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食堂で夕飯を食べていると、突然ラムネちゃんが「あー!」と叫んだ。
「どしたの!?」
「ジュードのお船、アイテムボックスに入れっぱなしだったー」
誰の何……?
他のシロクマちゃん達も「そうだったねー」と同意するので、も少し詳しく話を聞くと、教会に誘拐された折、私を追いかけてくれた時に使用した魔導機艇だという。
ジュードは『ハーキュリーズ試験飛行場』の副所長さんの名前だった。
「えっと、そのジュードとは地下の遺跡から地上に出た後合流してない、よね?」
色々思い出した。
とんでもない体験をして周囲に目を向ける余裕がなかったというか、ジュードって空気だったし……
そういえば、サーカスの猫ちゃん達も無事だっただろうか……
あの吸血鬼の始祖とか、龍とか地震とかの日から20日余り……
「あ、アデル。シロクマちゃん達がジュードに船を返したいって言ってるんだけど…」
「ああ~、今はちょっと止めといた方がいいかもな~」
「あ、やっぱ置いてけぼりにした事怒ってる、とか…?」
「ワザとじゃなかったんだ。つい、うっかりな」
「私も忘れてたし…」
ジュードの無事は確認されているとのコトなので、ほとぼりが冷めた頃に菓子折持って顔を出す事にした。
「で、だ。ワンダーウォールに転送してくれないか?」
これはヒューバート。
馴染みの武器屋があるのだとか。
「らじゃったー」
イチゴちゃんがシュタっと手を上げる。
アルゴスだけでなく、アデル達もワンダーウォールに用があるというので、結局、迷宮攻略チーム11人で本部に戻ってきた。
約10ヶ月ぶりである。
「まあまあ、クラマス、お帰りなさいませ」
「突然すまない。しばらく滞在する事になった。ヨロシク頼む」
「ブランシェ、おひさー」
「ハーイ、おチビちゃん達。元気そうで安心したわ。クラマス達をサポートしてくれてるんですってね。ありがとう」
シロクマちゃん達と一緒に私もよしよしされた。
「んじゃ、私達も、防具のメンテに行こっか」
「「「らじゃー」」」
で、やって来ました『世界樹の雫』。
「ちわー。メンテしてちょー」
「あら、ちびっこ共。全然来ないからくたばったかと思ってたわ」
「でたー」
「つんでれバニー」
「デレないけどー」
カウンターに乗り上げるシロクマちゃん達を撫でるウサギ獣人のおねぇさん。
この工房のデザイナーだ。
相変わらず露出が多いですね。
「あのねー、状態異常を防ぐ何かを付けられないかな?」
シロクマちゃん達はいいけど、私までカウンターに乗り上げるわけにもいかないからセルフで踏み台を出す。
ふむ、いい高さだ。
「何を防ぎたいの?」
「あ、ふつうに受けてくれるんだ」
前回は一旦ごねるポーズをとったのに。
「まあ、言ってみなさいよ」
「んーとね、毒・睡眠・麻痺・沈黙・暗闇・魅了・混乱・石化…他に何かあったかな?」
「つまり、全部ってワケね?」
「うん。できる?」
「そうねぇ……出来るけど、かなりの金額になるわ。でも、活躍の噂はこっちにも届いているわよ。頑張ってるみたいじゃない」
「あれれー?」
「さっきはくたばったとか言ってたのにー」
「やっぱツンデレだねー」
「うるさいわよっ」
照れ隠しか、誤魔化すようにシロクマちゃんをわしゃわしゃするウサギのおねぇさん。
「お金はあるんだよねぇ」
「まあ、ちびっこのクセに生意気ね」
すぱーん! といい音がした。
職人のドワーフさんだ。
急に現れてはスリッパでツッコミするのはこの工房の名物なのかもしれない。
「素材がねぇのに簡単に引き受けるな」
「在庫がないだけ? 石化防御って出来るの?」
私が訪ねると、ドワーフさんはスリッパをベルトにはさみながら答えてくれた。
「レシピは存在する」
「出来るんだ……」
石化を解く魔法は忘れ去られた古代魔法しかなかったのに!?
流石、モノづくり世界一のドワーフ!
「だが、それらを全部カバーするなら常備できねぇ程の特殊素材が必要だ。入手難易度Sクラスだぞ」
「何が要るの?」
「最難関は石化防御に必須の『バジリスクの目玉』だな」
「それなら持ってるよ?」
「あれは伝説上の魔物で……今、何と?」
ドワーフさん、『間』が漫才っぽいなぁ。
「バジリスクこないだ倒したの。珍しいと思ったから、目玉1個だけ手元に残したんだ」
アイテムボックスから出す。
剝き身だけど、バリアで覆っておけばいいだろう。
「これであってる?」
ドワーフさんがめっちゃ顔を近づけて覗き込んでいる。
「信じられん。これ程新鮮な素材は初めて見た……これなら1ダースは作れるだろう」
「他は?」
「……混乱防御の『ファントムの嘆き』、だな。これも市場に出回るまで待つといつになるかわからんぞ」
「ゴースト系のモンスター?」
「そうだ。倒した時に確立で落とすアイテムだな」
「ゴースト系の魔物は魔石を持ってないけど、倒した時にたまーに何かを落とすんだっけ?」
「ええ。ゴースト系は物によっては強敵ではないけれど、限られた場所にしか出ないし、ドロップの確立がかなり低いから入手難易度はAね」
「その2つがあれば作れる?」
「ああ、持ってきたら割引で作ってやる」
「やったー! じゃあ、取ってくる!」
「お待ち」
お店から飛び出そうとしたらフードをウサギのおねぇさんに掴まれた。
素早いですね……おねぇさんも手練れですか?
「アクセのデザインはどうするのよ? 状態異常防御なら戦闘時だけじゃなく普段使いできるものがいいわよ」
「普段はつけないよー」
「モフモフのー」
「ジャマになるものー」
あー、シロクマちゃん達、お気に入りのベルトでさえ普段はアイテムボックスに仕舞ってるもんね。
そういう理由だったのか……
「じゃあ、ベルトに付ける?」
「うんー」
「そだねー」
「それがいー」
「私はブレスレットにしようかな? シロクマちゃん達のベルトと同じデザインで!」
「いいねー」
「やったー」
「おそろー」
「じゃ、また来るね」
ウサギのおねぇさんは幼女+3匹に手を振って見送ると、彼女達なら絶対に素材を持ち帰って来ると信じてデザイン画を描き起こし始めた。
拠点に帰るとアデル達はまだ戻っていなかったので食堂で待つ。
程なくして現れたが、みんな意気消沈している?
「お帰りみんな……どしたの? 元気ない?」
「いや、それが…納得のいく素材が無くてな……」
「あ、私も『ゴーストの嘆き』ってのが必要らしいんだけど、どこで手に入るかな?」
「それは難易度Aといいつつ運で左右される鬼畜レベルの素材じゃないか」とメイソン。
「どうしても欲しいんだけど……」
アデルはふむ…と考え込んだ。
そして、決心した様に一つ頷いた。
「よし、行くか、旧クロフォード城!」
「しかし、あそこは俺等でも危険だぞ」とサイラス。
「そうだ。確かにあそこならお宝が眠っているだろうが、もっと慎重に!」とレスター。
「だが、オレ等は迷宮を攻略しようとしてるんだぞ。カラクリ屋敷くらい突破できなくてどうする」
アデルはもう決定事項とした。
「んじゃ、俺達も行くか」
ヒューバート達も事情を知っているようで、話しに乗る事にしたようだ。
「そこ、ファントムが出るの? なんか、聞いた事あるような場所だけど…」
「ああ。150年前に帝国に奪われたオレのご先祖様の城だ。当時の当主が迷宮遺物を使ってカラクリ屋敷にしたお陰で敵に接収されても宝物庫は手付かずだぞ」
そこに、アデル達が求める武器があるのだろう。
けど、そのお城って下水道で出会ったゾンビさんが罠に嵌って死にかけたトコロだよね!?
「大丈夫なの?」
「一応、父上が解除のオーブを持ってはいるが、解除なんてしたら他の奴らにも楽に侵入されてしまうからな。自力で辿り着くぞ」
「即死トラップとかは?」
「ある。しかも迷宮遺物を使った所為で空間がねじ曲がっててな、代々我が家に伝わる城の設計図は意味をなさない」
「自慢げに言うな…」
「オレ達なら無事辿り着けるさ」
サムズアップで白い歯キラリンなんてされたら何かを誤魔化そうとしているみたいで真実味がないんだけど…
「そもそも、今は帝国のお城なんでしょ? 中に入れるの?」
「ああ。今年に入って一般開放されるようになったらしい。今では迷宮扱いだとか」
それでいいのか、帝国の皇帝さんよ…?
「図書室に宝物庫の目録の写しがあったハズだ。どれにするか目星をつけようぜ」
男共は瞳をキラキラさせながら連れ立っていった。
武器とかお宝とか、冒険はいくつになっても胸躍るらしい。
ふむ、新しい冒険か……
シロクマちゃん達も「お宝探しだー!」とワクワクしてる。
まあ、素材が手に入るのなら行くしかないか。
翌日、『デルタ8』に戻った。
今回の旅の目的地は北東に約1日程の旧クロフォード邸だ。
もちろん馬車での移動だが、成人男性が4人も増えるので馬車とログハウスを改造した。
馬車に積んでいたおままごとキッチンはログハウスに移した。
代わりにフカフカの座席を増やした。
馬車の後ろにくっつけていたトイレも外し、休憩の度に出す事にした。
男性陣はみんな馬車が操れるというので御者は負担が少ない。
随分旅慣れたと思う。
道中も問題なく進み、予定通り、翌日の午後に目的の街に辿り着いた。
そこはほぼゴーストタウンと化していた。
が、城の周りだけは多少活気があり、建物も補修されていて何とか住めるようだ。
宿もある事にはあるが、どれくらい滞在するかわからないものの、何日も宿というのは疲れるので屋敷を1軒まるまる賃貸した。
食料は、本部でしばらく滞在するハズだったのでブランシェが買い足してくれていた材料をそのまま譲ってもらった。
もし足りなくなってもイチゴちゃんにお願いすればいつでも馴染みのお店に買いに行けるし、大丈夫だろう。
屋敷は埃っぽかったから【クリーン(清掃)】をかけた。
ガタつく建具も歩けば鳴る床も【リペア(修復)】すれば快適空間のできあがり。
明日の為に、今日は早めに就寝した。
朝一で城へと向かう。
早過ぎて、誰もいなかった。
「さて、お宝探しといこうじゃないか!」
門の前でアデルがビシーッと指をさすけど、これ、カラクリ屋敷じゃなくてお化け屋敷でしょ……
ハロウィンっぽいね、を通り越して、おどろおどろしいよ。
出てきちゃダメなものが出てきそうだよ。
モノホンが紛れていても判別できなさそうだよ。
ゴースト系の魔物なら【ピュリフ(浄化・聖)】で即さよならバイバイできるけど、モノホンの幽霊だったら効くのかな?効くよね!?
【巨大迷宮】みたいに、入口の周辺には売店などが立ち並んでいるハズだが、こんな時間ではまだ開いていなかった。
でも、買うべき物はないらしい。
そもそも地図すら売っていなかった。
入る度に違うらしい。
空間魔法がかかっているらしく、外観と内観は全く違うという。
難易度高めのランダムダンジョンである。
気を引き締めて行こう。
玄関の扉は常に開かれたままにされている。
閉じる度に中身がリセットされるからだ。
今日も開いているって事は、既に挑戦者が入っているのだろう。
玄関ホールはエッシャーの騙し絵みたいに階段がどこに繋がっているのかわからない不思議空間だった。
もう2度と外には出られない錯覚に陥った。
イチゴちゃんと逸れないようにしないと……
背後で玄関が閉まった音が響いて肩が跳ねた。
閉めないんじゃなかったの!?
ビックリして振り返ると、誰もいなかった。
開始数秒で皆と逸れてしまった!!!
閉ざされた玄関。
1人の男が立ち去った。
扉には鎖と南京錠、そして立ち入り禁止の札がかけられていた……




