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昨夜はお城に泊めてもらった。
そして朝、二日酔いでグロッキーな大人達をほっぽって、シロクマちゃん達とお城の探検中である。
朝食前なので遠くには行けないけど。
部屋を出るとすぐにちっちゃい妖精さん達が集まってきてシロクマちゃんの頭に乗った。
3匹も、もう扱いに慣れたので固まらない。
私の肩にも乗っている。
ちっちゃいよねぇ、10cmもないかな?
昨日は怒涛の如く色々な事があり細部を把握できていなかったが、おしゃべりな妖精さん達のお陰で点と点が繋がった。
・魔導飛行船を落としたのはコアを寄こせと言ってきたあの黒服5人組。
・緑の魔女さんはコアを見せて欲しくて飛行船を追ってきた。
・様子を窺っていたら私達がピンチになったのでコアを拾ってから妖精王に救助を求めた。
・妖精界にいる王様はあの樹海にいるトレントに私達の保護を要請。
・王様直々のお願いにトレントが張り切っちゃって大勢でやって来ただけなのでスタンピードではない。
・彼らは気を失ったままの私達を妖精の丘に避難させた。
・妖精さん達が回復魔法を使ってくれたのでみんな無事。
・コアは取引の末、2ヶ月の間、緑の魔女さんに貸し出す事に。
「そして私達は妖精王の慈悲でお城に2ヶ月の逗留を許されているのね」
『王様はとってもお優しいの』
本当にね。見ず知らずの私達を助けて世話してくれるなんて、感謝しきりですよ。
「妖精王って緑の魔女さんと仲がいいの?」
『大昔の恩人なんだって』
んん……恩を着せて無理言ってないよね……?
あの人、動物に変身しちゃう『魔女の秘薬』を遊びで他人に飲ませちゃうアレな人だからねぇ……
「そういえば、トレントって魔物じゃないの?」
『トレントは魔物だけど森の賢者なの』
『それに、森で生きる知性ある者達には特殊なルールがあるのよ』
「へー……ローカルルールってやつ?」
ちょっと違うか。
「ここって妖精の国なのよね?」
『そうよ。本当は人間は入ってこられないのよ』
「どこに行っても人間って嫌われてるのね……」
エルフの国でも人間は歓迎されないらしいし。
『それもあるけど、ここは人間が居る所と空間がズレているのよ』
『普通の人間は私達を見る事すら出来ないもの。こっちは見えているし触れるのにね』
ふむふむ、同じ場所にいるのに、同じ空間ではないってコト?
しかも通常は向こう側からの一方的な干渉しか許されていないなんて、前世の世界的に言えば幽霊みたい。
「何となくわかったような……なら、私達はどうやってそっち側の世界に入れたの?」
『私達が招いたからよ』
あ~、チェンジリングとかこっちにもあるんだ……
チェンジリング:人間の子供同士を入れ替えたり、妖精自身の子供と人間の赤ちゃんを交換すること。取り替えるのは赤ちゃんだけじゃなく、年老いた妖精の場合もある。
緑の魔女さんと妖精さんって、気が合うだろうな~。
「そもそも、言葉が通じるんだね?」
何となく、人間が言語を確立する前から妖精って存在していたんじゃないかって思うんだけど。
そうすると、先に喋ってたのは妖精でしょ?
何で人間に合わせてくれるんだろう?
『みんな母国語を喋ってるわよ』
『言語の精霊が耳に届く前に翻訳してくれているの。そういう魔法よ』
「ほえ~、凄い魔法があるのねぇ」
私のスキル【言語習得】も似たような原理なのかもしれないね。
妖精さん達に招かれるように歩みを進めていると庭に出た。
湖がある。
というか、建物の一部が沈んでて、水中都市みたいになってる。
きっと水中には水属性の妖精さんが住んでいるのだろう。
これぞファンタジー。
目の保養である。
『ボート遊びする?』
「いいねー」
「やるやるー」
「競争だー」
「あー、私はそこのガゼボで休んでるね」
手を振って見送り、ボートに乗ったシロクマちゃん達を写真に収めてから移動する。
このガゼボ、豪華だよね。
とても広く、柱も沢山あるけど、湖を見渡せるように水側の柱が少ない。
テーブルは円だけど、ベンチは半円。
本当に、湖を眺める為にあるみたい。
ベンチの端にちょこんと座る。
ふうっ……静かになって、タメ息が出た。
疲れているのとはちょっと違う。
でも、なんかこう胸の中に溜まっている澱を吐き出したいというか、逃がしたいというか……
瞳を閉じて情報を遮断する。
水の音、風の音、葉擦れ、小鳥のさえずり……
自然の音って落ち着くわ。
ん?………えぅぇええっ!?
目を開けたら妖精王がいるんですけど!?
いつの間にかベンチの真ん中に座ってらっしゃるんですけど!?
頬杖ついてこっち見てるよ!?
いつからいたの!?
自分に気付いたコトに気付いた妖精王がおいでおいでをした。
私を呼んでるの?頭に乗ってる妖精さんではなくて?
ぽけっとしていると、焦れた妖精さんが私の髪の毛を引っ張った。
『もう、王様が呼んでるでしょーがっ』
あい、ごめんちゃい。
でもだって、妖精王って昨日から一言もしゃべったコトないんだよ。
アデルが挨拶しても、無表情で頷くだけだったし。
自分からほぼ初対面の人間に関わろうとするとは思わないじゃない。
ベンチを降りて、後ろ側を歩いて妖精王に近づく。
「何かご用ですか?」
訊ねると、妖精王に抱えられ、膝の上に乗せられた。
ほわっつ!?
「魂が凍えている……」
頭を撫でられ、言われて気が付いた。
そうか、私はずっと恐怖に凍えていたんだ。
「また、大切な人と一緒にいるのに呆気なく死ぬのかと思った……」
死は突然やって来る。
対策もできず、強制される。
魔力が切れて意識を失ったあの時から、ずっと喉元に刃を突き付けられている感覚に陥っていた。
だから深く息を吸う事も、吐き出す事も出来ず息苦しかった。
それを自覚せずにいたからタメ息が出た。
「また?」
あ、しまった、つい……
人生に死は一度きり。
『また』は有り得ない。
「えーっと、その、言葉の綾っていうか……」
「ふむ。まあよい。ここは安全だ。ゆっくり休むといい」
「ありがとう」
ぼんやりとしていた感覚に名前がついて精神が普段通りに戻った。
人はわからない事に不安や恐怖を覚える。
状態に名前がつくだけでも安心出来るようだ。
で、ナデナデが終わらない。
ナニゴト?
ペット扱いされているのだろうか?
妖精にとって、人間はペットなの!?
(誤解である。後でちっちゃい妖精さんに聞いたら笑われた)
扱いはとても丁寧だけど……
そう、これはエルフがシロクマちゃん達をちやほやしてた時に似てるよね?
「もしかして、いつも一緒にいるから私にシロクマちゃん達の神気が移っているとか?」
「ああ、それもあるが、そなたも中々の癒しだぞ」
どの辺が?
という言葉が出かかったが、私だってシロクマちゃん達は癒しだ。
何故?と聞かれたところでうまく言葉で表現できない。
癒しは癒しだよね、うん。
話が終わり、解放されるかと思いきや、その場で朝食が始まった。
人間サイズの妖精メイドさん達が次々とお皿を並べてゆく。
昨夜の宴の時のメイドさん達だ。
服装はいわゆるメイド服ではなく、古代ギリシャやローマっぽいっていうの?
まあ、あれのオシャレ版とでもいうのだろうか?
みんな同じデザインなのでお仕着せなのだろう。
私は妖精王のお膝の上から降ろされる事なく食べ物がお口に運ばれてくる。
いわゆる『あーん』だ。
「えーっと、自分で食べられますよ?」
ご飯はシロクマちゃん達と一緒に食べたい。
「……………………」
妖精王が見るからにしょぼーんした。
仕方ないので口を開けた。
んんっ、妖精王が笑った!
「あー、ナナがごはん食べてるー」
「ずるいー」
「お腹空いたー」
朝食前に運動したので余計腹ペコだろう。
「そなた達のも用意させた」
妖精王が合図すると、メイドさん達が待ってましたと言わんばかりにセッティングする。
3匹の機嫌はコロッと直った。
シロクマちゃん達にはやはりテーブルが高過ぎるから補助椅子を出そうと思ったら、メイドさん達が膝に乗せてあーんし始めた。
自由だね、メイドさん。
人間社会のルールとは随分違うねぇ。
食事が終わった頃、【文蝶】が飛んできた。
私宛だった。
なになに……?
差出人はアデルだった。
セディに報告書を送ろうとしたが、【文蝶】がすぐに戻って来るというのだ。
それで妖精界では【文蝶】が使えないのか試しに私に飛ばしてみたというコトだった。
「アデルが【文蝶】が届かないって言ってるけど、何か知ってます?」
「妖精界は人間界と重なってはいるが、少しズレているからな。結界で隔てられているようなものだ。だから人間の魔法では通信できない」
「え?それ以外の魔法があるの!?」
あ、タメ口きいちゃった……
「我々が使っているのは精霊魔法だ」
「ああ、そういう。なら、どうしたらいいの?あ、いや、いいんですか?」
「ふっ、タメ口でいいぞ。連絡なら、小さな妖精に願えばいい。彼らは皆『妖精の鍵』を持っている」
「妖精の鍵?」
つい、オウム返ししてしまった。
『これよ』
私の肩にずっと乗っていたちっちゃい妖精さんが飛び立ち、目の前で見せてくれた。
体の割に大きなカギを持っている。
これまたおとぎ話に出てきそうなアンティーク調で装飾の美しい代物だった。
「素敵なデザインね」
『うふふ、ありがとう』
上機嫌になった妖精さんが説明してくれた。
妖精界と人間界は常にユラユラと漂っていて重なったりズレたりしている。
なので、2つの界層を行き来する為にはいくつかの方法が存在する。
1つ目は界層が偶然重なった場所に、偶然立っているというただの運。
2つ目はフェアリーサークルで転移する。
3つ目は事前に空間を固定しておく。
実は他にもあるらしいが、妖精には使えない方法らしい。
で、3つ目の方法に妖精の鍵を使うのだという。
『緑の魔女の隠れ里に行った事あるんでしょう?軒先に盆栽を見なかった?お家がついているヤツ』
「ああ、あったね。緑の魔女さんの玄関にはお城がくっついてる盆栽があった」
『そのお家が出入口よ』
「えーっと、鍵はそのお家のってコト?」
フェアリーサークルは大勢で踊らないとダメなので、個人で気軽に移動したい時に鍵を使うという。
樹木を媒介とする必要があるけど、地面に根を張っている普通の木だと上手くいかないらしい。
だから、盆栽である必要があるのだとか。
妖精界には招かれないと入れない魔女さん。
固定の出入口は外側で管理してもらわないと維持できない妖精さん達。
緑の魔女さんが『共存共栄』って言ってたのはこれか。
「アデルってば近くにいる妖精さんに聞けばすぐわかっただろうに」
『あの人達お酒臭いから誰も近寄らないわよ』
あはは、そんなに飲んだのか。
仕方ないので教えに行く事にした。
幼女+3匹が立ち去る時に妖精王にもメイドさん達にも名残惜しそうにされたが、お膝の上は緊張するから用事が出来て助かった。
「はよー、みんな。酔いは覚めた?」
「ああ、もらった秘薬がよく効いた」
それ、たぶん、消臭の目的でくれたんだと思うよ。
言わないけど。
「【文蝶】は妖精さんに協力してもらわないと届かないんだって」
そんなワケで、ずっと私の肩に乗っている妖精さんにお願いした。
会話を聞いていたから話が通じやすいのよね。
『じゃあ、いくわよ』
妖精さんは鍵を取り出して、虚空に突き刺して鍵を回した。
すると、突然小さな扉が現れた。
開くと異次元に繋がってそうなエフェクトが見える。
『これで人間界に繋がったわよ』
アデルは慌てて【文蝶】を飛ばした。
「ありがとうな」
『お礼はミルクとクッキーでいいわよ』
シロクマちゃんがさっと出してくれた。
妖精さんは上機嫌に抱えて飛んでいった。
力持ちだなー。
でも、パック牛乳の飲み方を教えなくてよかったのかな?
ストローを挿すって気付いてくれればいいけど。
いや、気付いてもストローが大き過ぎて吸い上げるのは無理だった。
最悪、紙だから切ってしまえばいっか。
「あれ?そういえば、向こうからの連絡は届かないんじゃない?」
『妖精の鍵のコトは人間に教えちゃダメよ』
シロクマちゃんの頭に居た妖精さんに釘を刺された。
「あ、うん」
私達も人間なんだけど、いいのかな……?




