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現れたダンジョン・コアに気を取られていたら、急に抱え上げられ抱きしめられた。
「ありがとうな、ナナ」
ヒューバートを皮切りに、みんなにお礼を言われた。
「ええええ!? 急に何?」
「あれは、即死攻撃だったんだろ?」
「あー、あれね。たまたま対処法が書いてあってね、覚えててよかったよ」
「ああ。本当に、感謝する」
「大袈裟だなぁ、ヒューバートは」
感極まったらしい彼の頭をなでなでする。
こんなに感動しいだったかな?
ほらほら、アデル達が生温い表情しているよー。
お前がいなかったら3人死んでいたんだが……
ナナのやつ、また凄い事をしたというのを理解してないんだろうな……
と、アデル達に思われていたのだが、気づかないのがナナだった。
「それにしても、お前が一番に攻撃を仕掛けるとは思わなかったぜ」とアデル。
「あー、私のドッペルがクロクマちゃん達と合体魔法を使ったりしたら正直脅威だったし」
レールガンなんて撃たれたら、私のバリアでは防げなかっただろう。
避ける事も敵わないし、絶体絶命だ。いや『絶対』絶命だ。
実際、シロクマちゃん達の戦いは戦略無しの肉弾戦。
一撃で倒せないから癇癪起こしてしてぐるぐるパンチを繰り出す始末。
性格も投影されたクロクマちゃんも同じ行動をとる。
本当にかわいいものを見れた。
あの時、先制攻撃という一瞬の判断をした自分、グッジョブ!
本体は鏡なのでドッペルは倒したら霧となって消える。
自分達の姿をしたモノから魔石を取り出さなくていいのは助かった。
割れた鏡の縁の装飾の中に紛れている魔石を引っこ抜く。
私のは凍らせてしまったからまずは氷を溶かさなきゃ。
ん? シロクマちゃん達が大人しいな?
あ、隅っこで輪になっていじけてる……
ドッペルは知り合いや自分を倒さなければならないという精神を抉る敵だけど、あのコ達はちょっと違う角度から心を抉られてるねぇ。
「シロクマちゃん達、そんな端っこに居ないで一緒に魔石探して欲しいなぁ」
歩みの遅い3匹のお手々を引っ張って、てちてちと鏡のところに戻ってきた。
ノロノロと魔石を探す。
「手伝ってくれてありがとう。シロクマちゃん達が居てくれて助かるよ」
「……もちろんー」
「ナナを育てるのはー」
「わたし達なのだー」
お、元気になったね。
愛いやつらめ。
モフモフして3匹とじゃれていると、アデル達も一緒にモフモフした。
みんなに構われて、シロクマちゃん達は完全に復活した。
みんなでダンジョン・コアを囲む。
「これがコア……」
ああ、そうか……全て終わったんだ……
とうとう100階層全部クリアしたんだ……
気持ちがフワフワして実感がない。
シロクマちゃんをギュッと抱きしめた。
台座の上には金属の輪っかがゆっくり回りながら幾重にも重なり球体を形作っているアーミラリ天球儀に似たモノがあった。
中心には輝く宝石の様な球体が浮いていた。
透明感のあるオリーブグリーンはペリドットの様だ。
よく見ると、中に宇宙がある。
銀河が閉じ込められているみたい。
星々が煌めき、ゆったりと揺らめいている。
凄い……生命の塊みたいだ……
「それ外したらダンジョンが消えるんでしょ? 先に宝箱開けよう?」
開ける名誉はシロクマちゃん達に譲る。
口でドラムロールを奏でたと思ったら「とうー」と開けた。
独特の間だね。
ごそごそと引っ張り出し、カリンちゃんがみんなに見えるように『迷宮都市』を生み出すというクリスタルオーブを頭上に掲げた。
ちなみにイチゴちゃんとラムネちゃんが「じゃじゃーん」と口で効果音を言って両手の平でキラキラさせてオーブに注目を集めている。
かわいい。
記念にパシャリ。
オーブも美しかった。
ランタンの中に黄緑色の炎を内包する不思議なクリスタルが閉じ込めてある。
ランタンと言っても、キャンプに持っていくようなヤツではなく、細工の美しいペンダントケージ寄りだ。
サイズは大人の拳くらいあるけど。
コアとオーブの色が似通っていて、対となっているのがわかった。
「あいー」とカリンちゃんがヒューバートに渡そうとするが、逆にアイテムボックスに収納しておいてくれと頼まれた。
カリンちゃんが「らじゃー」と仕舞うと、イチゴちゃんが宝箱に頭を突っ込んだ。
他の2匹もつられて中を覗く。
「あれー?」
「カギも入ってるよー?」
「しかも2コー」
「もしかしたら、コアとオーブ用じゃない?」
オーブはともかく、コアはどうやって取るんだろうと思ってたけどカギを使うんだね。
もう1個は街を造る時にオーブを使う時だろう。
「なら、早速使ってみるか」とアデル。
「じゃあ、お前達は逸れないように抱っこしとこうな」
ヒューバートが私を抱え、シロクマちゃん達はレスター、ロイド、ノエルに抱っこちゃんした。
子供扱いして! と思わないでもないが、ダンジョンが消えたらみんなが外に出されるらしいので、冒険者と探索者でごった返すだろう。
ちびっこに人混みは厳しい。
素直に助かるわぁ。
アデルが台座に鍵を挿した。
右に回すと、金属の輪っかがキュルキュルと回り、縮んでいく。
コアも輝きを失い、まるで籠の鳥。
オーブみたいにこっちもケージに収まった。
アデルがそれをひょいっと持ち上げ、私にパスをした。
「どぅふっ! 重っ!」
バレーボール大の金属の塊は凶器だよ……
「悪ぃ、悪ぃ。収納頼む」
「おけー」
シュンっと収納すると、足元に魔法陣が現れた。
転移陣か……本当に、これで終わりなんだなぁ……
強い光に包まれ、一瞬後、迷宮の0階があった公園に居た。
案の定、人でごった返していた。
迷宮を見上げると、建物の輪郭はすでになく、巨大な光の球となっていた。
そして打ち上げ花火のようにパッと散った。
命の欠片が地上に降り注ぐ……
空のショーが終わると、周囲の人々が私達に気付いた。
ワッと囲まれる。
おめでとうの嵐。
以外にも、暴力をもって奪おうとする者はいないようだ。
もみくちゃにされているものの、胴上げでもされそうな勢いだ。
わちゃわちゃしていると人混みが割れ、騎士団がこちらに向かってきた。
先頭にいるのはグレアムだ。
「おめでとうございます、クラン『エピタフ』の皆様」
「ありがとうございます、領主様」
代表して挨拶するのはアデル。
クラマスだし、貴族だしね。
「祝典を開催致しますので、どうぞご出席ください」
「いえいえ、お気遣いなく。余所者の為に時間も税金も労力もお使いになられませぬよう」
一体これは何の茶番なのだろう?
「ねえ、何だか雰囲気悪いけど、どういうコト?」
こっそりヒューバートに聞いたら、人前で堂々と捕縛できないから屋敷に呼んで私達を捕まえダンジョン・コアを奪うつもりだろう、と。
ああ、グレアムも領主として動いているのね。
前世が何だろうと、今、この時を生きている者として自分の責任を果たさないと。
「おいおい、領主様。ちょいと強引過ぎるんじゃないかい?」
横から入って来たのはこの街のギルマスのエゼルちゃんだった。
なんか受付コンビの他に、強面さん達を大勢引き連れてるんですけど?
「冒険者が命を懸けて手に入れた成果を横から掻っ攫おうなんてずいぶん下品な真似をするじゃないの」
あわわ、私達を庇ってくれるのは嬉しいけど、相変わらずかわいい顔して口が悪いんだから。
グレアムも不機嫌な態度を隠さないし、騎士達が気色ばんでいるよ……
いや、周囲にいる冒険者がみんなもっと険しい顔をしている。
貴族が権力を振りかざして冒険者の戦利品を掠め取ろうとしているのが許せないのだ。
冒険者って、自由を愛するからねぇ。
乱闘騒ぎ一触即発。
「貴重品を持っているんです、警備体制の整った我が屋敷にいる方が安全だと思うのですが?」
グレアム達の言い争いはまだ続いていた。
「心配いらないぜ。冒険者連中には充分言い聞かせているからな」
おおう、エゼルちゃん気が利くぅ!
でも、何故だろう? 『言い聞かせた』って部分のルビが『脅した』に見える気がするんだけど……
実際、エゼルミアは「人のモンを奪うようなゴミ冒険者は地獄の果てまで追いかけてでもボクが直々に手を下すぞ」と殺気を飛ばしながら凶悪な面で言い放ったのだった。
それに、受付にぃが「もし奪ったとしても、次に命を狙われるのはソイツですしね」と援護。
「狙うのは冒険者だけでもないでしょう。闇ギルドに狙われてもルールを守らない冒険者を庇う義務は我々にもありませんしねぇ」と買取にぃも援護した。
ルールを守る者はギルドに守られる。
冒険者は改めて自分達の立場を理解した。
誰かが奪えば更に誰かが奪おうとする。
世界中どこにも安寧の地はない。
あと、売却しようにも奪った物に正当な値段をつける買い手の当てもない。
それがわかっていて手を出そうとする冒険者はそうそういない。
居たとしても、それほどの腕と気概を持つ冒険者はスタンピードに備えて各地で招集されているのでここにはいないのだった。
誰も引く気がない不毛な会話が続く中、ヒューバートは頭上を気にしていた。
つられて見上げると、雲の中に巨大な影が。
あれはもしや……?
じっと見ていると、雲を突き抜けてそれは現れた。
魔導飛行船だ。
以前見せてもらったデザイン画にそっくり。
ジャンボジェットより短いハズなのに、胴体が太いし翼を広げているからより大きく見える。
他の冒険者も気付き、騒ぎになった。
見た事のない巨大な何かは恐怖だろう。
ドラゴンと間違えている人もいる。
飛行船がゆっくりと近づいてくるけど、私達をどうやって乗せようというの?
「極力近づいてロープを垂らす予定だったが、この様子だと乗っ取られかねねぇな……」とヒューバート。
うわぁ、それはヤバいでしょ。
ロープ取られたら目も当てられない。
「私がバリアで高さを稼ごうか?」
「ああ、それいいな。頼む」
グレアムの相手をしていたアデルと背後に控えていたサイラスとレスターに近寄る。
「エゼルちゃん、庇ってくれてありがとうね」
受付コンビにも手を振ると小さく振り返してくれた。
「仕事だ。気にするな」
「グレアム。私達、もう行くね」
言って自分達11人をバリアで囲った。
そして足元のバリアを変形。
上にググーっと伸ばした。
冒険者達が歓声を上げる。
領主と騎士団という敵の存在が冒険者に一体感をもたらした。
「撃て」
グレアムの短い命令。
騎士団が魔法を放ってきた。
ビックリして下を見るとグレアムと目が合った。
ニシシっと笑った表情から如実に伝わった。
これくらい平気だろ、茶番に付き合え、と言っているのが……
グレアムのあほー!
やり過ぎだよー!
バリアを2重にして強化する。
どうやらあの程度の魔法には耐えられるようだ。
だが、飛行船まで狙われたらどうしよう……
あの大きさを覆う自信はないよ……
「大丈夫。魔法は100メートルを越えると急激に威力を失くす。魔導飛行船に搭載されているバリアを破る事は出来ないよ」とメイソン。
なら、安心だね。
でも、別の問題発生。
「バリア、これ以上は伸ばせないかも……」
飛行船までまだ数十メートルあるよ……
再び下を見ると、攻撃が止んでいた。
冒険者と騎士団が乱闘している……
「あ。体積を小さくすればいいんだ」
私はちょっとだけ上にバリアで床を作った。
大きなバリアをでーんと作るより、小さいバリアを複数作る方が負担は少ない。
魔法が飛んでこないなら足元だけでいい。
それを何枚も階段状に積み上げていく。
ヒューバートは私を抱えたままひょいひょいと飛び移っていく。
飛行船の側面が開き、中から人が現れこっちに来いと誘導してくれた。
私達は無事、魔導飛行船に乗船することが出来たのだった。




