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第97階層のボスを無事に倒し、冒険者ギルドに素材を売りに来た。


「ちわー。買取してちょ」


「こんにちは。今日も元気そうでなによりです」


早速、お隣の倉庫にどどーんと怪獣を出す。

シロクマちゃん達が切り落とした尻尾もちゃんと持ってきたよ。


「うはー、今日は一段とボロボロですねぇ」と買取にぃ。


買取にぃの反応を『褒め』と取ったシロクマちゃん達が歌いながら踊る。


「バリスタどーん!」

「ヒューもどーん!」

「オマケでどーん!」


「水攻めがなかったらもっと素材が取れたかもねぇ」


「水攻め、ですか?」と受付にぃ。


「部屋の四隅から大量の水が降ってきてあっという間にプールになったんだよ」


言ったら、買取にぃも受付にぃもビックリした顔をした。

ああ、服が濡れているワケじゃないから信じられないかな?


ボス部屋を出る前にみんなに【ドライ(乾燥)】と【クリーン(清掃)】と【ヒール(回復)】をかけている。

妨害をしてくるような輩にボスを倒した回数を数えられ、迷宮を攻略するタイミングを悟らせない為に戦いの形跡は消してから0階に降りるようにしたのだ。

まあ、こうやって冒険者ギルドに顔を出せば関係者にはバレバレなんだけど。


「ひとつ、お知らせがあります」


買取にぃが真面目な表情に切り替わった。


「先日、『クリムゾン・スクワッド』が第90階層をクリアし、素材を持ち込んできました」


えっ!? 90階っていったら蒼天が居たフロアじゃない!


瞠目した私に一つ頷く買取にぃ。


「ですが、素材は鬼ではなく、アイオーンでした」


「そ…そっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


よかったぁぁぁぁぁ……蒼天、ちゃんと迷宮の呪縛から解放されたんだね……

もう2度と会えないのは寂しいけど、積年の願いが叶ってよかったね……


へたり込んだ私にシロクマちゃん達が抱きついてくる。

ありがとう、少しぎゅむぎゅむさせてね。


「あいつの事は安心したが、のんびりはしていられなくなったな」とアデル。


確かに、81階層すら苦戦していたみたいなのに、いつの間に90階層までクリアできたんだか……


「『クリムゾン・スクワッド』にもアイテムボックス持ちがいましてね、素材を溜め込んで持ち込んできましたよ」と買取にぃ。


つまり、彼らも踏破階数を知られないように行動しているというワケだ。

あっちも妨害工作を受けた事があるのだろうか?


「えっと、そういうのって私達に教えてもいいの?」


受付にぃはピクっとこめかみに血管を浮かべた。

あなたが迷宮攻略の貴重な情報をペラペラしゃべったからですよ!

叫んでしまいたかったが、アデル達があちゃーと天を仰いでいるので説教は彼らに任せる事にして色々押し殺して笑顔を浮かべた。


「まあ、これくらいなら世間話の範疇でしょう」


うん…笑顔が胡散臭いですよ受付にぃ……

『赤組』さん達と何かあったのかな…?


見当違いの見解に辿り着くナナ。

まだまだ常識がずれている事に気付かない幼女はまたもや大金を貰ってげんなりしながら帰路に着くのだった。




拠点に帰ると、おやつでも食べようと食堂に皆で移動したけど、その実、説教大会だった。

人を信じ過ぎとか、迷宮の未発表情報をうっかりしゃべるなとか、でもそのお陰で貴重な情報を入手出来たとか。


「お前が水攻めにあった事を話してしまったから、ギルド側としては情報を高値で買い取るか、もしくは同等の情報を渡すかしないといけなくなったんだぞ」とヒューバート。


確かに、前にバジリスクの石化からの復活手段を伝えたら、素材の買取価格にめっちゃ上乗せされてたねぇ……


「えぅぅ、ごめんちゃい……」


「ナナをー」

「いじめちゃー」

「ダメー」


しおれたナナを見て、シロクマちゃん達がぷんすこする。


「いいのよ、シロクマちゃん達。私が悪かったの」


「いや、俺達も言い過ぎたな。すまん」


「おかしをー」

「追加してくれたらー」

「許すー」


ヒューバートにおねだりするシロクマちゃん達。

もぅ、ちゃっかりしてるんだから。





それから2日後、アデルの執務室に呼び出された。

部屋にはすでにヒューバート達全員がいた。


「呼び出してすまない」とアデル。


「ううん。みんな揃ってるってコトは、深刻な話?」


「いいや。ただ、このクラン支部は放棄する事にしただけだ」


「って、軽く言ってるけど、何がどうしてそうなった!?」


ビックリしてみんなを見ると視線をそらされた。


「『クリムゾン・スクワッド』が91階層で全員石化したそうだ」とサイラス。


彼らにはサポート班が付いていた。

荷物持ちや休憩時の食事などの準備をする人達だ。

ただ、仕事はそれだけではなかった。

ボス部屋には入らずにドアの外に残り、S級パーティーがクリアしたかを確認し、自力でスタート地点に戻るのまでがサポートの仕事。

91階ではボス部屋の扉が開いた時、倒されていないバジリスクと5体の石像が確認された為、アタック失敗の報告がなされたのだった。


「えっ!? ギルドは石化解除の方法を教えていなかったの!?」


「教えていたそうだが……対処できなかったんだろうな」とヒューバート。


大人達は思った。

あの時はナナがバジリスクの目を見るなと言い、ナナが色水を撒くことを思いついた。

石化した場合の対処法だけ知っていたところで、それ以外の対策が出来なければ自分達だってどうなっていたか……


「でも、それのドコが拠点放棄の理由なの?」


「もう、オレ等しか迷宮踏破の可能性がない。つまり、オレ等がダンジョン・コアを手に入れた途端、この辺りは戦場になるからな」とアデル。


あー、グレアムが言ってたやつだ。

本当に戦争が始まるの!?


「そうだった。グレアムが最深部に挑戦する時は準備があるから事前に知らせてって言ってたよ」


「ああ、いいんじゃねぇか? どうせあいつはお前の味方だろう?」


「そうね。迷宮がこの街からなくなっても構わないって言ってたし」


「そこまでか……だが、第2皇子あたりは軍隊を用意しているだろう」とレスター。


「そうよね。教会が黙って見ているワケないもんね」


城壁の外を軍隊で埋め尽くしそうだわ。


「だから、クランメンバーを国に帰さないとな」とアデル。


「だったら、わたしの出番だねー?」


イチゴちゃんが『はーい』と元気に手を上げた。


「それがそうもいかなくてな…」


ヒューバートが説明を引き受けた。


「既にノア王国に隣接している4ヶ国が国境に軍隊を配備済みなんだ。コアを寄こさないと攻撃するぞーってな。既に睨み合いをしている。」


「そんな……」


「そういう状況だ。街道を見張られているだろうからな、転移なんてしたら怪しまれる」


「でも、ここに居たら捕虜になるよね?」


「そうだ。だから、今の内に脱出させたいんだ」


「もしかして、街を出るのを妨害されてるの?」


「いや、そういうんじゃない。が、しばらくは準備など忙しくなるだろうから次のアタックはしばらく未定にしておいてくれ」


「うん。わかった。それだけ?」


「いや、もう一つ」とアデル。


「みんなが無事にこの街を出られたらオレ達はダンジョン・コアを手に入れるまで迷宮の外には出ない」


「ん? あと3フロアをまとめてクリアしようとしてるの!? 無理だよ!」


「もちろん途中でちゃんと休むぞ。ただし、休むのはボス部屋で、だ」


「ああ、拠点放棄ってそういう事ね」


クランメンバーを逃がしたら拠点の防衛はガラガラ。

クリア目前で妨害されたり、誰かが人質となったりしないようにする為に、もう拠点は捨てるって事ね。


「合点したようだな」


「うん。蒼天と修行してた時みたいに迷宮内ですべてを賄うのね?」


「ああ、協力してくれるか?」


「もちろん。じゃあ、私達はそっちの準備もするね」


「頼んだ」


「あれ? コアを手に入れた後、私達はどうやって脱出するの?」


「何言ってんだ? オレ等にはアレがあるだろ?」


「あれー?」

「なにー?」

「なんかあったっけー?」


シロクマちゃん達が一斉に同じ方向に首をかしげた。


「魔導飛行船だ」


「あー、ジュードねー」

「そういえばいたねー」

「ほんと空気だよねー」


しみじみとした声色が本音だと示している。

不憫なジュード……謝罪の菓子折2つに増やすべきかな……?


「飛行船の進捗は?」


どれくらい迷宮に潜伏していればいいんだろう?


「7割出来てるらしいぞ」


「うそん!? 見学に行った時は何にも出来てなかったのに!?あれからまだ2ヶ月経ってないよ!?」


「俺に文句言いたくて、あいつマッハで飛行船を完成させようとしているらしい……」


あ、まだ怒ってるんだ……

でもその怒りのお陰で完成間近なのよね。

菓子折3つに変更しなきゃ……






「はーい! 突撃隣の皇子様!」


「…妙なテンションだな?」


むー。グレアムってば、突然現れても1度も驚いてくれないんだもんなぁ。


「……ってなワケでね、もう会えなくなるんだ」


「『ってなワケ』で略すな。何もわからん」


「ジョーダンだよ。グレアムぴりぴりしてたから気分を解そうと思ってね」


そして今度こそ説明した。


「そうか……じゃあ、直前に【文蝶】を飛ばしてくれ」


「それはいいけど……戦争するの?」


「したくねぇよ。だが、皇帝の命令がなぁ……」


「あれ? 私、捕まっちゃう?」


「ばーか。上手く誤魔化すさ」


そんな心算は更々ないと言わんばかりに手のひらをピラピラと降るグレアム。


「迷宮が消えたら、俺は皇都に戻って次期皇帝の座を狙うかね」


「わぁ…反逆罪だぁ」


「ばーか。上手くやるさ」


本当に2度と会えなくなるかもしれないのでグレアムとしっかり握手をした。

イチゴちゃんが転移の魔法陣を描く。

私も陣の中に入り、グレアムに手を振る。


「とうとう歴史的瞬間を迎えるんだな。本当は俺も一緒に行きたいが……ここから見物させてもらうよ。健闘を祈る」


お道化て敬礼するグレアム。

シロクマちゃん達も真似っこして整列すると、敬礼しながら消えて行った。



幼女+3匹が帰って静かになった執務室でグレアムは独り言ちた。

戦争をしろなんていう皇帝はやっぱいらないよなぁ……

父上は悪政を敷くような人じゃないのに、何故戦争を仕掛けるような真似をするんだ?

迷宮なら既に2つ持っていたから完全に無くなる訳でもないのに。

しかも、今回消えるのは昔戦争を仕掛けて奪ったものだし。

権力を持つと、人は誰でもああなるのだろうか?

俺も皇帝になったらいつかああなるのだろうか?





翌日からは、拠点から引き上げたい家具などの大物は幼女+3匹がアイテムボックスに収納した後、イチゴちゃんに転送してもらって本部に運んだ。

あとは、1週間の旅を快適にするための家馬車をカリンちゃんに作ってもらったり。

旅の間の食事を楽にする為にみんなで大量に調理したり。

流石にトイレとお風呂は管理できないというので、【クリーン(清掃)】【キュア(浄化)】【ドライ(乾燥)】【デオド(消臭)】の護符を大量に作ってあげたりした。

100人以上がいっぺんに大移動するのは初めてというので、結構バタバタした。


出発の日、幼女+3匹は敷地からは出ないように言われたので玄関先で皆を見送った。

私は知らなかった。

彼らを捕虜にしようとオーランド帝国の手の者が何度も襲撃してくるだろう事を。

みんなはそれを知っていて、おくびにも出さないように振舞っていた事を。

彼らだって伊達に冒険者をやっていないのだ。

それに、準備をしていた数日の間に『ワンダーウォール』側の冒険者達が途中に罠を仕掛けて待ち伏せをしたりして援護をしてくれる。

事実、1人も欠ける事なくみんな国へ帰れる事になるのだった。

こういうところが、ノア王国は小さいのにオーランド帝国が容易に手を出せない要注意国だと認識している理由の1つだった。



いつも読んでいただきありがとうございます。

何がキッカケなのかわからないのですが、色んな数字が急に跳ねていてビックリです。

これからも頑張りますので、ナナとシロクマちゃん達をまったり見守っていただけると幸いです。

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