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## 第三話 小さな一歩

# 『生きることにつかれた』


## 第三話 小さな一歩


朝。


目覚ましが鳴る前に悠人は目を覚ました。


久しぶりだった。


こんなに早く起きたのは。


窓の外は晴れている。


それだけなのに。


少しだけ気分が違った。


机の上には昨夜見つけた古いノート。


そこに書かれている夢。


**「誰かの希望になれる先生になる」**


悠人はその文字を見つめた。


そして苦笑する。


「三十二歳だぞ……」


若くない。


特別な才能もない。


お金もない。


時間もない。


できない理由なら山ほどある。


それでも――。


胸の奥で何かが動いていた。


---


仕事中。


上司の怒鳴り声が飛ぶ。


「藤崎!資料まだか!」


「すみません!」


いつも通りだ。


何も変わらない。


だが今日は少し違った。


以前なら。


『俺はダメな人間だ』


そう思っていた。


でも今は違う。


『仕事がうまくいかない』


それだけだ。


自分の価値とは別の話だ。


不思議だった。


たった数日。


少女と話しただけなのに。


世界の見え方が少し変わっていた。


---


夜。


駅のホーム。


少女は今日もいた。


「こんばんは」


「本当に毎日いるんだな」


「いますよ」


少女は笑う。


悠人も少し笑った。


「昨日な」


「はい」


「昔のノート見つけた」


少女の目が優しくなる。


「どうでした?」


「恥ずかしかったよ」


「ふふ」


「夢とか希望とか書いてあってさ」


少女はうなずく。


「でも」


悠人は空を見た。


「少しだけ嬉しかった」


その瞬間。


少女は本当に嬉しそうに笑った。


まるで自分のことのように。


---


「一歩でいいんです」


少女は言った。


「一歩?」


「夢を叶える必要はありません」


「え?」


「まず一歩です」


少女は指を一本立てる。


「本を読むでもいい」


「調べるでもいい」


「誰かに話すでもいい」


「一歩だけ」


悠人は考えた。


夢という言葉は重い。


だが。


一歩なら。


できるかもしれない。


「……分かった」


少女は満足そうにうなずく。


「それで十分です」


---


翌日。


仕事帰り。


悠人は本屋へ立ち寄った。


教育関係の本を一冊手に取る。


たったそれだけ。


たったそれだけなのに。


心臓が少し高鳴った。


レジへ向かう足が震える。


「俺、何やってるんだろうな」


そう言いながら。


どこか嬉しかった。


---


その夜。


駅へ向かう途中。


悠人は見慣れない花屋の前を通った。


すると。


一人のおばあさんが困っていた。


荷物が重そうだった。


昔なら通り過ぎていたかもしれない。


だが今日は違った。


「持ちましょうか?」


思わず声が出た。


おばあさんは驚き。


そして笑った。


「ありがとう」


その一言。


本当に短い言葉だった。


だけど。


なぜだろう。


胸が温かくなった。


---


駅に着く。


少女はベンチに座っていた。


「今日、一歩進みました」


悠人が言う。


少女は聞いただけで分かったようだった。


「良かったですね」


「大したことじゃないけどな」


「違います」


少女は首を振る。


そして静かに言った。


「人生は大きな奇跡じゃなくて、小さな一歩の積み重ねなんです」


その言葉に。


悠人はうなずいた。


本当にそうかもしれない。


---


だが。


その時だった。


ホームに電車が入ってくる。


風が吹く。


少女の髪が揺れる。


そして一瞬。


電車の窓に映った彼女の姿を見て。


悠人は凍りついた。


映っていなかった。


そこに少女はいるのに。


窓には何も映っていなかったのだ。


「……え?」


悠人が振り返る。


しかし。


少女はいつもの笑顔だった。


まるで何事もなかったかのように――。


---


### 次回


## 第四話 君は誰なんだ


電車の窓に映らなかった少女。


悠人の胸に生まれる疑問。


「君は、一体何者なんだ?」


そして少女が初めて語る、自分自身の過去――。


涙の秘密が明かされる。


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