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夢を見た……




「んあ? あれ…寝てた?」


目を開けるとシートベルトをしていて、横を見ると山道の景色が流れていた。

ドライブ中だった。

車のシートの感じとか、丁度いい閉塞感とか、規則的な揺れとか確かに落ち着くけど、眠った事はあんまなかったんだけど……


「一瞬だけな。疲れてんなら寝てていいぞ」


運転しているのは夫の悠人はるとさん。

大学生時代はちょっとチャラかったけど、今では落ち着いたきれいめコーデでキメている。


「いやいや、折角なら景色も見たいし、おしゃべりもしたいし」


結婚して、初めての私の誕生日。

悠人さんからの誕生日プレゼントは山奥のリゾートグランピング2泊3日だった。

楽しかったなぁ。

お隣さんとは離れていて喧騒は聞こえない。

ドームテントは寝室だけ。

隣接されたキャビンにはバストイレキッチンがあり、ウッドデッキにはバーベキュースペースもある。

お膳立てされた食事と空調の利いた部屋。

大自然の中で文明の利器は変わらず使える贅沢空間。

夜は満天の星空の下でお酒を飲んで夜更かしをして、翌日は計画的に2人で寝坊する。

都会の喧騒も嫌いではないけれど、こういう非日常もいい。


「ありがとね」


「こちらこそ、楽しかったよ」


車は引き続き山を下る。

対向車が来た。

トラックだ。

グランピング場に配達に来た業者だろう。

道は狭い。

崖側の私達が一時停止する。

トラックの運転手も手を上げて挨拶してくれた。

ゆっくりとすれ違う瞬間、後ろから凄い衝撃があった。

追突されたのだ。

押し出された自分達の車はトラックに掠りスピンした。

ハンドルを切る悠人さん。

しかし車は何故かいとも簡単にガードレールを突き破って崖下に落ちた。


ああ、私達はこうやって死んだのか……

肉体を離れた意識がひしゃげた車を俯瞰で見つめている。

上を見ると、トラックの運転手と、おそらく後ろから追突してきた車に乗っていた人達が慌てて覗き込んでいた。

程なくしてレスキューと救急車が来た。

車内から救助された悠人さんと私は別々に搬送された。

まだ息があったのは驚きだ。

私の意識はICUから出られず、悠人さんを探せない。


何か情報はないかと看護師達の会話に耳を澄ます。


「脇見運転の車に衝突されたんですって」


「被害者はご夫婦だったらしいわ」


「しかもまだ新婚さんだったのね」


「奥さん、妊娠初期だったそうよ」


「しかも、3……」


その時、生命維持装置の警告音がして、何を言いかけたのかわからなかった。





「ナナー」

「起きてー」

「お願いー」


「………………………………」


目を開けるとシロクマちゃん達に覗き込まれていた。

えっと、今のは…夢?

でも、随分とハッキリした記憶……

私、本当に妊娠してたのかな?

確かに生理が遅れてて、旅行と被らなくてよかったな、なんて呑気に思ってたけど……

看護師さんは何て言おうとしてたんだろう?

3?

妊娠3ヶ月? ……だったら流石に生理不順を心配している。

3…3…3…………わからないけど、妊娠していたのなら……


ごめんなさい。

産んであげられなくてごめんなさい。

せっかく私達に会いに来てくれたのに、抱きしめてあげられなくてごめんなさい……


「泣かないでー」

「怖い夢見たのー?」

「大丈夫だよー」


3匹を抱きしめて、しばらく泣いた。




食堂に集合してお茶で一息つくことにした。


「みんなも寝てたの?」


「ああ、俺が一番に目を覚ましたが、全員昏倒していた。お前だけ全然起きなくて心配したぞ」


ヒューバートはそう言ってとある魔導具をテーブルに置いた。


「それ、さっき私達が触ってたやつ」


「これは赤ん坊を寝かしつけるオルゴール型の魔導具だ」


「そうそう、オルゴールだと思ったけど、蓋を開いても音が鳴らなかったから魔力を流してみたの」


「ナナの魔力が強すぎて、同じ部屋にいるみんなに影響が出たのだろう」


そう分析したのはメイソン。


「ご、ごめんなさぃ……」


「いや、今回はただ眠っただけだから別にいいんだが、次は何が起こるかわかんねぇから知らない魔導具にいきなり魔力を流すのは止めような」とヒューバート。


「あい、気を付けまふ……」


子供に教えていない事をいきなり怒らない大人達。

子育てした事がないだろうに凄い判断力だね。

でも、中身が大人の私は居た堪れないのですよ。

それくらい教えられなくても分かるでしょ!? と、言われるような事をしてしまったのですよ。

いや、この世界に来て1年くらいだからまだ経験値的には子供っちゃぁ子供なんだけれども……

でも、もしあの魔導具が武器で取り返しのつかない事もあり得たのだから深く反省したのですよ……



「で、何で泣いていたんだ?」とアデル。


「あ~、家族とお別れする夢で……」


みんなは何も言えなかった。

ナナが森に捨てられていたと思っているから。

家族とのお別れとはその時の事を言っているのだろうと思ったから。

記憶が残っているのか?

何歳の時だったのか?

親に虐待されていたんじゃないだろうな?

質問する事で脳が刺激され、辛い記憶を思い出してしまったら?

追求は憚られた。


「ただの夢だよ……」


気を使わせてしまったね。


「ところで、私達を閉じ込めた犯人を捜したりしないの?」


「ああ、影にやらせてる」とアデル。


なんと、『影さん』ってばついて来ていたのね……


ナナは気づかなかったが、アデル達の視線が少し泳いだ。

シロクマちゃん達は気づいたが、知らん顔した。

実は犯人は『ハーキュリーズ試験飛行場』でナナを誘拐した御者だった。

前回の失態を挽回するチャンスとして、迷宮を攻略しそうな『エピタフ』の冒険者達を始末するよう上から命令されていた。

それは実質死刑宣告。

だって今一番勢いのある冒険者と直接戦うのは言わずもがな暗殺さえままならないから。

だが、カラクリ屋敷に挑戦するというのでチャンスと思い閉じ込めたつもりだったが失敗してしまった。

そして粛清済みだという事はナナには秘匿されたのだった。




翌朝、マティアス達はちゃんと起きてきた。


朝食の席で我慢できずに聞いた。


「ゲオルギオスの手記見せて欲しいです」


「それは出来ません」


アッサリ断られた。


ですよねー。

門外不出って言ってたもんねー。

でも、これだけは確認しておきたい……


「ジスカール・ゲオルギオスってまだ1度も迷宮攻略された事のない時代の人だよね?」


「……………………………」


「私が見た手記は未完成のヤツで、『大陸の中央にある13番目の【碧落迷宮】に、秘密がある筈だ』で終わってたんだけど、おじさんが昨日『12個のコアを【碧落迷宮】に持っていっても天界への門が開く事はない』って言ってたからゲオルギオスは最終的に【碧落迷宮】に行くことが出来て何らかの答えを出したんだよね?」


「……………………………」


答えてくれないか……でも……


「………【碧落迷宮】の最深部に他の12個のダンジョン・コアを揃えたら開くのって地獄の門なんじゃない?」


言ったらおじさんの顔が真っ青になった。


やっぱり……


「別に言いふらしたりはしないよ。知る事によって野心が芽生える輩が増えるからね」


知らなければ計画の立てようがないもんね。


「私は緑の魔女さんにも話を聞いた事があるし、迷宮で手記の一部を見た。そこから推察すると、やっぱり迷宮は悪魔の食糧庫というのが正解でしょ?」


「…………………あなたは……」


おじさんは言葉を続けなかった。

いや、続けられなかった。

そして方向を変えた。


『ジツはワタシ、ニッポンジンなんでース』


外国人にありがちなイントネーションだった。


「ぷっ、めっちゃ訛ってる」


「でも、何と言ったのかわかるんですね?」


「まあね」


「では、改めてお話させていただきたいのですが……」


私はシロクマちゃん達を連れておじさんの部屋へ向かった。

マティアスは訳が分からない顔をして、でも口を挟まずに部屋の隅に居た。


「ジスカールは【碧落迷宮】の最深部に到達し、真実を知りました。先程のあなたの例えは的を得てますね。迷宮は悪魔の食糧庫。そしてその悪魔達は再びこの世界に戻ってこようとしています」


うわぁ、やっぱり転生者はチートなんだね。


「最深部って…【碧落迷宮】はジスカールが作ったってコト?」


「いいえ、彼はダンジョン・コアをそのままにしてきました」


「え?じゃあ、【碧落迷宮】の最深部に到達しても最終ボスは現れないってコト?」


「そうなりますね」


「じゃあ、到達さえすればコアを手に入れられちゃうじゃない!?」


「彼は到達した事を公表していません。もし公表していたとしても【碧落迷宮】は13の迷宮中最難関だと言われています。到達するのは難しいでしょうね」


そうなんだ……だったら、焦らなくても平気かな?


「あれ?緑の魔女さんは悪魔が戻って来るのは後1億年は掛かるって言ってたよ?」


「それは……悪魔は神同様に時間の概念が私達とは違います」


「つまり、いつ戻って来るかわかんないってコト?」


「というより、すでに動き出しています」


「教会というか『コルウス』がやってる事?」


「そこまでご存じでしたか。そうです『コルウス』は悪魔に唆されたワケではなく、悪魔だと知った上で門を開こうとしています」


「悪魔崇拝……」


「やはりあなたは……」


おじさんはバッグから1冊の古い本を取り出した。


「これは一族に代々伝わる写本です。このページを見てください」


妙に勘のいいチート級の冒険者がいたら『実は私日本人なんです』と言って反応を見ろ。

通じたらコレを見せろと伝えられてきたという。


おじさんが示したページには下手クソな日本語でこう書かれていた。


『俺は元日本人の転生者だ!数千年後に世界は危機に瀕する事になるだろう!その時、俺はいないだろうからこれを読んだお前に託す!』


「ただの中二病じゃん!」


ガッカリだよ!

本物の考古学者だったんだろうけど、何でこんな軽い文章なの!?

やっぱり異世界転生くじを引きたがる人ってオタクで中二病なのかな!?

ブーメランだけどね!


「あのー、何が書いてあったんですか?」


どうやらゲオルギオスは説明はしていなかったらしい。

そりゃそうだよね、対処方法も書いてないのに世界の危機なんて恐怖を煽るような内容なんだもん。


「え~っとね、何というか……」


私が言い淀んでいると、シロクマちゃん達が代わりに答えた。


「今こそ立ち上がれー!」

「世界を救うのはー」

「キミだー!」


「予言ですか!?」


「違う。けど、世界平和は願っていたかも?」


その後、もうこれは役目を終えた。混乱を招かないように、もう二度と『実は私日本人なんです』と言わないよう言い含めた。



おじさんはマティアスに話があると言うので、幼女+3匹だけ先に1階に降りた。

食堂に戻ると、みんな一斉にこっちを見た。

もちろん彼らにも情報を共有した。


『コルウス』は悪魔崇拝集団だった。

すでに悪魔が組織を操っているようだ。

絶対にダンジョン・コアを揃えさせてはいけない。

悪魔は人間の魂を欲している。

7つの厄災は人がたくさん死んでしまう。

つまりは7つの厄災は7つ目『魔王が降臨する』為に必要な手順なのかもしれない。

それだけは絶対に阻止しないと……


怖いのは嫌なのに、平和が一番なのにほっとけない。

ああ、またもや安全なスローライフが遠退くわぁ……


遠い目をするナナの横でシロクマちゃん達がアップを始めていた。


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