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ジャングル・ファンブル・オペレーション ~俺はジャングルに全てを…~  作者: しゅう かいどう


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59.思考

 アニョウ、ネービャ、リトルの三人はジャングルをほぼ休むことなく踏破し、町へと辿り着いていた。

 作戦地点より西方へ約十キロ。人口約千人の小さな町だ。

 カンパニーの息がかかり、今回の作戦のキャンプ地となっている。

 町外れの集落をカンパニーは借り切り作戦を主導していた。

 その集落では、構成員達が慌ただしく走り回っていた。

 予想外の事態の発生。まさかの敵新戦力の投入。そして、カラーズ中隊の敗退。

 情報部門の大失態だった。今回の作戦を立てる基礎となった情報が間違えていたのだ。根本が違ったのだ。

 設計を間違えた土台に立てた家は崩れ去るのが必然。同じ様に作戦は崩壊した。

 情報部門は、戦場へ、さらにその後方へ多数のドローンを飛ばす。最新の正しい情報を得るためだ。

 ここでリカバリーしなければ、カンパニーに粛清される可能性があった。情報部門の構成員の目は血走り、ドローンのカメラが送信してくる画像を食い入るように見つめ続ける。まばたきすら忘れ、眼球を血走らせ情報を集めようとしていた。


 その集落の中の一軒家にアニョウ達は、少年兵達が帰還するのを待っていた。

 周囲の警戒及び出迎えは、カンパニーの構成員に任せている。

「敵の反転攻勢に耐えうる戦力は充分にある。」

 と作戦責任者は言う。

 失敗した人間の言葉を信じられる訳がない。だが、少年兵達はこの町を目指してジャングルを走っているはずだ。

 ならば、その到着を待つのがアニョウの仕事だ。生きて帰るだけの知識と訓練は叩き込んだ。ならば、信じるしかない。

 三人は戦闘装備そのままでリビングのソファに座っていた。

 アニョウは、拳を何度も開いては締め、時折強く強く握りしめた。

 ネービャは、貧乏ゆすりを繰り返す。

 リトルは、背筋をまっすぐに伸ばし、目を瞑り微動だにしない。

 三人三様の態度で少年達の帰還を待っていた。


 アニョウはジャングルを走っている最中に何度も記憶のフラッシュバックを起こしていた。以前の様な記憶に意識を奪われる追体験をすることはなくなった。

 意識を保った記憶が蘇る。それが今のアニョウの記憶が回復する状況だった。

 帰還、いや逃げる時にアニョウは自分自身が迫撃砲を操作し、分隊で発射していたことを思い出した。訓練だったのか、実戦だったのかは不明だ。

 だが、惜しみなく弾薬を使い、五キロ先の目標を叩き潰していた。最初に測定用に一発発射する。そして着弾を確認し、角度、方向を調整し二射目を発射する。

 それを繰り返すことにより、弾着を正確にしていく。弾着が正確になれば、最速で砲撃を繰り返す。

 命中精度はもともと悪い。着弾はばらつくが、その方が良かった。命中精度が高ければ点制圧になるが、命中精度が悪ければ着弾が周囲にばらつき面制圧と繋がる。

 点制圧であれば、目標を制圧するために着弾修正を必要するが、面制圧であれば砲撃を続ければ良い。

 砲身へ砲弾を落とすだけで落下の衝撃により炸薬が爆発し、砲弾が放物線を描いて飛んでいく。特にジャングルでは放物線を描く迫撃砲が好まれた。直線で狙えるロケットランチャーでは、濃い樹影のジャングルでは目標に届かないのだ。目標物に届く前に樹木に当たり、爆発する。

 だが放物線を描く迫撃砲であれば、天より弾頭が落ちることになる。多少の枝葉が邪魔になるだろうが、幹に比べれば障害物になり得ない。誤爆してもそれは目標物の頭上であり、爆風と破片が降り注ぎ攻撃が有効となる。

 そんな迫撃砲は慣れれば、一分間に十発以上発射が可能となる。

 その様な連射ができる状況の砲撃は、効力射と呼ばれる。効力射に切り替わるということは、面制圧が開始され、目標の周囲に砲弾がバラまかれることになる。

 蛸壺も塹壕も防御の役には立たない。歩兵は砲撃範囲から逃げるしかない。

 アニョウはそのことを思い出し、カラーズ中隊へ即座に命令を下せた。

 だが、その命令が有効に働いたどうかは分からない。少年兵に迫撃砲の恐ろしさは教え込んだ。だが、実際に経験したことは無い。

 何人が生き残ることが出来るだろうか。それがアニョウの心配事だった。

 だが、悲観はしていなかった。

 ―全滅だろうか、半分だろうか。いや、どちらでも良いか。問題は、この戦闘評価がカンパニーにどう判断されるかだ。それが俺にとっての問題だ。

 カンパニーが少年兵は有効であり、今回は情報収集がミスであると判断すれば、ティハの命は守られる。

 だが、少年兵がこの程度で潰れる程度の存在だと認識されれば、俺は用済みとなりティハの人質の価値は無くなる。

 いや、落ち着け。先の作戦では死傷者無しで敵のアジトを破壊したじゃないか。

 少年兵の有用性は実証済みだ。今回も敵の新勢力が出て来なければ作戦を完遂できた。

 少年兵の育成及び運用に大きな問題は無い。今後の見直しは必要だがな。まだ、俺の力は必要とされる。

 ならば、カンパニーがティハと俺を見捨てることは無い。

 少年兵は補充され、また一から仕込めばよい。

 そうだ。冷静になれ。落ち着け。戦場では平常心を失った奴から死ぬ。平常心を保て。まだ、俺は勝負に負けていない。―

 アニョウの心配は、少年兵でなく遠く離れた王都に居るティハの命だった。

 冷たいかもしれないが、兵士が戦場で死ぬことは当たり前のことであり、アニョウにとっては日常だった。

 戦闘に出撃する度に戦友が減ることは日常茶飯事であったことを思い出していたのであった。


 ネービャは寒気を全身に感じていた。体温を上げるための貧乏ゆすりが止まらない。上から膝を強く押さえつけるが一向に震えが治まる気配はない。

 ―なんなんだ。あの爆風と死の欠片は…。よく、あの砲弾の雨から逃げてきたものだ。アニョウの指示に素直に従ったからか…。もう嫌だ。あれは銃撃戦より恐ろしい。俺が反撃する余裕なんてどこにもねえ。死の気配から逃げ惑うしかない。

 俺一人だったら、重たい対物ライフルを後生大事に抱えてドスンドスン走って、とっとと餌食になってただろう。生きてることが不思議だ。

 いや、怪我すらしていないのは奇跡か。それともアニョウの兄貴の経験のお陰か。

 つまり、俺は兄貴に命を救われたわけだ。でかい借りができた。これは返せそうにないな。

 しかし、ガキどもは無事だろうか。いや、俺が無事に逃げ帰ったんだ。俺よりもすばしっこい奴らばかりだ。砲撃範囲を大きく迂回していて到着が遅れているんだろう。そうだ。そうに違いない。手塩にかけた教え子をこんなことで失ってたまるか。

 ちゃんと帰って来いよ。しかし、寒い。寒い…。―

 ギャングの経験しかないネービャには、迫撃砲の嵐は衝撃だった。過去に命の危険を感じたのは、道を挟んだ銃撃戦だった。

 銃撃戦は、意外に人的被害は少ない。

 お互いが障害物に身を隠して撃ち合うため、致命傷に至りにくいのだ。銃を撃つときも銃身だけを障害物から出して撃つ。

 それは敵も同じだ。皆、死にたくないのだ。無理して殺す必要も無い。強さを誇示し、敵を撤退させれば勝ちなのだ。

 マフィアの小競り合いと戦場とは大きく違う。

 つまり、ネービャは本当の鉄火場を歩んだことは無い。今回が初めてだったのだ。


 落ちついて瞑想をしているリトルの思考はシンプルだった。

 ―情報収集の不足。それが今回の敗因ですね。これはカンパニーだけでなく、ハーモニーも問題視するでしょう。

 末端部門のミスとはいえ、グループの名が汚されたのです。カンパニーの首脳部は、今頃、蒼白になっていることでしょう。

 ハーモニーは、カンパニーの改革、もしくは解体を考えるかもしれませんね。

 となると、王国地域は直接統治へ切り替えるかもしれませんね。やれやれ、ボスの元に戻る頃合いでしょうか。

 先生とネービャは使えますし、今後も一緒に働くのも悪くないです。ボスに掛け合ってみましょう。

 とりあえず、今は休息です。疲労を少しでも回復させ撤退戦に備えましょう。―

 リトルは呼吸を深くゆっくりとし、疲労回復に努める。少年兵達のことは一切考えない。もともと消耗品として集められた駒に感情移入はしない。

 格闘戦の手ほどきを直接していたが、それがリトルの心を動かすことは無い。常在戦場。死は常に足元に在り。それがリトルの日常だった。


 少年兵達のことは、アニョウは生還率を考え、ネービャは生死の心配をし、リトルは意識外であった。

 アニョウは兵士の思考を、ネービャはギャングの思考を、リトルを武術家の思考をしていた。

 三人が立つ基礎が全く違うのだ。思考が三つに大きく分かれ、交差しないのは当たり前のことだった。

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