48.試射
射撃場は簡素な造りだった。
ジャングルの樹々を切り払い切り株が残った平地。その奥には、流れ弾防止用の高さ三メートルはある盛り土。
射点は、パイプ椅子と長机が一組。以上だった。
屋根も舗装もされていない。
平地には、標的となるカカシが数体、ランダムに配置されている。盛り土には、多重丸がペンキで適当に書かれていた。
一応、平地には二十メートル刻みで距離標識が置かれているので、標的が何メートル離れているかは分かる。
ほぼ自然に近い粗末な射撃場であった。
左右や背後に防弾板や盛り土は無い。真っ直ぐ撃てない愚か者は、射撃場に立たせてもらえないのだろう。
ネービャが長机にP90のマガジンを十本、ファイブセブンのマガジンを五本並べる。
―それだけ撃って良いということか。P90が装弾数五十発。ファイブセブンは標準マガジンか。なら装弾数は二十発だな。慣らしとしては、まずまずの弾数か。だが、一瞬で終わるな。―
などとアニョウは一目で弾数を計算する。やはり、P90に熟練している様だ。マガジンを見ただけで装弾数が分かるのだから。
「アニョウ。好きに撃っていいぞ。」
とネービャが言う。
「了解。」
アニョウはP90のマガジンを銃身の上にセットし、コッキングレバーを引く。半透明のプラスチック製のマガジンは、銃弾が機関部へと押し込まれていくのが見える。
セレクターをセミオートに切り替え照準を覗く。光学式照準器が標準装備されているため、標的がはっきりと見える。
人間工学に基づいた雲形定規の様なグリップは、アニョウの掌に吸い付く。これならば、手の小さい子供でも問題なく握れるだろう。
それに本体も三キロほどしかなく軽い。両手で保持すれば問題ないだろう。
静かに引き金を軽く引く。
パンと軽い音共に盛り土の標的の中心近くに土煙が上がった。
照準器の上下左右を調節し、引き金を引く。さらに土煙が中心へと近づく。
再調整を行うと狙い通りに着弾するようになった。
この時点で五発撃った。半透明のマガジンは残量がハッキリとわかる。他の銃と大きく違う点だろう。
「フルオートに移る。排莢に気をつけろ。」
アニョウはセレクターをフルオートに切り替え一秒ほど引き金を引き続ける。パパパと軽快な音と共に標的に土煙が立ち上がる。
排莢はグリップの後部にある排莢口から真下へと空薬莢が排出される。熱を持った空薬莢が地面に跳ね返り、周辺へと飛び散る。
ネービャはそれを見越しており、その範囲から離れていた。
アニョウは的の中心から十センチ以内に集弾したことに満足する。
―よし。当たりの個体の様だ。通常より集弾率が良いな。もしかすると、わざわざ用意してくれたのか。どちらでもよいか。今は射撃に専念しよう。―
フルオート射撃を続けると数秒でマガジンが空になった。素早く、弾倉交換をし、フルオートで一気に撃ち尽くす。
数秒でまたもや空になる。
弾倉交換をし、次は指切りで単射を行う。浅く引き金を引き、素早く指を離す。
セレクターはフルオートだが、弾は一発しか発射されない。
―よしよし、仕様通りだな。コピーではなく、純正品だ。まあ、P90をコピーしたという話は聞いたことが無いが。
おや、なぜそんなことを知っているんだ。くそっ。思い出すなら全て思い出せ。ああ、面倒だ。俺は何者だ?―
アニョウは苛立ちを覚え、P90にその思いをのせる。
軽快な射撃音が射撃場だけでなく、学校中に響く。
瞬く間にマガジン十本を撃ち尽くし、P90の試射を終える。
続いてファイブセブンだ。見た目は特に他のハンドガンと違いは無い。大きな違いはスライドの後ろにあるハンマーが露出していないことだろう。
ハンマーが無いのではなく、内蔵式になっている。ここが大きく違う点だろう。
アニョウは、P90を長机に置き、ファイブセブンを構える。
―やはり、グリップが太いな。握りにくい。―
アニョウは、マガジンを装填し引き金を引く。
ダブルアクション特有の引き金が重い。これも他のハンドガンと同じだ。
銃弾が機関部に装填され、内部ハンマーが落ちる。発射の瞬間、銃口から巨大な火球が開く。
―こいつは二世代目か。マズルフラッシュが改善されていない。火球が邪魔で連射しにくいな。これは要らない。P90だけでいい。
正直、P90があればハンドガンの代わりになるからな。―
ファイブセブンの反動は低く、アニョウの筋力であれば銃身が跳ね上がることは無い。この点は、ベレッタやグロックとは違う。
反動は低いのに貫通力はダントツに高い。9ミリでは抜けない警察官のボディアーマーもファイブセブンは容易に貫く。
―集弾率は良いな。だが、俺の手にはグリップが馴染まない。サブアームの代わりにP90のマガジンを持っていた方が装備重量は軽くなるな。―
アニョウはファイブセブンのマガジン二本を撃ち切って長机に置いた。
「おいおい。まだ残ってるぜ。どうした?不具合でもあったか?」
「いや、相性の問題だ。ファイブセブンは俺には合わん。サブアームを持つ代わりにP90のマガジンを余分にくれ。」
「は、ガキたちと同じか。ファイブセブンはでかいか?俺にはしっくりくるんだが。」
「手が大きいから合うのだろう。サブアームが必須なら、MK3を用意してくれるか?それならグリップが改良されて握りやすい。」
アニョウは考えずに言葉に出す。そして気づく。
―MK3ってなんだ。ファイブセブンの三世代目だったか。握りにくい欠点を克服し、人間工学に基づいて再設計されたファイブセブンだったな。
なぜ、そんなことを知っている。ハイジャック犯制圧戦の時に装備していたのがMK3だったのか?くそ、もどかしい。
早く全てを思い出してくれ。断片は困る。砂利混じりの水を飲まされている気分だ。―
無論、表情には出さない。無表情の仮面をまとう。
「まあ、希望は出してやるが通るとは限らんぞ。」
ネービャは、アニョウの焦りに気づかない。
「ああ、無理は言わない。サブアームは無くともP90だけでも問題ない。何せ新入りだからな。あまり我が儘を言って潰されたくない。」
と言うと、どこからか電話の着信音が鳴る。ネービャがポケットからスマートフォンを取り出し、話始めた。
「なぜ、止めない。は?人物紹介したら血が上った。それを抑えるのがお前の仕事だろ。
だから、手前は下っ端を卒業できねえんだよ。もういい、とにかく俺が行くまで抑えてろ。
はっ?無理。お前殺すぞ。俺がやれと言えばやるんだよ。ノーはねえんだよ。イエスで答えろ。」
ネービャは電話を切り、アニョウへと向かい直した。
「アニョウ、すまねえ。手下の一人がミスった。」
「何があった?」
「楽し気な射撃音が聞こえて、俺達にも撃たせろとガキが騒いでいやがる。ちょいと絞めてくるわ。アニョウは教官室でゆっくりしててくれ。」
「それだけじゃないだろ。人物紹介って俺のことだろ。俺が発端じゃないのか?」
ネービャは後頭部をかくと一つ溜息をついた。
「ああ、その通りだ。ここの銃を撃つには、最低でも三十単位を取得してからという規則があってな。ガキどもはようやく規定に達したばかりだ。
で、今日がその実習日だったがキャンセルになった。明日以降に順延だ。」
「ふむ、俺が割り込んだからか。」
「勘がいいな。そうだ。アニョウの為に射撃場を空けた。それが上からのお達しだからな。アニョウが気にすることは無い。下手をうった手下が悪い。
ああ、片付けはいい。他の奴にやらせる。」
ネービャは踵を返し、校舎へと歩き始める。アニョウもそれに続く。
そして、一時間後。アニョウは大木の洞の中へ移動し、ゴム弾を装填したP90を抱きしめ、ガキどもの包囲網が完成するのを待っていた。
―はあ、面倒だ。準備もできたし、さっさと終わらせよう。―
アニョウは縄張りの中へガキどもが足を踏み入れるのを静かに待っていた。




