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やっちゃった………
感情に任せてぶっ飛ばしちゃった……
「このクソガキ! どういうつもりだ!」
コアを受け取るハズだった黒服がスゴむ。
ソフトモヒカンで刈り上げ部分に芸術的な模様の剃り込みの入った赤髪のにぃちゃん。
人は見かけで判断しちゃダメだってよく言うけど、服装などの好みで性格はちょっとぐらい判断できそうじゃない?
例えば、このおにぃさんはヤンキータイプ、とか。
無闇に刺激しない方がいいとはわかっていても、まだアドレナリンが出てるのよ。
「なによ、私はちゃんと渡したのにそっちが受け取れなかったんでしょ?」
もちろんワザと受け取れないようにしたんだけど、さもそっちが悪いのだと言いきった。
おまけに、ツーンとそっぽ向く。
「ぬかせ! 殺されたいか!」
「早く取りに行ったら?魔物が食べちゃうかもよ?」
コアが魔物の好物なんて話は聞いた事ないけど。
「テメェが取りに行けよ」
「別にいいけどー。それだとコアは手に入らないよ? 私一人で樹海を彷徨ったら確実に死ぬから」
「堂々と脆弱宣言してんなよ」
「のんびりしてていいの? ほらほら取っておいでー、教会のワンちゃん?」
「こんのっ…!」
剃り込みさんが荒い足取りで近づいて来て目の前で止まり、右足を後ろに引いた。
あ、ヤバ…蹴られる……っ!?
「止めろ」
視界が真っ黒になった。
目の前に人が現れたからだ。
庇ってくれた人も黒服だった。
えっと、多分このアッシュ系の青髪の人がリーダーだ。
ちなみに後の3人はふわふわで淡いオレンジ髪の天使みたいな美少年と。
茶色短髪の寡黙体育会系と。
色素薄くて顔色の悪い病弱系だ。
なんて個性の主張の激しい集団だ……リーダー以外は。
「ガキ相手にムキになるな。みっともない」
「クソっ!」
剃り込みさんは悪態ついたけど下がってくれた。
どうやら命だけは助かったらしい。
うん、頭冷えた。
「それで? 場所を特定する方法があるのだろう? 吐け」
青髪さん、うんこ座りでメンチ切ってこないで。
「へ? そんなモンないよ? 逆にそんな魔法が存在するの?」
失せ物探しの魔法とか?
だったら知りたい。
嘘をついているワケではないとわかったのだろう。
青髪さんの眉間にグッと皺が寄った。
「は? なら、どうやって回収するつもりだ?」
わぁ…何で私の頭に手のひらを乗せるの?
ぐりぐりしないで。
視界がブレて酔う~。
「死なば諸共のつもりだった」
そんなん、プチっときてウガーっとなっただけだし。
それに、チラッと空に見えたんだよね。
この辺りは広葉樹だから葉っぱが広がってて空は見えにくい。
でも、隙間に黒いものが見えた。
箒じゃなくて杖に乗った魔女と黒猫だったと思う。
あれはたぶん緑の魔女さん。
ダンジョン・コア欲しがってたもんねぇ。
あとで返してくれるかな……?
「ガキかっ!?」
青髪さん、堅物かと思ったけど普通にツッコミ入れたね。
「見ての通り、ガキですが何か?」
あっ、チョーシに乗り過ぎましたゴメンなさい。
首根っこ掴んで持ち上げないでください。
「フザケんなよ、マジでこの広大な樹海からちっせー球1個探し出さなきゃならねぇのかよ!? やっぱぶっコロ!」
その時、周囲の木が動いた。
「なっ、トレントかっ!?」
アデル達を庇う為に咄嗟に【バリア(障壁)】と唱えたが、パチンと弾けてしまった。
魔力切れだ。
しまった! 意識が……嘘でしょ、私達、ここで終わっちゃうの……っ!?
いつの間に囲まれていたのか、うねうねと根が伸びてきて、人間を絡め取っていく。
その数は尋常ではなく、倒れていたアデル達をあっという間に飲み込んだ。
「数がヤベぇ! スタンピードか!?」
黒服達は真面に相手にするのはバカらしいと姿を消した。
青髪もナナを小脇に抱えて走り出した。
しかし根がナナに絡みつく。
青髪はナイフを取り出してナナの足に絡みついた根を切り離す。
が、根はしつこくナナ達を狙ってくる。
青髪は逡巡したが、ナナを放してスピードを上げた。
「きゃーっ! みんな食べられちゃうーっ!!!」
「落ち着け」
「きゃーっ! トレントがしゃべったーっ!!!」
「ナナー、それはアデルー」
「ここはー」
「安全だからー」
「はっ、みんな無事!? 【ヒール(回復)】いる!?」
「大丈夫。手当て済みだ」
そう言ってアデルに頭を撫でられてやっと落ち着いた。
ならば、報告しないといけない事が……
「あの、ごめんなさい……ダンジョン・コア失くしちゃった……」
「…何があったのか、話してくれないか?」とヒューバート。
仲間を守り切れず、ナナより先に意識を飛ばしたであろう自分を恥じ、大人達は神妙にナナの話を聞いた。
申し訳なさ過ぎてみんなの視線が落ち着かない。
顔を隠す様にシロクマちゃんを抱きしめながら説明した。
みんなを人質に取られ、コアを渡せと言われた。
ハッタリだと思えなかったから渡すしかなかったけど、ムカついたので魔法でぶっ飛ばしてしまい樹海の彼方に消えてしまった。
その後すぐにトレントの群れに襲われて、黒服達は撤退。
「私達は食べられたと思ったんだけど、何故か生きてた……」
「またお前に助けられたようだな。ありがとうな」
「あの、コア失くしちゃったんだよ?怒らないの?」
「なぜ怒る必要がある?お前はその時打てる手を打った。何より皆ちゃんと生きている。なあに、アイツ等に探させて、後でぶんどりゃいいのさ。倍返ししてやろうぜ」とヒューバート。
ぴえ~んっ!
私の頭を撫でる手つきが優しくて、さっきの言葉が本心だとわかる。
ヒューバートにしがみついて泣いてしまった。
そういえば、ここはどこ?
目が覚めて、やっと周囲に意識を向けることが出来た。
まず上を見る。
夜空だ。
次に下を見る。
一面のお花畑。花自体が発光してる?
空も地面も星が瞬いている……
え?さっきまで樹海にいたよね?イチゴちゃんの転移魔法かな?
『お話終わった?』
その時、花の影から淡く輝く何かがフワリといくつも舞い上がった。
『ほら、お城に行くわよ?』
『妖精王様が待ってるわ』
「わ、ちっちゃい!かわいい!」
声がした方を見ると、自分達の周りを羽の生えたリカちゃん人形が何体も飛んでいた。
きゃぁう! 妖精さんだ! 初めて見たよ!
半透明でキラキラ光る蝶のような羽を付けたミニチュアエルフだ!
「えっと、ナナです。よろしくね?」
人差し指を差し出すと、ハイタッチしてくれた。
モフモフ好きの妖精さん達が我慢できずにシロクマちゃん達に抱きついた。
妖精さんが小さすぎるので、不意に動いて怪我をさせないようテディベアと化している3匹。
モフモフとちっちゃいのが戯れている。
よき。
妖精さん達の案内で花畑を進む。
そういえば、体が軽い。
魔力もだいぶ戻っている。
「妖精さん達。私まで治療をしてくれてたのね、ありがとう」
『どういたしまして』
ぽっかりと円状に花が生えていない場所に着いた。
石で輪が描かれ、それが三重になっている。
妖精さん達が一番外側の輪の上で踊ると、地面から光るキノコがぽこぽこ生えてきた。
フェアリーサークルだ。
『入って。ここからお城に行くのよ』
ん……フェアリーサークルって、危ないんじゃなかった?
年を取らなくなるとか、異世界に迷い込むとか言われてなかった?
この世界は違うの……?
ドキドキしてサークルに入ると、魔法陣が現れて光った。
これ、転移陣だ……
輪の大きさは、利用する人数で決めているのか。
「お待ちしてましたにゃ」
声を掛けてきたのはメイド服を着たお顔は猫のままの獣人。
「あー、緑の魔女さんとこのメイドさん!」
「知り合いか?」とアデル。
「護衛依頼の時に立ち寄った隠れ里でお茶をご馳走になったの」
「お久しぶりですにゃ。その節は『異界品』の手土産、超絶感謝ですにゃ。クセになる味で全部美味しくいただいたのにゃ」
「いえいえ。あの、私達はあなた達に助けてもらったって事よね? 命の恩人だわ。本当にありがとう」
「困った時はお互い様にゃ」
猫メイドさんの後をついて行きながら、周りを観察する。
建築には詳しくないから様式とかはさっぱりだけど、美しいのはわかる。
壁も床もおとぎ話に出てきそうなオーロラの輝きを放っていた。
妖精さん達は小さいままなのに、お城は人間サイズなのね?
まあ、妖精さんにも様々なサイズがあるよね。
お城は大きいので結構歩いた。
居住区みたいなところに出た。
とある扉の前で止まる。
「ご主人様。お客様をお連れしたのにゃ」
部屋は応接室で、中にいたのは緑の魔女さんだけではなかった。
金髪碧眼のエルフに似た青年。
美しい容姿とハンパない威厳は王様だな。
アデル達は先に名乗った。
「久しぶりね、ナナ。こっちは妖精王よ。あなた達が殺されそうだったからトレントを使ってここまで連れて来たのよ」
王様をこっちとか言っちゃったよ、魔女さん?
なんだか、随分親しそうな感じだね?
あと、シロクマちゃん達が妖精王に懐いて膝の上で丸くなってるんだけど……
無表情の妖精王の顔が少し緩んでいるから、まあ、いっか。
「お初にお目にかかります、妖精王様。我らはクラン『エピタフ』。迷宮を攻略せし者です。この度はご助力悼みいります」
こういう時はアデル様様である。
相手が王様だろうと無難に対応してくれる。
流石お貴族様。頼りになるぅ。
「時間が勿体ないから本題に入るわよ。ダンジョン・コアは私が拾ったわ」と緑の魔女さん。
「よかったぁ。魔女さんがチラリと見えたからきっと拾ってくれるって信じてた」
アデル達も安堵し、大いに喜ぶ。
「そんな事だろうと思ったわよ。この私に向かって『取って来い』だなんてね」
「えうぅ、そんなつもりじゃ……」
「冗談よ。それで単刀直入に言うわ。コアをしばらく貸して欲しいの」
やっぱりそうくるよね~。
後にも先にもコアの研究なんてチャンスはこの1回きりだろうから。
一方、魔女さんの研究テーマを知らないアデルは、彼女の要求に警戒の様相を見せた。
が、恩人の頼みをすげなく断る事も出来ない。
「………期間は?」
「半年」
「長過ぎる」
「あなた達を今すぐ樹海に帰す事もできるわよ」
「脅迫とはいただけませんね?」
「コアをただ持ち去るだけ、なんて事も出来たのよ?」
それを言われると痛い。
「~~~わかった。1ヶ月だ」
「話しにならない。研究を何だと思ってんの?……せめて4ヶ月よ」
「『コープランド』の民に長期間被災者生活を強いるのは看過できない」
アデルのセリフから、次の候補地が既に決まっていて、更にコープランドという地名で事情を悟った緑の魔女。
「…じゃあ、3ヶ月。これ以上はびた一文負けないわ」
「1ヶ月以上は無理だ」
睨み合いは続いた。
2人はお互いに譲る気はないようだ。
「はい、提案」
私は手を上げながら横入りした。
「ジャンケンで決めれば?アデルが勝ったら1ヶ月の貸し出し、緑の魔女さんが勝ったら3ヶ月間の貸し出し。もしくは、勝負せずに互いの中間点である2ヶ月を落としどころとするか……」
「「のった!」」
2人とも自分が負けて望まない期間となる事を忌避し、中間点を選んだ。
結局2ヶ月の貸し出しとなったのだった。
そういえば、シロクマちゃん達が静かだったなぁ。
チラリと妖精王の膝の上を見た。
3匹はぺしょっと突っ伏していた。
「ああ、やっぱりお腹が空き過ぎて溶けかかってたのね」
前にもあったね。
ごめんよ、ひもじい思いをさせて。
「食事を用意させよう」
話し合いには一言も口を挟まなかった妖精王が膝の上のシロクマちゃん達を撫でながら言った。
多分、お腹の鳴る音がしていたのだろう。
妖精王は優しいんだな。
魔女さんは早速研究室に籠ると言い、妖精王も自室に戻るというのでナナ達11人だけとなった。
やっと落ち着いて祝えるんだなぁ。
「私達、迷宮を完全攻略した勇者パーティーになったんだよねぇ」
感慨深いねぇ。と思ったのは私だけではなかったようで。
妖精王の気遣いもあり、晩餐は飲めや歌えの大騒ぎとなった。
勿論、翌日の二日酔いもセットである。




