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ナナ達が無事で妖精界にいる事など全く知らない人間界の関係者達はお通夜状態だった……
あの日、魔導飛行船は修理され、再び飛び立ち予定通りに王城に着陸した。
お祝いムードの中、ジュードはセドリック王太子殿下に急ぎ取り次いでもらった。
「ご苦労だったね。……アデル達は?」
セディは労うという口実でシロクマちゃん達をモフり倒そうと思っていたが見当たらない。
ジュードは人払いを頼み、アデル達を拾い、ここまでの道のりで起こった事を掻い摘んで説明した。
「これを……」
取り出したのはナナが残したメモ。
アデル達のところに行くと書いてある走り書きだ。
そして、追伸もあった。
『人質にされかねないから戻ってきちゃダメだよ』
「確かに足手まといだと思い、暗部を一人残して戻ってきてしまいました」
そして追加の報告をする。
「暗部からの報告だと、スタンピードが起きてアデライト様達は、その……全滅したと……」
「……そうか、ご苦労だった」
セディは友の死を嘆く暇もなく国王への報告や式典の中止など奔走しなければならなかった。
一方、数日経ったある日、グレアムは迷宮都市を代官に任せ、帝都の宮殿に戻って来た。
到着早々謁見の間にて、父である皇帝と対面していた。
挨拶もほどほどに、本題に入る。
「勇者パーティーの1人と懇意にしていたので【文蝶】を飛ばしてみたのですが……」
グレアムは一旦言葉を切って手紙を取り出した。
そして呪文を唱え、蝶に変えた。
しかしそれは飛んで消える事はなく、グレアムの元へ戻って手紙に戻った。
「御覧の通りです。少なくとも、メンバーの1人は既に亡くなっているものと思われます」
グレアムは感情を隠す為に表情を取り繕っていたが、それは失敗して『無』になっていた。
だがそれは心配し、ナナの死を疑い、確信し、絶望したのがバレバレで、グレアムが嘘の報告をしていない事を証明していた。
「あと、最後の足取りは樹海と判明。教会の手の者が何かを捜索しています。おそらく勇者パーティ、もしくはダンジョン・コアかと。我々も捜索隊を出しますか?」
「よい。こちらから出そう」
親子というよりは上司と部下の会話だったが、謁見の間ではそれが常だった。
自室に戻ったグレアムは人払いをしてベッドに潜り込んだ。
前世の記憶を保持したまま新しい世界に転生した自分にとって、ナナとは同郷というだけで仲間意識が生まれた。
そして事件が起き、一緒に解決している内にそれは更に強固なものとなり、こちらの世界の希薄な関係の家族よりも絆を感じていた。
ナナが迷宮の最深部に挑戦する時には永遠の別れを覚悟していた。
命懸けだという事は充分に理解していたからな。
だが、無事にやり遂げ戻ってきた。
だというのに、アッサリいなくなった。
飛行船が墜落したと報告を受けた。
しかし、再び飛び立ったとも聞いた。
では、何故死亡した?
スタンピードが起きたのか?
それとも、人間にやられたのか……?
先程、皇帝は「教会の人間が捜索している」と聞いても何も言わなかったな……
皇帝には教会や『コルウス』の事は何も奏上していない。
だったら、普通は無関係のハズの教会が一番に駆け付けたと聞いて疑問に思わないか?
既に他から報告が上がっていたか、もしくは皇帝も『コルウス』のメンバーか……
計画を早めるか?
成人までまだ数年ある。
確実に皇帝の座を得る為に時間をかけて準備をするつもりだったが……
宮殿の外に協力者が欲しいな……
平和な日本で育った記憶があるグレアムだったが、前世の常識や倫理感を捨て、自らの意思でこの世界の感覚に寄せていった。
謁見の間には宰相などの重鎮や衛兵などがいたが、『コルウス』の手の者も潜んでいた。
この謁見の様子も報告された。
それにより、黒服が持ち帰った情報の裏付けとなった。
青髪はトレントの襲撃に違和感を覚えていたのだ。
自分が抱えていた子供ばかり狙っていたのでもしかしたら襲ったのではなく保護しようとしていたのではないか?と。
その旨をそのまま上に報告していたのだが、グレアムが【文蝶】を飛ばして見せたお陰でハッキリした。
勇者パーティーは全滅した、と。
まあ、生きているのだが。
妖精界に保護されたことで、奇しくもナナ達に都合のいい勘違いが広まっていったのだった。
他にも、耳の速い冒険者の間で噂は広まった。
勇者パーティーが何者かに狙われ全滅した、と。
だが、どこかで新しい迷宮が誕生したという話は聞かない。
かといって、ノア王国でも新迷宮の話は聞かない。
それはもちろんギルド職員の耳にも届き、怒りと悲しみで発狂しそうになった。
知り合いが皆、【文蝶】を飛ばしても届かなかったからだ。
それからすぐに、冒険者の間で新たな噂が広まった。
『魔導飛行船が襲撃され、ダンジョン・コアが青霧の樹海に消えた』というものだ。
目撃者がいたとは考えられず根拠のない噂だが、自由な冒険者達は次々と樹海を訪れた。
すると教会は関与を知られるのは都合が悪いのでコアを探すのもままならなくなった。
となると、第2皇子派の差し金で国が樹海への出入りを禁止したが、そうなると噂の真実味が増して余計に侵入者が増えた。
戦闘が増え、コアの捜索は進まない。
更に、何故か樹海が人の侵入を拒むかのように強力な魔物が増え、あっという間に『魔の森』となってしまった。
更にコアの捜索は難航する事となった。
いい事もあった。
それはノア王国国境で待機していた各国の軍隊にも情報が届き、それならば戦闘を仕掛けても無駄ではないかと足踏みさせたのだ。
まず最初にノア王国内に潜り込んでいたスパイが、予定されていた式典の中止を受けて問題が発生しただろう事を各自国に報告。
それ以来ノア王国に全く動きがない。
そんなところにコアは樹海で行方不明という噂。
コアはオーランド帝国から出ていないからノア王国で動きがないのだと判断。
軍隊は一切の戦闘に及ぶ事なく解散したのだった。
なんとこれは全てセディの作戦だった。
あれは迷宮踏破とアデル達の全滅を知った日から3日経っていた。
式典のキャンセル作業に忙殺され、フッと手が空いた時に悲しみに暮れていた時、1匹の蝶が飛んできた。
ああ、また不手際があったのかと憂鬱になり緩慢に手を伸ばしたが、ハッとなった。
この蝶は見覚えがある……!
急いで手紙の内容を確認すると、やはりアデルからの定期報告だった。
内容は飛行船墜落以降の顛末。
そして今は妖精界にいるという衝撃の事実。
更にダンジョン・コアは緑の魔女に2ヶ月間貸与する約束をしてしまった事が書かれていた。
「よっしゃーっ!」
らしくない雄叫びを上げたセディ。
折しも側に誰もいなかった為、咎められることはなかったが。
アデルは『妖精の鍵』の話を聞かされる前に報告書を書いていたので、何故【文蝶】でやり取りが出来なかったのかはしたためる事が出来なかったが、セディは感がいいので妖精界には届かないと自力で結論付けた。
ならば、アデル達が帰って来るまでの2ヶ月間、何をしようか……?
セディはハイテンションのまま思考を巡らせた。
そうだ! 『コルウス』に嫌がらせをしよう!
ついでに、我が国に戦争を吹っ掛けようとした周辺諸国にも痛い目を見てもらう事としよう!
ふと窓ガラスに映った自分の表情を見て気を引き締めた。
こんな時に嬉しそうにしていてはスパイに勘付かれかねない。
セディはすぐに『悲しい』の仮面をかぶった。
そしてすぐに国王に相談した。
国王も疲労でハイになっていた為、妙なテンションでセディの八つ当たりじみた嫌がらせに全力で乗っかった。
結果、まず手始めにウソ情報を流し、教会には樹海であるハズのないコアを探し続けてもらう事にしたのだった。
ところで、アデルが【文蝶】を飛ばしたのは事件の翌日だったはずだ。
では何故3日のタイムラグが……?
場所はナナ達がいる妖精界へ、時はアデルが【文蝶】を飛ばした直後へと戻る。
「人間界と相互に連絡を取り合う方法はないの?」
私もグレアムに【文蝶】飛ばしたいんだけどなぁ。
『人間界に戻るしかないわ』
『もう戻っちゃうの?』
「え、それはムリかも。コアを持ってる緑の魔女さんを野放しにするのは心配だからねぇ」
アデル達は緑の魔女と知り合いではあるが、ナナは微妙に信用はしていないと気付いた。
『あら、緑の魔女ならすでに人間界の自分の家に帰ったわよ?』
「へ?いつ!?」
『昨夜だから、人間界ではすでに3日…いえ、4日前ってとこかしら』
「んん? ちょっと待って。今の言い方ではここと人間界では時間の進み方が違うってコト?」
『そうよ。こっちの1日は人間界の10日ね』
浦島太郎じゃないのーーーーっ!!!
あっぶな! 知らないって怖いね!
「素直に妖精界に2ヶ月いたら、人間界では1年と8ヶ月経っていたってコトじゃねーか!」とアデル。
「それを狙ってやったんなら、油断ならねぇな、緑の魔女……」とヒューバート。
2ヶ月を20ヶ月に引き伸ばそうとしたのか……
緑の魔女さんならやりそう。
でも、コアだけ拾って私達の事は見捨てる事も出来たのにそうしなかった。
悪人ってワケでもないのよねぇ。
実害が軽いから憎めないわ。
事情を説明すると、妖精さん達がフェアリーサークルで送ってくれる事になった。
妖精王まで見送りに来てくれた。
助けてもらったお礼を何かしたいのだけど……
「偶に、菓子を送って欲しい……」
どうやら【文蝶】を飛ばすお手伝いをしてくれた妖精さんが貰ったお菓子を自慢しまくったらしい。
「あいー」
「まずはー」
「これあげるー」
シロクマちゃん達がクッキーにシュークリームを添えて渡した。
妖精王の笑みが零れた。
フェアリーサークルで転移した先は緑の魔女さんの隠れ里の外れだった。
里からは死角になっているので、外から来た商人などには見つからないようにしているのだろう。
里の中を歩く。
えっと、魔女さんのお家はドコだったかな?
方向音痴には中々に難しかったが、シロクマちゃん達が思い出してくれたので何とか辿り着けた。
ドアベルを鳴らす。
出て来てくれるかな?
待っている間、盆栽を観察した。
精霊王は人間サイズなんだけど、この小さなお城で大丈夫なの?
くっついているお城の窓から中を覗いてみると、ただの空洞だった。
見ても分かんないや。
ドアはすぐに開けられた。
「お早い到着だにゃ。でも、ご主人様は研究室に閉じ籠っているので少し待つにゃ」
家の中に案内され、お茶を出してくれた。
椅子の数が足りなかったが、猫メイドさんが家中の椅子をかき集めて来てくれたので有難く座らせてもらう。
待ち時間、手持無沙汰だったのか、アデルは再び【文蝶】を飛ばした。
すると、速攻で返事が返ってきた。
それを呼んだアデルが難しい顔をした。
「何か問題でも?」とヒューバート。
「実はな、オレ等はしばらく死んでいる事にしたいから妖精界に戻ってくれと書いてある」
「妖精界には招かれないと入れないんだよね? それに【文蝶】も使えないのにどうやって向こうに知らせるの?」
「まいったな……知り合いに今【文蝶】を飛ばされたら生きているとバレるんだよな……」とアデル。
『なに、妖精界に戻りたいの?だったら、あのクッキーで手をうつわよ』
気付けばちっちゃい妖精さんが部屋の中を飛んでいた。
「【文蝶】を飛ばす為に扉を開いてくれた妖精さん! ついて来てたの!?」
『あなた達にくっついていると面白そうだったんだもの』
「お願いがあるんだけど……」
『仕方ないわね。仲間を呼んであげるけど、みんなにもクッキーをあげてよね』
猫メイドさんにはすぐに帰ると断りを入れた。
再びフェアリーサークルを作ってもらい、一瞬で妖精界に出戻ったのだった。




