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## 第五話 会いたかった

# 『生きることにつかれた』


## 第五話 会いたかった


「嘘だろ……」


悠人は掲示板の前で立ち尽くしていた。


写真の中の少女。


そして名前。


**天野美咲。享年十七歳。**


何度見ても間違いない。


毎日ホームで会っている少女と同じ顔だった。


同じ笑顔だった。


手が震える。


心臓が早鐘を打つ。


「そんなこと、あるわけ……」


だが。


頭のどこかでは分かっていた。


窓に映らなかったこと。


人の心を見透かすような言葉。


そして。


どこか現実離れした雰囲気。


全部が繋がってしまった。


---


その夜。


悠人はホームへ向かった。


いつもより早足だった。


聞かなければならない。


真実を。


ベンチには。


やはり美咲がいた。


「こんばんは」


いつも通りの笑顔。


だが今日は違う。


悠人はまっすぐ見つめた。


「美咲」


少女の表情が固まった。


初めてだった。


悠人が名前を呼んだのは。


「君……天野美咲なんだな」


沈黙。


電車の音だけが響く。


そして。


美咲はゆっくりとうなずいた。


「見つけたんですね」


否定しなかった。


---


「本当に……」


悠人は言葉を失う。


「君は……」


美咲は静かに微笑む。


「死んでいます」


その言葉は。


驚くほど穏やかだった。


怖くなかった。


不思議と。


悲しかった。


---


「どうしてここにいるんだ?」


悠人は聞く。


美咲はホームの線路を見つめた。


「待っていたんです」


「誰を?」


「ある人を」


その答えだけで。


長い年月が伝わってきた。


---


「私にはお兄ちゃんがいました」


初めて語られる過去。


美咲の声は優しかった。


「すごく優しくて」


「私の自慢のお兄ちゃんでした」


父を早くに亡くし。


兄は必死に働いていた。


美咲を育てるために。


高校へ通わせるために。


自分の夢を諦めて。


---


「だから私」


美咲は笑う。


少し寂しそうに。


「ちゃんとありがとうって言いたかったんです」


だが。


その日。


事故が起きた。


学校帰り。


突然の事故。


そして。


美咲は帰れなくなった。


---


「ありがとうって言えなかったんです」


その一言。


二十年間。


抱え続けてきた後悔。


美咲は涙を浮かべた。


「会いたかった」


震える声。


「一度だけでいいから」


「お兄ちゃんに」


「ありがとうって言いたかった」


ぽろぽろと涙がこぼれる。


---


悠人は何も言えなかった。


どんな言葉も軽く思えた。


二十年。


たった一言を伝えられなかった少女。


そして。


その想いだけで。


ここに残り続けた。


---


しばらくして。


美咲は涙を拭いた。


「変ですよね」


「変じゃない」


悠人は即答した。


「全然変じゃない」


美咲は驚いた顔をする。


「大事な人に伝えたい言葉だ」


悠人は笑う。


「誰だって会いたいだろ」


その瞬間。


美咲は泣きながら笑った。


まるで救われたように。


---


だが。


その時だった。


美咲の体が。


淡く光り始める。


「え……?」


悠人は目を見開いた。


美咲自身も驚いている。


指先が。


少しずつ透けていた。


---


「どうして……」


美咲の声が震える。


そして遠くから。


誰かの声が聞こえた。


優しい男の声。


懐かしそうな声。


「美咲――」


それは。


二十年間。


彼女が待ち続けた人の声だった。


---


### 次回


## 第六話 ありがとう


ついに聞こえた兄の声。


二十年間伝えられなかった想い。


そして訪れる別れの時――。


「ありがとう」


その一言が起こす奇跡とは。


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