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「「「「は?」」」」
第98階層のボスを倒した翌々日のこと。
今日もメダル集めに行こうと部屋から出ると、リビングに皆がそろっていた。
で、妙な反応をされたのだが……
「どちら様?」とヒューバート。
「やだなぁ、私だよ。何言ってんの?」
「ナナー」
「今はー」
「大人の姿だからー」
そうでした。
「あ、アデルならわかるんじゃない? ほら、セディが変身ペンダント持ってたでしょ?アレに似たモノで大人に変身したの」
「ああ、という事は、お前、成長したらそうなるのか……」
今のナナの年齢は20歳。
チビだった時の面影はなく、身長は165cm。
全体的に線が細いが出るとこは出ていて女性らしさは損なっていない。
透明感があり儚げだが、中身はナナなのでどこか愛嬌がある。
ジョブは槍使いを選択しているので、露出は少ないが体にピタリと沿った動きやすい軽鎧の所為でボディラインはしっかり見える。
申し分のないイイ女だった。
「正直、願望入ってると思うけどね」
だって怠惰な生活をすればプヨるし、鍛え過ぎたらムッキムキになるのだから、未来の自分がどんな生活を選択するのか確定しているとは思えない。
いくら迷宮遺物とはいえ、未来がわかるワケないよねぇ。
「急にどうした?新しい遊びか?」とヒューバート。
「違う違う。ほら、今は野次馬とか記念アタック組の冒険者とかが上層にうじゃうじゃいるでしょ? 幼女+3匹がヒューバート達について行ってるの知られてるから絡まれそうで…」
困ったわぁ。と頬に手を当てるナナ。
つかつかと近寄ってきたヒューバートがナナの肩を掴んだ。
「お嫁になんてやらないんだからなぁっ!」
「急に何!?」
「にゃははー、ヒューが壊れたー」
「心配しなくてもー」
「ナナは誰にも渡さぬー」
ちょっと目が本気のシロクマちゃん達。
「だが、絡まれるのは良くないな。俺もついて行こうか?」とサイラス。
「あ、だいじょぶー。イチゴちゃんがウィルに変身してくれるから」
言ったら、隣でぽんっと煙が上がった。
そして大男が立っていた。
「『銀狼旅団』のリーダーか……」
「へ~、ウィルって有名なんだねぇ。以前受けた護衛依頼の時の指示役だったんだよ」
「割と堅実に依頼をこなすパーティーだと聞いている」
ふむ。ちょっと人使い荒かったり、逆に超過保護だったり掴みどころがない感じだった様な気もするけど……
ウィル達も元気かな?
みんなも戦争に巻き込まれないといいけど……
「ちょっくら他の姿にもなってみてくれよ」とヒューバート。
「それは無理ー。変身する時、何故か一度裸になっちゃうんだもん」
魔法少女の変身って、なんでああも際どいかな……
だからみんな人前では恥ずかしくて変身しないのよ!
「んじゃ、メダルと食材集め行ってくるね」
どこかに行く時は必ず報告する。
イチゴちゃんがいなくても、続きの間にある転移陣でいつでも飛べるから、そうししないと、誰が残っているのか分かんないからね。
みんなが外に出てしまったらまたボスがリポップしちゃう。
そうなったら、おそらくだけどログハウスも迷宮に吸収されて消えてしまうだろう。
そんなのもったいない!
部屋に残った大人達はニヤニヤしていた。
呆けているアデルの肩にぽんっと手を乗せるサイラス。
「三男だから爵位は継がないから平民でも結婚できたが、ほぼ叙爵が決まってしまっているからなぁ……」
反対側のアデルの肩に手を乗せ、レスターがフォローする。
「迷宮を攻略すれば英雄だ。英雄の妻が同じ英雄なら誰も文句言わねぇだろう」
「は……?」
何を言われているかわかっていないアデルは交合にサイラスとレスターを見た。
「だが、まあ、あんないい女、誰もが放っとかねぇ。頑張れよ」
ヒューバートにも言われてアデルはやっと意味が分かったようで真っ赤になった。
「お、オレはそんなんじゃねぇよ!」
自分より大人になったナナに見惚れていたのがバレバレで恥ずかしいアデルは自室に籠ってしまった。
お昼にはログハウスに帰る。
お出かけは順番なのだ。
迷宮内とはいえ、お外に出ないと気が滅入るだろうしね。
「たっだいまー」
元の姿に戻っていたナナにアデルがつかつかと近寄ってきた。
え、またこのパターン……?
「ちんちくりんの分際で!」
ほっぺたぷにぷにされた。
「いきなりの罵倒!? でもさほどダメージ無し!」
「どうしたんだよアデルー」
「また癇癪ー?」
「どうどうー」
シロクマちゃん達がアデルによじ登ってよしよしする。
「お前はまだまだ子供のままでいいんだ」
「え? うん。普通に成長するのが一番いいよね」
「ずっとうちにいてくれていいんだからな」
「パトロンだもんね」
「おう。何でも買ってやるぞ」
「そういうのはちょっと違う」
「遠慮すんな」
「おじさんくさい…」
「そうかそうか。オレの方が大人だもんな」
「なんか違う気もするけど、そろそろもにもにするの止めようか?」
ストレス溜まると人のほっぺもにもにし倒すって変なクセだよねぇ。
でも、なんかしらんがアデルの機嫌がよくなったので良しとしよう。
大人達はやはりニヤニヤしていた。
まだまだ恋愛が何たるかを知らない幼女とおこちゃまお坊ちゃまの恋路は果てしないなぁ、なんて思いながら。
実際はナナは前世で結婚もしている正真正銘の大人だったのだが。
ナナも、アデルはまだまだおこちゃまだと思っていた。
何せ、前世の記憶持ちで20うん歳まで生きたからね。
とはいえ、今は8歳だから前世の年齢を足して精神年齢は30うん歳……とはならないかな。
だって、前世で知っているのは20うん歳までの人生経験と人間関係だから、こっちで数年暮らしてもそれは子供の世界しか知らないのだから年齢相応の世界しか経験していない。
こっちで20うん歳になったら、ようやくアップデートすることになると思うのよねぇ。
だから、今は子供時代を復習しているみたいなものだと思っている。
例えば、年を取らずに子供だけで生きていったとしても、精神年齢はちゃんと成長するのかな?
子供の内は家庭内が世界の全て。
段々学校に行ったり、習い事や塾に行ったり、はたまたバイトしたりして世界が広がってゆく。
そういう新しく広い世界を経験をして、人は成長していく。
だから、私はまだ20うん歳で止まっているようなもの。
こっちでも20うん歳になったら、初めて年相応であり未知の領域に足を踏み入れるのだ。
とはいえ、アデルは16歳。
20うん歳のおねぇさんからしたら若いのよねぇ。
何時だったかしらねぇ、高校球児が子供に見えたのは……
今日のお昼は『タコパ』にした。
でも人数が多過ぎたので焼き上がりが間に合わなかったので、バーベキューセット出して焼きそばも追加した。
キャンプの焼きそばってなんか美味しいよね。
そしてみんなでワイワイやるのは楽しかった。
それから、つつがなく日々は過ぎ、今日は第99階層に挑戦する。
前回の教訓を得て、無理そうならすぐに撤退する事は事前に決めてある。
さあ、今度はどんな怪獣が出てくるのかな?
発射台からせり上がってきたのは………怪獣???
デカいのはデカい。
多分今までの中で一番デカい。
でも、角があるし体毛もある。
ヤギの様な、悪魔のような禍々しい感じ。
背中に蝙蝠の羽根みたいなものもついている。
でも、あれは小さすぎて飛びはしないだろう。
長い尻尾。
痩せ気味で、猫背で、お腹だけ出ている。
栄養失調の特徴だけど……
そして、四足歩行メイン?
後ろ脚は蹄で前足はワニのような5本指。
全体的に邪悪だな。
嫌な予感がする。
ちがう、これは恐怖だ。
アレは怖いモノだ……
今まで異形はいくらでもいた。
でも、アレは他とは一線を画す。
今までで一番大きいからじゃない。
そうじゃない何かが、アレにはある……
「どうした? 何かあるのか?」とヒューバート。
「わかんないけど、アレ、なんか他のと違くない?」
「違うか? 俺にはわからんが……」
「どうする?」とアデル。
「ふむ……退避前提で一度仕掛けてみよう」
みんなが頷いた。
退避前提だと言われても、嫌な感じが治まらない。
こんなことは初めてだ。
状態異常は防げる。
万が一、アレが石化してきても大丈夫。
麻痺で動けなくなった隙にやられたりはしない。
猛毒で即死もしない。
カリンちゃんが皆にバフをかけてくれたから防御力も上がってる。
なのに、何がこんなに不安なんだろう?
お願い、みんな無事でありますように……
私の心配は杞憂だったのか、みんなの攻撃が決まっていき、このままだと倒してしまうのではないかと思われた。
いや、実際、時間はかかったが怪獣は倒れた。
みんなケガや疲労も忘れて大いに喜んだ。
でも、肝心な事を忘れてない?
何のギミックもなかったよ?
今まで一筋縄じゃいかなかったよ?
ここだけアッサリなのは逆におかしくない?
その時、怪獣のお腹から血が噴き出した。
誰かが魔石を獲ろうと刃を立てたワケではない。
ひとりでに血が噴き出すワケもない。
腹の裂け目からソレは出てきた。
小さい、と言っても人間よりは大きなモノ。
頭にはライオンのタテガミの様なものがあるが血で濡れていて背中に張り付いている。
ヤギの様な角もある。
皮膚は黒くゾウのようではあるが、人の様な手足、体付き、だが尻尾がある。
翼はなかった。
必要ないのだろう。
ガゼルの様な細い脚は速い。
全体的に人間の要素が強い外見。
前にも思ったっけ。
樹海で遭遇したヒュージスライムもそうだった。
恐怖を呼び起す為に必要なモノの一つが『人間』である、と……
そうか、これがこのフロアのギミック『第二形態』か。
お腹の中にずっといたのだろうか?
だとしたら、赤ちゃん?
嫌な予感はさらに強まった。
ソレはこちらを見た。
そしてニタリと笑った。
ああ、そんな……ソレは最悪の兆候……
知性が高い……
ソレはとても楽しそうに言った。
『遊ぼう?』
再び笑ったソレの目には明確な悪意があった……




