53.証明
「こちらレッド1からホワイト1。作戦終了。撤退を開始する。」
「ホワイト1、了解。警戒は続けよ。」
「警戒続行、了解。」
実行部隊からの作戦終了報告がアニョウへと入る。
すると、大通りに一台の大型の路線バスが敵のアジトに横付けされた。
カンパニーが用意した撤収用の足だった。バスは歩道に乗り上げ、極力、乗車口を玄関へと寄せる。乗車時の隙から身を護る為である。
次々と色とりどりのカラフルな私服を纏った少年少女たちがバスに乗り込んでいく。その間、数十秒。最後の一人がステップに足をかけた瞬間、バスは発車をする。
そして、大通りを何事も無かったかのようにゆっくりと走っていった。
街に溶け込むのに都市迷彩の軍服はいらない。逆に目立ってしまう。皆と同じ服を着ている方が街に溶け込むのだ。
「さて、兄貴。どれだけ来ると思う?」
ネービャが窓際に防弾盾を展開し、狭間から対物ライフルのバレットM82を構える。伏射が基本の為、わざわざ壁に銃口を突き出す穴まで開けている。
「四、五台くらいだろう。十台を超えることは無い。」
「一台に四人乗っていたら、十六から四十人くらいですかぁ。そんなに生き残りがいますかね。ほとんどの敵が集まる時間に襲撃をかけましたでしょ、先生。」
こちらはリトルだ。ネービャが展開した防弾盾の上に狙撃銃のバレットMRADを構える。
どちらの銃もカンパニーからの支給品で射手の好みは反映されていない。支給された銃を使いこなすのがカンパニーの方針だった。
「同時に来ることは無いだろう。連絡を受け、慌てて帰還するだろうから、連絡を受けた距離により到着時間に差がでる。一陣が到着次第、二陣が来る前に殲滅させる。欲張らない。第一陣殲滅で撤収だ。」
『了解。』
アニョウはP90を構え、周囲を警戒する。どこから敵が現れるか分からないからだ。
銃撃戦が終わり、周囲は静まり返っている。大通りには車も人も居ない。王都、いや、この国に住む人間は分かっているのだ。
マフィア同士の殺し合いが日常であることを。ゆえに銃撃戦が始まれば、数時間は家にこもり、外に出てくる者は居ない。
警察に連絡する者もいない。警察に連絡をしても無駄なことを理解しているからだ。
警察が被害の拡大を防ぐため、一般人の立ち入りを制限しているくらいだ。今もカンパニーからの事前通告に従い、このエリアを封鎖しているはずだ。
ゆえに大通りにもかかわらず、車が一台も走らない。
日頃から警察省や国土省に政治献金を、王室へは運営資金の寄付を行っているゆえの目こぼしと消極的協力だった。
カンパニーは、国との太いパイプをもつことにより確固たる地位を築いていたのであった。
当然、現地の警官たちにも普段から金品を贈り懐柔している。
「二時方向、赤いセダン1。3名。」
『確認。』
アニョウの報告にネービャとリトルが即座に復唱する。
現時点では、敵か通行人かは分からない。安全装置を外し待機する。
だが、警察の規制線を突破してくるくらいだ。敵であることは間違いないだろう。
赤いセダンはアジト前で止まった。この時点で黒確定だ。
ドン。腹に響く発射音がすぐ傍で鳴る。ネービャのM82が発射された。ボンネットが大きく凹み空中に吹き飛ぶ。
赤いセダンに吸い込まれた銃弾はエンジンルームを蹂躙する。たちまち大爆発を起こす。電装系から出た火花がガソリンに引火したのだろう。
爆風とガソリンを浴び、全身火だるまになった人間らしき形の三体が車から転げ落ち、そのまま動かない。
どう見ても致命傷だ。止めが不要なのは明らかだ。
「十時方向、黒いセダン1。4名。」
『確認。』
黒いセダンは、燃え上がる赤いセダンの前で止まる。
ドン。再びM82から銃弾が吐き出される。結果は赤いセダンと同じだ。二台の車から黒い煙があがる。
これでは遠くからも異変があったことが分かるだろう。
「十二時方向、白いバン1。3名。停車。待機中。」
『確認。』
「二時方向、黒いセダン2。7名。停車。待機中。」
『確認。』
「ネービャは、黒いセダン2台を撃て。リトルは白いバンの3名を狙撃。」
『了解。』
ドン。ガチャ。ドン。MRADの狙撃音は、M82の重低音にかき消された。
黒いセダン2台が爆発を起こし、1台は空高く舞い上がる。
白いセダンの3人は眉間付近をガラス越しに撃ち抜かれ、ぐったりとしていた。
「3時方向、生存者2名。」
「私がいきます。」
リトルはそう言うと即座にMRADの引き金を二回絞る。ドス、ドス。M82とは違う重低音が響く。
遠くで二人が舞いながら地面へと倒れた。
二分、五分と時間が経過する。
「さて、これだ第一陣は終わりか?」
「都市のはずれに居たら、一時間は帰って来ないんじゃないか。」
「そうですね。撤退しても良い頃合いかと。」
「ふむ。陸戦隊がこの建物に送り込まれるのも面倒だな。撤退しよう。ネービャ、仕上げを頼む。」
「はいよ、兄貴。」
ネービャはアジトの外側に設置されたプロパンガスのタンクへ照準を合わせる。静かに引き金を引いた。
ドン。鈍い発射音のあと、プロパンガスタンクが大爆発を起こす。周囲に火球を撒き散らし、アジトを炎で包む。
「任務完了を確認。撤退する。ドライアイス、何か意見はあるか。」
アニョウは思い出したかのように戦闘アプリ ドライアイスへ意見を求める。
「現時点での情報からは最良の判断と思われます。反対理由なし。」
アニョウ達は空薬莢を拾うと、空き部屋から撤退した。裏通りに止めておいた白いバンに乗り、現場から離れる。
大型銃は荷室に置き、三人ともP90を装備している。車内でも振り回せる小型さが役に立つ。
アニョウは、車を安全運転で走らせる。しばらくすると警察の警戒線が張られている。
アニョウは臆すことなく警戒線へと堂々と入り、警察官の指示に従い車を止める。反対車線では黄色いセダンの男が警察官に喰ってかかっていた。
「この先は銃撃戦が行われ危険だ。引き返せ。」
「うるせえ。手前は俺達を通したらいいんだよ!」
警察官は、あきれ顔でバリケードをどかせる。車1台通れる隙間が開くと同時に急発進し、アジト方向へ走り去っていった。
恐らく敵のマフィアなのだろう。
体格が良いというか太った年配の警察官がアニョウ達の車に近づく。
「おい、身分証…。」
高圧的にそう言いかけた警察官は三人が携行しているP90を見た瞬間、態度を急変させる。
「失礼した。バリケードをすぐにどけろ。お通ししろ。」
「は、はい。」
若い警察官が慌ててバリケードを開く。
アニョウは慌てることなく、車を発進させる。
この国、いや全世界のマフィアでP90を使うのはカンパニーだけであろう。
多くのマフィアはもっと流通しているAK-47やM-16、MP-5、UZI等を使用している。
つまり、P90はカンパニーの構成員の証であった。
敵もどこのマフィアが襲ったか、すぐに知るだろう。P90の弾頭と空薬莢がアジトに大量に残されているからだ。
つまり、P90を使うことによりカンパニーの大きい存在と強い力をアピールしているのだ。
アニョウには、こんな銃の使い方があるとは思いもよらなかった。
この国でP90は特別な意味がある。カンパニーの構成員であり、構成員以外が勝手にP90を持つことを許さない。
もっとも、専用弾の確保が難しい銃を構成員以外が手に入れようとすることはないのだが。
つまり、P90は権力の証でもあるのだ。
―カンパニーの上層部はそこまで考えて装備を決めていたのか。軍隊では、出てこない発想だな。
いや、敵と銃弾の形式を変えることで同じことをしているのか。ただ、規模が大きすぎて境界線があいまいになっているだけか。
今まで俺が気づかなかっただけか。
違うな。忘れているだけだ。くそっ!早く、記憶を取り戻したい。だが、記憶を取り戻したとして、俺のままで居られるだろうか…。―
アニョウ達は、作戦を完了したことに喜ぶことも無く、周辺警戒を続けたまま車を走らせた。
子供達と合流するまでが仕事なのだ。
―ティハがこの王都に居る。会えるだろうか…。―
そんな雑念を抱きながらアニョウは合流地点へ向かった。




