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ジャングル・ファンブル・オペレーション ~俺はジャングルに全てを…~  作者: しゅう かいどう


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57/61

57.編成

 アニョウ、ネービャ、リトルは、ジャングルと大麻畑の境にある小高い丘の繁みに伏射の姿勢で待機していた。

 日は完全に沈み、月も無い。完全な闇が周囲を覆っている。

 その正面五百メートルには、小さな明かりと大きな明かりが見えた。共に光量は無い。本を読むのがやっとだろう。

 小さい方が監視塔。大きい方が母屋だ。何軒か建物が他にもあるが、それらには明かりは灯っていない。

 事前情報通りだった。敵の大麻工場は夜間は休止し、労働者はさっさと宿舎という名の監獄へ閉じ込められる。

 母屋に居るのはマフィアの関係者だけだ。その母屋と監視塔の人間を無力化すれば作戦成功だ。

 畑の大麻草は人の背丈ほどに成長している。もう少しすれば二メートルを超え、収穫期になるだろう。

 襲撃するタイミングは、今の時期がリミットだった。

 大麻草が受粉の為、花粉を飛ばし始めると畑の中に入ることは危険だ。花粉を吸い込むことで大麻酔いをするのだ。

 そうなれば、平衡感覚を失い戦闘どころではないだろう。つまり、花粉が飛ぶ前か、刈り取り後でなければ、畑に無防備に飛び込むことができないのだ。

 カンパニーは、この資源を手に入れ、敵対勢力の弱体化を狙っているのだろう。

 ゆえに刈り取り後ではなく、花粉が飛ぶ前の今の時期を作戦のタイミングに選んだ。

 予定通り、カラーズ中隊は大麻畑の中に密林迷彩の野戦服を着用して展開していた。

 今は、アニョウの開始命令を待っている。


 そのアニョウは、望遠鏡でまずは監視塔を見ていた。

 光増幅された望遠鏡は、暗めの夕暮れ時の様に見えた。あまり、明るく調整しすぎると暗順応に時間がかかり、裸眼戦闘に支障が出るからだ。

「AKをもった人間が三人。監視塔へは梯子であがる。梯子は一本。サーチライト一灯有り。どうか。」

 アニョウは、見たままをネービャとリトルに告げる。

 ネービャとリトルは、対物ライフルと狙撃銃につけたスコープで見つめている。

「俺も同じだな。兄貴の言う通りで間違いないと思う。」

 ネービャは、時々スコープの倍率を変えながら答える。

「はい、先生の観察通りと思います。情報通りですね。」

 リトルは大人しく身動きせずスコープから目を離さない。

「よし、次は母屋だ。レンガ造りの平屋。窓ガラス。室外機を確認。空調が効いている様だな。窓に人影は確認できず。部屋数は恐らく三部屋から四部屋。どうか。」

「ええっと、おう、兄貴と同意見だ。あの壁なら、このM82で貫通も余裕だ。おそらく、壁の二、三枚は楽勝だ。」

「はい、確認です。窓ガラスは薄いですね。普通のガラスです。こちらも狙撃可能です。問題ありません。」

「よし、では監視塔から始めようか。ブラックから状況を報告せよ。」

「こちらブラック。哨戒塔までクリア。」

「グリーン、梯子まで十メートル。合図と同時に静かに上がります。」

「ブルー、う回にて母屋接近中。」

「レッド、ブルーの後方追随中。」

「各隊、ブルー、レッドの持ち場到着まで現状維持。」

『了解。』


「さて、もうしばらく時間がかかるな。ドライアイス、戦術図を表示。」

 戦術コンピュータであるドライアイスへ命令を下す。

 インカム付属のモノクルに農場の平面図が表示される。そこに味方を現す青い点と敵を現す赤い点が表示される。

 十人が東から曲線を描くように母屋に接近し、十人が監視塔のすぐ近くで動かない。

 遠く離れて三人の青い点が表示される。

 続いて監視塔に赤い点が三つ表示され、母屋には大きな赤い円が一つだけ表示された。

 大きな円は、敵対戦力がこの辺りに存在するが詳細は不明ということだ。

 表示に時間がかかったのは、携帯電話の圏外だからだ。ドライアイスの演算機能は、個人が持つインカムとスマートフォンに依存している。それらを並列処理にて演算している為、本来の性能を発揮できていない。

 都市部の圏内であれば、カンパニーのどこかのコンピュータが即座に演算してくれただろう。

 国境近辺となるとドライアイスの性能は格段に落ちる。

 だが、状況把握をする分には十分役に立っている。


 十の青点が母屋に辿り着いた。

「戦闘開始。」

 アニョウはインカムに呟く。

 グリーン小隊の五人が監視塔の梯子を使わず、鉄骨を素手でグイグイと上へ上へと昇る。

 頂上で世間話に講じている敵は梯子と周囲に視線を時折送るが、鉄骨は完全に死角だった。

 音も無く昇るグリーン小隊。同時に五人が頂上に辿り着き、柵を乗り越え、敵へと襲い掛かる。一瞬の出来事。

 敵三人は、四方からコンバットナイフで喉を裂かれる。喉から飛び出すのは悲鳴ではなく、血しぶき。いや、血の噴流。グリーン小隊は返り血を浴びるも気にせず、止めに心臓を刺し貫く。死体が地面に落ちて、物音が立たぬ様に静かに床へと死体を横たえる。

「グリーン、クリア。」

 少年の幼い声に震えやどもりは無い。冷静な声だった。

「ブルー、突入する。」

 母屋から数発の銃声。そして、全力射撃。

 ブルー小隊は、タイプⅢのボディアーマーに、大人一人を覆う大型の透明の防弾盾を装備している。理論上、防弾盾はAK-47やM-16の弾を弾く。

 数発、同じ個所に当たり、たまたま貫通してもボディアーマーが一発は防いでくれる。

 防御力重視の小隊だ。

 その背後および隙間から残弾のことを考えず、連射を数秒でワンマガジンを撃ち切り、次々とマガジン交換をしていくのがレッド小隊だった。

 全身にバナナの様にマガジンを装着している。火力特化の小隊だった。

 扉の蝶番を射撃で破壊し、内部に雪崩れ込み、防弾盾で橋頭保を作る。

 そこを橋頭保にして、室内の敵を蹂躙する。確実にハチの巣にすると、次の扉に取り付き、同じことを繰り返す。

 敵が発砲しようが、ブルー小隊の防弾盾が弾をはじき、レッド小隊が発射点へ集中砲火を浴びせる。

 カラーズ中隊の最高の矛と盾だ。ちなみにどちらが強いかと言われれば、レッド小隊の方が勝利するだろう。ボディアーマーに防弾盾を装備すれば、重量と関節の可動域の減少による敏捷性の低下により、背後を取られて集中砲火を浴びると考えられている。

 それを補うためにレッド小隊が迂回する敵を屠る。

 この二つの小隊は矛と盾であるが矛盾は生じない。それぞれの長所を生かし、相乗効果で通常の攻撃力以上を発揮していた。

 だが、この二つの小隊は鈍重だ。過剰な防弾装備とマガジンの装着。どうしても機動性に劣る。そこでアニョウ達の遠距離からの援護を必要とした。

「リトル。上6、右2。二つ。撃て。」

 アニョウが方向を指示する。そこには屋上を這って背後に回り込もうとする敵が二人いた。

 パン。カチャ。パン。二度の狙撃銃からの軽い発射音。

「クリア。」

 リトルが敵二人をヘッドショットで屠る。

 次に窓際に映る人影を発見した。

「ネービャ。下2、右4。一つ。撃て。」

 ドゴン。

 対物ライフルの重厚な射撃音が響く。

 レンガ造りの壁に大穴を開け、上半身だけとなった人間が宙を舞う。弾丸は壁一枚と人間を抜いただけではエネルギーを消費しきれず、反対側の壁も撃ち抜いた。

「クリア。」

 大穴が開いたことで、内部の様子が良く見える。

 机やベッドを盾にした敵が数人見える。P90の貫通力ならば、問題は無いのだが、少年兵からは見えていないのだろう。

 アニョウは即座に支援射撃を指示した。

「リトル、右から三人。ネービャ、左外壁、横へ二射。撃て。」

 パン、ドゴン、パン、カチャ、パン、ドゴン。狙撃銃と対物ライフルが咆哮を上げる。

 室内の敵、三人が頭部を吹き飛ばされる。外壁も二発の対物ライフルにより大穴を開け、近くに居た敵数人をも巻き込む。

「クリア。」

 ここまで声を出しているのはアニョウ一人だ。射撃の反動により敵が照準器から外れてしまうため、結果がネービャとリトルには即座に分からないのだ。

 照準器を元に戻すまでに若干の時間がかかる。ゆえにスポッターが居ると最初から最後までを確認できるため、戦果をあげやすい。また、狙撃に集中し、目標を探す必要も無い。スポッターが指示する座標へ照準を合わせ、引き金を引く。

 単純作業にしなければ狙撃手は精神をすり減らしてしまう。

 狙撃するには、銃の癖だけでなく外的要因も加味しなければならない。気温、湿度、風速等だ。これらと距離を計算し、狙い撃つ。それも伏射という窮屈な姿勢だ。伏射姿勢をとれば、背後から敵が接近しても即座に振り返ることはできない。

 だが、スポッターが居れば、周辺警戒を任せることが出来、狙撃へ益々集中できるのだ。


 大砲の様な対物ライフルで建物をこじ開け、中の人物を狙撃銃で確実に始末する。そして、スポッターが周辺警戒をしつつ、護衛する。

 どこかの内戦で生み出された分隊編成だった。

 アニョウのアイディアではない。時折起こるフラッシュバックと共に思い出したのだ。

 この編成が前回も有効に働き、今回も有効に働いた。今後も改良を加えながら使用していくだろう。

 敵の反抗が減り、ブルー小隊が前進していく。その背後からレッド小隊が追随し、敵を排除していく。

 盾と矛が通過した部屋をブラック小隊とグリーン小隊が精査していく。たまに死に切れていない敵がいるのか数発の射撃を確認する。

 止めは大事だ。敵が人生最後の瞬間に背後から撃つということはあり得る。人は意外に頑丈で、そして恨みを持つ。

 指一本動かすだけで己の仇が取れるならば、指を動かす。

 それが生涯最後の行動になろうとしてでもだ。

 ゆえにアニョウは、止めの大切さをカラーズ中隊に徹底的に仕込んだ。それが今、実戦の中で活かされている。

 嘘のようだが、死傷者無し。それが現時点での状況だ。油断はできない。掃討戦は始まったばかりだ。敵がどこかに隠れているかもしれない。

 アニョウの仕事は、逃げる敵を見逃さないことだ。リトルとネービャも逃亡者の発見をしようとしているが、照準器の狭い視界では見落とすこともあるだろう。

 アニョウは、望遠鏡の倍率を下げて全体が見える様にし、逃亡者を探す。

 見つけ次第、狙撃で排除だ。

 サーチ アンド デストロイ。昔の戦場のスローガンが眼前で繰り広げられていた。

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