出身の者だ。

「教官が優秀とか、物覚えが良いのは何となく分かるんすけど、恐怖に鈍感って何っすか?」

「若気の至り。怖いもの知らず。奴らは人生の経験値が少ない。さらに寿命もたっぷりある。死が身近にあるものだと脳に刻まれていないのだろう。

 いや、違うか。奴らはストリートチルドレン。死は隣人か…。逆に怖くないのだろう。先に見送った家族が待っているか…。」

 その言葉を聞いて、ネービャは黙り込んだ。根が優しいのだ。

 どこかで道を踏み外し、マフィアになった。道を踏み外さなければ、一般人として硝煙と暴力に無関係の生活を送っていただろう。


 一方でリトルは独り言が五月蠅かった。

「ああ、そんな距離で発砲するから敵に見つかるのです。駄目です。もっと近づいて死角から撃たないと。あの子はいいですね。位置取りが出来てます。はい。ワンキル。お見事です。

 そんな不用意に飛び出したら…。ほら、ハチの巣です。慎重さが足りませんね。

 あの子はピクリとも動きませんね。ああ、ビビッてしまってます。あれは再教育ですね。それとも配置転換を促すべきでしょうか?

 ふむ、あの小隊長の指揮がいいですね。状況に的確です。私の直属部隊にしちゃいましょうか。

 指揮も射撃も有能な小隊。そこへ私の格闘術が加われば、最強の小隊ができるのでは…。ああ、夢が膨らみます。」

 演習から片時も目を離さず、鼻息を荒くし、観戦をしていた。

 ―直属の部隊とは何だ?そんな話は聞いていないが、ボスに話を通すつもりだろうか。俺には関係ない。俺は少年兵を使えるように環境を整えただけだ。

 とは言えないのだろうな。この後の使い方は俺次第なのだろう。―

 アニョウの出番は、少年兵が仕上がり、実戦になってからだ。この演習で即戦力になる人物が選抜され、隊を編成する。

 そして、カンパニーの命令に従い、敵対組織を急襲したり、依頼による誘拐犯から被害者の奪取をさせることになる。

 その訓練こそ、カンパニーが望む部隊を作ることになる。

 選抜は教官達に任せる。アニョウは選抜された者をアニョウ直属の部隊として仕上げるのだ。

 この演習でその者が決まる。

 もしかすると訓練不足で能力未達で選抜者がでないかもしれない。その時は、訓練メニューを見直し、さらに鍛え上げるだけだ。

 ―さて、何人が合格することだろうか。―

 アニョウの心配は、少年兵の怪我ではなく、基準を満たす者が現れるかだった。


 リトルに指揮が良いと褒められていると知らない少年は、泥の中に伏せていた。銃が泥につからぬ様に慎重に。

 ストリート時代からつるんできた仲間、いや家族と小隊もどきを組み、演習に参加していた。

 言葉に出さなくとも目と手振りだけで意思の疎通が可能だ。家族だけで通じるハンドサインを持っていた。

 ストリートに住んでいた時、観光客を目当てに引ったくりを家族で繰り返していた。年少組が獲物の前で転び、足を止めた瞬間年長組が鞄を奪う。

 曲がり角で年中組に鞄を渡し走り去る。年中組は素知らぬ顔で獲物とすれ違い、アジトへ戻る。

 そうやって、金を稼いできた。

 クレジットカードは、限度額までキャッシングをする。

 鞄と財布は古物商に売り飛ばす。

 パスポートはカンパニーに売る。

 そんな生活を続けてきた。

 ある日、生活が一変した。カンパニーが少年兵募集の話をもってきたのだ。

 衣食住と簡単な教育。年少組は孤児院での養育。そして医療保障。

 少年兵として使い物にならない場合、他の仕事をあっせんするとのことだ。

 ストリートチルドレンでは有り得ない好待遇だった。

 最初は何かの仕事で使い捨てにするつもりで集めているのだろうと警戒していた。

 だが、この話は王都全体の孤児達に伝えられていた。幾分かの差異はあったが、恐らく伝言ゲームによる改変なのだろう。

 そして、少年は博打にのった。ストリートチルドレンの寿命は短い。病気や過労、栄養失調で大人になることはまずない。

 あと数年の命だと割り切っていた。だが、この博打に成功すれば、人間らしい生活が待っている。

 ゴミ箱を漁って生活用品を調達したり、サイズの合わない服や左右で違う靴を履く必要は無い。

 そして、少年は博打に勝った。カンパニーの募集要項に嘘は無かった。


 離れ離れになった年少組には泣かれたが、休暇の折に面会申請を出せば、送迎付きで孤児院で面会が自由にできた。

 そこで古着ではあるが、綺麗な服と栄養たっぷりの食事を与えられ、公園で遊ぶことまで許されていた。

 年少組は幸せそうな顔をしていた。ストリートでは一度も見たことがない表情だった。

 年中組は、訓練と勉強に追い回され疲れていた。

 だが、休みの日は暇だと文句を言う。だが、今まで暇だという言葉は一度も使ったことがない。暇があれば、ごみ漁りをし、少しでも使えるものを集める。

 それが生きていくためには必要なことだった。

 なのに今は暇だという。そんな贅沢は知らない。暇なんて言葉は初めてここで知った。

 調子に乗ったバカが滑り台が欲しいと希望書を書いた。

 そんな要求が通るわけがない。暇ならば勉強しろと言い含めた。実際、年長組は時間に余裕がある時は勉強をしていた。

 読み書きと計算だけは絶対に習得しなければならない。これができるだけで、真っ当な職につける可能性が高まるのだ。

 カンパニーに捨てられても生計を立てる可能性が高まるのだ。

 ストリートチルドレンが勉強できる機会は一生ない。この機会を逃す訳にはいかないのだ。年長組はそれが分かっていたため、ある意味、戦闘訓練よりも必死だった。

 もう二度とあんなみじめな生活には戻りたくない。

 人間らしい生活を送りたい。もうその味を知ってしまった。禁断の果実を食べてしまった。

 後戻りはできない。ゆえに訓練にも勉強にも必死になった。

 そんなある日、兵学校の一角に突然、公園ができた。遊具も充実し、年中組は歓喜して、休暇日は遊んだ。

 ここはまるで楽園だ。衣食住に勉強。そして遊び。

 カンパニーに大きな恩ができた。何としても役に立つ人間だと認知してもらい、カンパニーに貢献するのだ。

 それが少年達の原動力となった。

 少年達は悩まない。人を殺す訓練だと理解している。人を殺すことに躊躇いはない。

 なぜなら、縄張り争いで人殺しなど日常茶飯事だ。今更、何を悩むことがあるのだろうか。

 教官達が時折悲しげな表情を見せるが、それはストリートチルドレンを理解していない。

 その点、校長先生は分かってくれているように思える。遠くから見ただけだが、同類の様な気がした。

 あの人も孤児だ。孤独だ。そして、何の感情も抱かず人を殺してきたに違いない。

 ちなみに年長組とか言っているのは自分の正確な年齢を知らないからだ。

 自分で年齢を決めて生きてきた。実年齢より若いかもしれない。だが、関係ない。自分で決めた年齢だ。それに伴う責任は自分で負えばよいだけだ。

 責任を少しでも軽くしたければ若く設定すればよい。ただ、周りからはガキ扱いされ、分け前が減る。

 ただそれだけだ。

 さあ、自分が決めた年齢に従って責任を持とう。あのフラッグは俺たち家族が落とす。

 少年達は銃撃の切れ目を縫うように走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ