52.突入
半年間の少年兵育成は成功した。
反抗的であった少年達も現在ではアニョウに、いやカンパニーに忠誠を誓っている。
正式名称、カラーズ中隊。
レッド小隊、ブルー小隊、グリーン小隊、ブラック小隊。
一小隊五人編成を四個小隊併せた、少年兵中隊が出来上がった。
当初、カンパニーは少年兵を使い捨てにするため、装備はP90のみを支給する予定であった。
しかし、アニョウのデモンストレーションによる摸擬戦をカンパニーの幹部達に見せると少年兵に対す扱いは百八十度変化した。
密林迷彩、都市迷彩等の戦闘服。各関節を守るパッド。サブアームとしてファイブセブン3とコンバットナイフ。
チーム内のみの限定通信にデチューンされたスマートフォン。それ用のモノクル付きブルートゥースインカム。
そして、中隊内の通信と少年兵の場所、地図、その他各種情報をインカムに転送し中隊を支援するソフト『ドライアイス』。
スマートフォンによる操作のみならず、音声入力と出力も可能である。
そして、その中隊長がアニョウ。副中隊長にネービャとリトルが配属された。
アニョウが全体を厳しく全体を統括し、ネービャが兄貴分として、リトルは姉貴分として優しくフォローをする。飴と鞭の役割分担だ。
さすがに値の張るボディアーマーは支給されなかったが、マフィアの私兵というよりは、小国の正規兵と変わらぬ軍事力を有するに至った。
少年兵を鍛え上げる間、少しずつアニョウに対し情報が開示され、訓練校は王都から車で三時間ほどの山間部にあること。
ティハが収容されている病院が王都にあることを知った。
一か月に一度、ティハのもとへアニョウは赴き、二十四時間を一緒に過ごした。
ささやかな幸せな時間だった。
その逢瀬で知ったことは、ティハはボスの秘書の仕事についていた。
待遇は良く、危険は無い。常に手元を置くことでアニョウへの牽制になる。
それがティハの立場だった。
アニョウは王都の大通りに面する雑居ビルの三階に居た。この場に居るのは、アニョウ、ネービャ、リトルの三人だけだ。
三人とも物陰から大通りの反対側にある二階建ての新築民家へ視線を集中させていた。
モノクルには、カラーズ中隊の居場所がこの付近と地図と一緒に表示されている。
新築民家を囲むように中隊は展開していた。
「ブラック1よりホワイト。周辺の封鎖を確認。民間人の排除完了。」
「ホワイト1確認。ブラックも突入準備。」
「ブラック1了解。」
アニョウが応えると地図の青い光点が民家の壁面に密着する。
二十ある青い光点のうち、四つは民家に上に重なっていた。屋根の上にいた。グリーン小隊だ。ロープ降下の準備を終え、突入命令を待っていた。
「ホワイト1より全隊へ。突入。」
アニョウはインカムで命令を発する。
正面の民家から銃声を幾重も発生する。モノクルに映った光点は、民家内に雪崩れ込む。
地図は付近の周辺図から、民家の間取り図へと自動的に切り替わる。
大まかな操作は、コンピュータのドライアイスが臨機応変に対応する。
通信を通じて、射撃音と悲鳴が交差する。悲鳴には、知っている声は今のところない。グリーン小隊も二階から突入し、民家に居る人間を一方的に無効化していく。
「状況報告。一階三区画、二階一区画制圧。負傷者ゼロ。」
落ち着いた大人の女性の声がインカムから流れる。ドライアイスの人工音声だった。
「ふ~ん、初陣にしては問題なく進んでいますね、先生。」
リトルが通りの反対側で行われている戦闘を俯瞰しながらアニョウに話しかける。
その手には狙撃用ライフルが握られている。
「そうだな。実物大の訓練施設を作ったのが良かったのだろう。どうやら、ライフルの出番は無い様だな。」
「兄貴、俺も一発噛ませてくれよ。せっかく重たい対物ライフルを用意したんだぜ。ドライアイスのお陰で中の様子も丸分かり。外から撃ち放題じゃないか。」
ネービャが手にする対物ライフルの二脚を展開し、スコープを覗き込んでいる。いつでもここから向かいの民家へ撃ち込むつもりだ。
「子供達を殺す気か。敵が車で逃げる時まで使うなよ。」
「へいへい。兄貴の言う通りに。」
アニョウは苦笑いしながら状況の進行を気楽に見守る。
何もかも計画通りに進んでいる。慌てることは無い。アニョウ、ネービャ、リトルの三人で構成されるホワイト小隊は、カラーズ中隊の指揮小隊とも言える。正直、このホワイト小隊がカラーズ中隊最強であり、カンパニーの中でも上位の暴力装置である。
だが、ホワイト小隊が動くことはない。あくまでもカラーズ中隊が主力である。少年兵の替えは幾らでも用意できるが、アニョウ達スペシャリストの替えは存在しないからだ。
簡単な作戦で危険に身を晒すことは無い。
汚い大人だと思われようが、アニョウにはティハを守るという最優先すべきことがあるのだ。
ティハを絶対に守る。その為には、些細な怪我も許されない。代わりに少年兵達に命をはってもらう。
卑劣なことだとアニョウは分かっている。だが、ティハの命を守る為ならば、ストリートチルドレン出身の少年兵の命は安いとどうしても考えてしまうのだった。
民家からの射撃音は続く。途切れることは無い。
「レッド、クリア。」
「ブルー、クリア。」
「グリーン、クリア。」
「ブラック、地下室発見。突入する。」
「ブルー、ブラックを援護する。」
音声通信が慌ただしくなる。いよいよ民家の制圧完了も近い様だ。ただ、情報になかった地下室の存在だけが気になる。
「ドライアイス、状況の分析を。」
「了解。二階部分は完全制圧。台所を制圧中に床下の空洞を知覚。地下室を発見。ブラック小隊が突入しました。ブラック小隊は、哨戒・偵察特化型ですので、問題ないでしょう。そのバックアップには護衛特化のブルー小隊が入りました。背後からの急襲も事前に防ぐことが可能です。
なお、火力特化型レッド小隊は、現在天井裏への攻撃を実施中。機動特化型グリーン小隊は、周辺警戒についています。負傷者はゼロ。
作戦進行率八十パーセント。現時点で成功判定です。」
ドライアイスが滑らかに状況を報告する。
「なあ、ドライアイスよ。お前本当にアプリか?実は人間じゃねえのか?」
ネービャが思わずドライアイスに問う。それほどまでに滑らかな発音によどみない分析だった。
「ホワイト2、それは間違いです。私は、電子頭脳です。戦闘演算しかできません。」
「だがよ、こうやって会話が成立してるだろう。美人な姉ちゃんだと言われても違和感ねえよ。」
「残念です。肉体をもちません。お会いできれば、ホワイト2と仲良くできたでしょう。」
「俺も残念だよ。俺にマッチする女を紹介してくれねえかな。」
「ホワイト2それは不可能です。私は戦闘演算専門です。おすすめのマッチングアプリをご紹介しましょうか。」
「え?そんなことができるのか?」
「冗談です。不可能です。今までのホワイト2の性格からこの様に返答するのが喜ばれると判断しました。」
「くそ。電子頭脳にまで馬鹿にされるのか。情けねえ。」
「そこまでにしておけ。下では命を懸けている奴が居る。」
『了解。』
アニョウの制止にネービャとドライアイスが即座に反応した。
作戦は終盤を迎えた。
カンパニーの商売敵が、この国に新しく進出し、その橋頭保となる事務所を構えようとしたことが今回の作戦の発端だ。
敵勢力が何者なのかは、誰も知らない。もしかするとボスに近いリトルなら知っているかもしれない。
だが、それを知ったことで利になることは無い。世の中知らぬままの方が良いことが多い。
カンパニーの道具として動く方が、アニョウとティハの命を危険に晒すことは無いのだ。
そこには少年達の命をチップにするという代替行為があることをアニョウは自覚している。




