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第97階層のフロアモンスターは96階と変わらず空を飛ぶ魔物がいたが、前みたいにバリアで天井を低くしたので戦闘は長引かなかった。

マップは入手済み。

元々格納庫がフロアのほとんどを占めていたので簡単にボス部屋に辿り着いた。


「さて、1つ前の階層と同じようにボス1匹だけとは限らない。しかもボスは馬鹿デカいだろう。覚悟はいいか?」


ヒューバートがみんなの表情を確認する。

大丈夫。

急成長して自分の強さに慢心していた頃の自分じゃない。

もう不測の事態に右往左往しない。

みんなヤル気に満ちた瞳で頷いた。


「よし、行くぞっ」


重々しくゆっくりと開く扉の向こうはやはり格納庫だった。

が、前回と何かが違う……何かはわかんないけど……


「雑魚は出てこないな……」とアデル。


「油断するなよ」とヒューバート。


その時、突然照明が落ちたかと思えばオレンジ色のパトランプが回り出し、アラートが鳴り響いた。

ああ、これはお決まりなのね。

ボスは魔法陣ではなく発射台で登ってくる。

私達はコンテナの陰に身を隠し、様子を窺った。


ゆっくりせり上がってきたのはやはり恐竜なのか怪獣なのか微妙な形態の巨大生物。

ワニのような顔に背中には船の帆のような大き過ぎるヒレ。

スピノサウルスに似てるような……


発射台が完全に上り切り、ハッチが閉じると今度は部屋の四隅に異変が!?

照明が元に戻り、それは見えた。

天上に設置してあったダクトが開き、滝のように水が降ってきた。

そっか、違和感はアレだったんだ。

ダクトじゃなくてパイプライン。

それぞれのパイプから数秒で25mプールが満杯になりそうな勢いで出ている。

広い部屋とはいえ、あんな水量で排水されたら格納庫がプールになっちゃう!


「あの怪獣は水陸両用だと思う。てゆか、水が満ちたら私達に勝ち目はないよね……」


人間は水中で俊敏に動けない。

既に足元は水が薄く張っている。

となれば、雷系の魔法は一切使えない。

炎も湯気が立って視界が悪くなる。

氷は床が凍ってこっちが動き辛くなる。

もっと水が溜まれば砕けた氷の塊がぶつかってきて危ない。

風は波を起こして巻き込まれる。

水も同様。

じゃあ、攻撃魔法は何が残ってる…?


うん、『土属性魔法』しかない。

足場を造る?

あー、でも、狭い場所に皆が固まっていても狙い撃ちされるだけなんだよね……

そうでなくとも、魔法で作り出した物は一旦顕現したらそれはただの物質。

特別でも何でもない普通の物質。

つまり生半可な大きさでは怪獣には簡単に壊せてしまう。

それに部屋の一部を土で埋めてしまったら、そのぶん早く水が満ちてしまう。

やっぱ、止めた方がいいかも……

ボスを倒さないと水が止まらないのなら水死の可能性も……


「水が浅いうちに足を重点的に攻撃して倒した後、首を狙う」とヒューバート。


彼も四属性魔法はヤバいと思ったらしい。

接近戦を選んだようだ。


あの怪獣は頭から尻尾の先までが20メートルくらい。

高さはそれほど高くはないので前回のトリケラトプスより小さく感じるが、その分すばしっこい。

怪獣が動くたびに水しぶきが飛び、視界を遮る。

段々増していく水嵩。

水しぶきが波に変わった。

水面が大人の膝くらいまである。

走れないし泳げないという中途半端な水位。

それでも幼女+3匹には如何ともし難い。

波に足を取られ、泳ぎが得意なシロクマちゃん達でさえコンテナに叩きつけられかねない。


「シロクマちゃん達、コンテナに上ろうか」


「「「らじゃー」」」


上ったはいいが、姿が丸見えで差し出されたエサみたいだ。

ヒューバート達のお陰でこっちは意識されてないみたいだが。

視点が高くなったことで状況がよく見えた。

接近戦を余儀なくされたヒューバート達。

武器を新しくしたお陰か、攻撃が当たればダメージはそれなりに入っているようだが、噛みつきと尻尾の薙ぎ払いが厄介そうだ。


「尻尾を切り落とせれば少しは近づきやすくなるのにね」


「ならー」

「わたし達がー」

「切って来るよー」


「ど、どうやって?」


「転送するー」

「居合斬るー」

「囮になるー」


き、危険な気がするわ…

でも、早めに決着つけないと、ヒューバート達も危ない…


「わかった。じゃあ、これだけ…」


いつでもバリアを発動できるように3匹のプニプニお手々に印をつけた。

イチゴちゃんとラムネちゃんは怪獣との距離が目視できるように別のコンテナに移動した。

カリンちゃんは入り口付近のコンテナの上で目立つ行動をとる。

私はカリンちゃんの後ろで【バリア(障壁)】を張る事に集中した。

怪獣の一撃で粉々に粉砕されないようにめっちゃ魔力を込めた。


カリンちゃんが乱射する光線銃がピカピカ眩しいので怪獣はこちらに気をやった。

その隙に背後に転送されたラムネちゃんが空中から降ってくる。

怪獣はずっと足元のヒューバート達ばかり気にしていたからラムネちゃんはアッサリと背後を取れた。

伸縮自在のおもちゃの日本刀が見事に尻尾を切り落とす。

急に尻尾が半分以下になり、バランスを崩した怪獣が倒れ込んだ。

だが、怪獣が藻掻くことで起こる波の所為で近づけない!

斬撃を放つも、足場が悪く威力が乏しかった。


1度目のチャンスは逃してしまった。

そうこうしている内に、ヒューバート達でさえコンテナに上らざるを得なくなった。

こうなったら『モグラ叩き』の様相になる。

怪獣に狙われた人は水に飛び込んで避け、他の人が攻撃を仕掛けて気を逸らせる。

泳ぎの得意なシロクマちゃん達が大活躍だ!

だが、それでも殆どが水に落ちてしまった。


どうしよう、このままじゃジリ貧だ…

やっぱり足場を……

あの怪獣は壁に張り付くことが出来ないタイプみたいだから、天井付近まで登ればなんとかなるのでは……?


「みんな! 壁に足場を作るから上って!」


『土属性魔法』で壁の金属を変形させ、階段を作った。

同時にみんなが狙われないように怪獣の目の側で【ライト(光)】を発動させる。

が、これは悪手だった。

暴れた怪獣が起こす波の所為で泳げない!

私だけコンテナの上に取り残されてしまった。


やっべ…復活した怪獣がこっちを見ている。

しかも怒っている。


が、次の瞬間ナナの姿が消えた。

そして天井付近に造った足場に現れた。


「んもー、ナナってば自分のコト後回しにしすぎー」


イチゴちゃんの転移魔法で助けられた!

ありがとう!

ずぶ濡れのイチゴちゃんをわしゃわしゃしたのでボサくれてしまった。


みんなに【ドライ(乾燥)】をかける。

フワフワが戻ったシロクマちゃんをもっかいモフる。


「ふう、最初っからこうしてればよかったね」


今いる部分の足場だけ残し、階段は削除した。

怪獣は未だに姿を見失っているらしくキョロキョロしている。


「助かったぜ。さんきゅな」とアデル。


「お前達もよくやった! 尻尾がないとかなりやりやすい」


ヒューバートに褒められてポーズを決める3匹。


「これからどうする?」


「上からなら魔法撃ち放題だな」とメイソン。


試しに『雷属性魔法』を放った。

が、全くの無傷だった。


「まさか、雷耐性持ちだったなんて…」


深層のボスだもんね、水辺の生き物だから雷が弱点! なんて甘い設定はされてないか。


怒った怪獣が上を見上げ、私達に気付いて飛び掛かってきた。

が、全く届かない。

壁走りできないタイプで本当よかった。


「凍らせても、すぐに砕いて出てきそうだよね」


「しかもその氷を足場にして飛び掛かってきそうだな」とサイラス。


「火属性も水に潜られたらあんま意味ないね」


「それなら風属性もダメだろうな」とロイド。


「あとは水属性だけど……渦を生み出して目を回させる?」


「いやあ、その後トドメをささないとならないからなぁ」とアデル。


ああ、あんまり意味はないという言葉を飲み込んでくれたんだろうなぁ。

確かに、火力高めな攻撃が欲しいところ。

水中生物に有効なのは『刺突』?


「バリスタみたいな攻撃がいいのかな?」


「バリスター!」

「わたし撃ちたいー!」

「わたしもー!」


「バリスタまで持ってるのか!?」とアデル。


「あるー!」

「撃っていいー?」

「いいー?」


「シロクマちゃん達がバリスタを撃つのなら、私達の合体魔法は使えないねぇ」


とは言ったが、ツララを撃ち込むのも、レールガンもどきも、あんな風に泳いでいる敵に当てられるかどうかは自信ないかも……


「それは俺に任せてくれ」


ヒューバートが自信満々に自分の新しい武器を見せてきた。

ははーん、何か必殺技でもあるのかな?


ヒューバートの許可も出たので、シロクマちゃん達の為に足場を増設し、3方向からバリスタを撃つ事になった。

気づけばもう怪獣が泳げるほどの水位となっていた。

切られた尻尾でもスイスイ泳いでいる。

背びれが目立つので見失う事はない。


バリスタに装填するのは拘束弾。

鎖がついているので3方向から撃てば身動きが取れなくなるだろう。

そして、その鎖の距離的に怪獣が部屋のど真ん中に来た時が理想的だ。


「「「今だー!」」」


息の合った射撃で3つとも命中。

痛みに藻掻き、咆哮を上げた。

2度目のチャンス!

怪獣めがけて飛び降りるヒューバート。

彼の大剣は怪獣の眉間に深く突き刺さった。

そしてトドメと言わんばかりに剣に魔力を込める。

衝撃波が放たれ、体内を破壊。

怪獣は沈黙した。


「「「「いやっほーっ!」」」」


みんな喜んで次々と飛び込んだ。

私は階段で降りました。



滝のように流れていた水が止まり、床の排水溝が開いたようだ。

溜まった時と同じ時間をかけて水が引いて行った。


「凄いね、ヒュー」

「かっこいいー」

「やるじゃんー」


「宝物庫にあったこの武器、しっくりくるぜ」


それは斬るだけではなく、魔法を撃ち込む細工がされていた。

刃は魔力伝導性の高いオリハルコン。

柄に魔石が埋め込まれ、錬金術の回路が切っ先まで伸びている。

まるで銃みたいに魔法を放つ事が出来るのだった。


勢いを取り戻した11人。

迷宮踏破は秒読みかと思われた……


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