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今回は猟奇的です。
苦手な方はご注意ください。
ボスを倒したと思ったら、新手が現れた。
みんなの警戒度がグッと上がった。
アレはヤバい……
会話してくるフロアボスは蒼天だけだった。
その蒼天は勝てたのが不思議なくらいべらぼうに強かった。
知性が高いという事は戦略を使うのだ。
学習して対処してくる。
それを証明するように、大きな体を脱ぎ捨ててきたかの如く、小さく身軽になったヤツに同じ攻撃は通用しなかった。
ソレは実に楽しそうに私達をいたぶった。
あっという間だった。
みんな倒れていた。
シロクマちゃん達も。
【ヒール(回復)】かけなきゃ……
『魔法を使うのか?』
ギクリと肩が跳ねた。
声は真上からだった。
コンテナの影に隠れていたが、上から覗かれていたのだ。
上を見る勇気がない。
『お前の魂は変わってるなぁ』
怪獣の手がナナに伸びる。
が、頭を掴む直前で止まった。
『おっと、子供の肉は柔らかいからなぁ、力の加減を間違えたら潰れちゃうなぁ』
何それ……
今、生まれたばかりじゃないの?
以前にも人間の子供を殺したことがあるみたいな言い方……
『肉を引き裂いて見てみたいなぁ。中も違うのかなぁ? 一匹じゃ足りないなぁ。お前を増やすのはどうしたらいいかなぁ? 切り刻んで培養するか? それとも、そこいらのと番わせてみるか?』
ゾッとした。
コイツにとって、私達人間はモルモットなんだ。
しかも、痛みとか恐怖とか考慮する事もない存在。
もしかして……
「あなた、悪魔…?」
上を見上げたら、ソイツはニタリと笑った。
ラノベでよくあるように、異世界転生した主人公の最大の問題は『殺し』だ。
自分の命が狙われた場合でも、いくつかハードルがある。
人型の魔物を倒せるか?
更に言葉をしゃべり、意思疎通できる敵を葬れるか?
同じ人間を手に掛けることが出来るのか?
盗賊に遭遇した時、私には無理だった。
今回も怪獣とはいえ人の言葉を話す生き物を相手に出来るワケない。
そう、思っていた……
でも、コイツが喋れば喋るほど人とは違う生き物だと痛感する。
ずっと引っ掛かっていた。
神に負けてこの世界から追い出された悪魔。
その後に地上を支配した人間。
奪ったのはどっち?
戻ろうとしている悪魔の邪魔をするのは筋違いなのでは?
でも、もうそんなの関係ない。
人権を奪われ、人が人として生きられない世界なんて、悪魔の奴隷なんてまっぴらよ。
今の生活を奪わせない。
今度は自分達の力で自由を勝ち取らなきゃ…!
まずは足止めに悪魔を囲む…
【バリア(障壁)】!
心の中で詠唱しても『無詠唱』と呼べるのかな?
まあ、出来るんだからどっちでもいっか。
悪魔は急に現れた透明な障壁に興味を示した。
その隙に、みんなに【エリアヒール(範囲回復)】をかけた。
「イチゴちゃん、今の内にみんなを転移させて!」
「がってんーっ!」
みんなも素早く一ヵ所に集まる。
「ナナもー」
「早くー」
「こっち来てー」
「今行くー」
走り出したが、背後でパリーン! と嫌な音がした。
走りながら振り返ったが、既に腕が迫っていて……
「「「ナナーっ!!!」」」
大きな手で胴体を掴まれた。
こんなの抜けられない…!
「私は後でいいから、すぐに転移して!」
しかし、敵は言葉が通じるのだ。
悪魔が見逃してくれるハズもなく……
魔法を撃ち込まれ、散り散りに避けた為、転移できたのはかたまっていたシロクマちゃん達だけだった。
だが、みんな安堵した。
シロクマちゃん達が無事なら希望は繋がった。
こっちが隙さえ作れば必ず転移させてくれるハズ…!
ヒット・アンド・アウェイと行こうじゃないか!
『あー、白いのはもっと太らせてから喰おうと思ってたんだがなぁ』
はぁ…?
今、なんて言った……?
私のシロクマちゃん達を食べる…?
ふざっけんなっ!!!
管制室に転移したシロクマちゃん達は速攻で窓に張り付き格納庫の中を覗き込んだ。
敵は素早い。
闇雲に飛び込んでもまた邪魔される。
チャンスをうかがわなきゃ……
アデル達はナナが捕まっているからおいそれと手が出せずにいる。
ナナは……
「ありー?」
「ナナってばー」
「めっちゃ怒ってるー?」
流石に会話は聞こえない為、ナナの怒りの原因はわからないハズだったが、シロクマちゃん達は推測できた。
「たぶんー」
「わたし達のコトー」
「なんか言われたっぽいねー」
さっきまでの焦りはどこに行ったのか、3匹は「わたし達愛されてるー」とデレデレした。
「今度はどんな魔法でー」
「敵をぶっ飛ばすんだろうねー?」
「お手伝いしなきゃー」
3匹はナナの思想を読み、ここだ!と見極める為にガラスに張り付いた。
やだ、かわいい。
頭に血が上っていたけど、いるであろう管制室を視線だけで見上げると、シロクマちゃん達が同じポーズでべったりガラスに張り付いてて癒された。
毛並みが潰れるのも構わず一生懸命覗いている。
透明な板の上で香箱座りする猫を下から愛でる感じに似てるわ。
よし、落ち着いた。
ただ暴れたって私に勝ち目はない。
まずは、この拘束から抜け出さなきゃ……
下を見た。
狙いはココ。
私を掴んでいる腕の位置を確認。
そして上を見た。
悪魔と目が合った。
私は笑い返してやった。
もしかしたらニッコリではなくニヤリだったかもしれない。
「【インペネ(不可侵領域)】」
それは【バリア(障壁)】の上位魔法。
悪魔を囲った障壁はヤツの腕を切断した。
当然私は重力に従い落下したが、こっちの世界の肉体は頑強なので大丈夫……
「って、何で切れたのに離れないのっ!?」
まだ意思があるかの如く締め上げてくる。
苦し……っ
「「「モフるんジャー参上ー!」」」
シロクマちゃん達が現れて腕を外してくれた。
それでもまだ動いているから腕はバリアで閉じ込めた。
「ありがとう~」
幼女+3匹は悪魔の周囲にだけ煙幕を張ってみんなと合流した。
「どうする? 転移する?」
「何言ってんのー?」
「どうせナナの事だからー」
「ぶっ飛ばす方法思いついたんでしょー?」
「うん、まあね。でも準備が必要なの」
「どれくらいかかる?」とヒューバート。
「そうね……10分くらいかな?」
「なら、俺達が時間を稼ごう」
「いや、全員でいったん退避すれば安全に……」
「オレ等だって一矢報いたいぜ」とアデル。
みんなも頷いた。
えぇぇぇぇぇ……こんな時に『男の子』発動しなくてもよくない?
呆れていたら、またバリアが破られる音が聞こえた。
「チビ共はナナを護れ」とヒューバート。
「「「しょうちー」」」
大人組が駆け出して行った。
んもうっ! 何意地張ってんのよ馬鹿! 負けず嫌い! 子供か!?
第一形態には勝利してるんだからいいじゃない!
「ナナー」
「早くしないとー」
「時間ないよー」
シロクマちゃん達の目がキラキラしている。
んん、何かを期待されてるわぁ……
「わかった。今から護符を作るから、出来たらみんなで攻撃してくれる?」
「「「らじゃー!」」」
3匹は自分達にも役割があってニンマリくまちゃんになったのだった。
あの魔法を強化して、護符化すれば再現できるハズ……
「それ何ー?」
「何作ってるのー?」
「何するのー?」
「ん~…サイコロステーキ先輩って言えばわかるかな?」
「おおうー」
「アレかー」
「ナナにしては過激だねー」
「だって、あいつ、シロクマちゃん達を食べるって言ったんだもん!」
今思い出しても腹が立つ。
人の大事な物に手を出したらどうなるかわからせてやるんだから!
3匹はナナの様子を見て、さっきの怒りがやはり自分達を思っての事だったと再確認し「えへへー」となった。
「よし、出来た。じゃあ、手筈通りにお願いね?」
「「「イエス、マムー!」」」
3匹はビシっと敬礼し、意気揚々と走っていった。
みんなが戦っている場所から少し離れた所にシロクマちゃん達が先程作った護符を床に並べる。
衝撃で飛んでいかないように、両面テープで貼り付ける。
ゴリラ印の強力なヤツだよ。
そしてカリンちゃんの【隠ぺい魔法】でカモフラージュする。
準備は完璧。
後は私が囮になって悪魔をこっちに呼び寄せればいいんだけど……
みんな、根性で悪魔に向かっていってる。
悪いけど、割り込ませてもらうよ。
でも、どうしよう?
魔法でも当てて怒らせるか?
でも、ちょっと遠いな。
当たるかな?
ノーコンがバレないように【ファイアボール(火球)】を100発撃った。
さすがに何発かは当たっただろう。
すると、いつも飄々としていた悪魔が少しイラついたようにこっちを見た。
思ったより攻撃が効いたのかもしれない。
一直線に向かってきた。
よし、そのまま来い。
そのまま……今だ!
床に設置していた護符を発動。
レーザーが天井まで達した。
が、悪魔は横に飛び退いた。
『何か仕込んでるのは知ってたんだよぉ』
残念だったねぇ、と本日一番深い笑みを見せた。
「残念はそっちだよ」
悪魔は8つにスライスされた。
『サイコロステーキ先輩』って言ったでしょ。
いや、悪魔には言ってないけど。
レーザーは格子なんだよ。
縦方向だけじゃない。
当然、横方向にも伸びるよね。
メイソンに借りた『隠れ蓑』を被って潜んでいたシロクマちゃん達の手には護符があり、そこからレーザーが照射されたのだった。
レーザーは壁まで達し、少し溶かしていた。
避けるかもしれないと思ってたよ。
だから進路も誘導した。
私の右側、悪魔から見たら進行方向左側にコンテナが摘んであったから右に飛ぶしかなかったよね?
宙に浮いてたら急に方向転換できないよね?
コンテナの影にシロクマちゃん達が潜んでいたなんて気づかなかったでしょ?
弱いと侮っていたから、姿が見えなくても探しもしないと思ってたよ。
全部予定通り。
どう動くかわかってたから当てるの余裕だったよ。
『やっぱり、ちゃんと受肉しないと弱いなぁ……』
悪魔は不穏な言葉を残して完全に沈黙した。
ふぅ、終わったぁ……
膝が笑ってしょうがないのでその場にへたり込んだ。
すぐさまシロクマちゃん達が駆け付けてくれる。
「ありがとう、みんな~。バッチリだったよ~」
あうぅ、モフモフ癒されるぅ~。
「よくやった! だが、何だ今の魔法は!?」
アデル達も駆け付けてくれた。
「【ホーリーライト(聖なる光)】を強化したものだよ」
ホーリーライトはアンデッドにダメージを与える聖属性魔法である。
先程の護符はその光に誘導放出を利用して波長や位相を揃えた電磁波を人工的に作ったのだ。
つまり、レーザーである。
「さっぱりわからんが、聖属性魔法にあんな強力な攻撃魔法があったんだな?」
「何でも使い方次第だと思うけど?」
「そうかぁ。だからファイアボール100連発かぁ。本当に、使い方次第だなぁ」とサイラス。
遠回しにノーコン揶揄してんじゃないわよ!
「こっちだって呆れてるのよ!? みんな悪魔相手に無謀ったらありゃしない!」
「「「「「……は?」」」」」
「え?もしかして、悪魔だって気づいてなかった、とか…?」
一拍置いて大人組が全員凄い顔をした。
有名少年漫画の驚き顔とタメ張るよぉ。
写真撮っとこうねぇ。
ん……?
ノエルが自分の右手を左手で持っている……
「ノエル! 手! 手!」
「ああ、取れちゃった」
「っじゃないわよー! 早くくっつけて! 【ヒール(回復)】」
ふう、間に合ったぁ。
もう、勝利の興奮でテンションも痛覚もバグり過ぎだよ!
「他に怪我は!? いやもう【エリアヒール(範囲回復)】」
必要以上に広範囲を癒してしまった。
やっぱりシロクマちゃん達がキャッキャと喜んでいるけど、私はハタと気付き真っ青になった。
側には悪魔の死体が……!?
恐る恐る視線を向けると、何の変化もなかった。
そりゃそうよね、ヒールは回復魔法であって蘇生魔法ではない。
それに、この世界には蘇生魔法はない。
それでも私は安心したくて、それはもう生きていないのだと証明する為にアイテムボックスに悪魔の死体を収納した。
大きい方の死体はシロクマちゃん達に任せ、ついでに【クリーン(清掃)】で隅々までキレイキレイしてログハウスを出す。
そこで幼女の体力は切れた。
大人達もつられるように電池切れ。
その日はご飯も食べずにみんなグッスリと眠ったのだった。




