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ボスを倒せた喜びと、チビちゃんを失った悲しみを抱えて0階に降りると『クリムゾン・スクワッド』のチャラ男に絡まれた。
何でいるのよ。
「よう、チビ。しょぼくれてんな。アタック失敗したのか? そんな弱小パーティー辞めてオレ達の仲間になれよ?」
チビ……失敗……弱小……仲間…………
「えぅぅぅぅぅぅ……」
我慢していたのに、涙が溢れてしまった。
ぽろぽろポロポロ零れて止まらない。
「うおっ、おい、大丈夫か!?」
「チャラ男ー!」
「ナナを泣かせたなー!」
「許すまじー!」
「ええっ! オレが悪いのか!?」
シロクマちゃん達にぐるぐる肉球パンチ100連発を喰らって吹っ飛ぶ…事はなかったが、自分が悪人になった気がして精神的にダメージを負ったチャラ男。
ヒューバート達は幼女+3匹を回収し、すれ違いざまに睨みつけて立ち去った。
無言だったのが本物の怒りを感じさせた。
「くすん……」
ポツンと取り残されたチャラ男の肩をポンと叩く彼のパーティーメンバー。
第1側妃(第2皇子の母)にナナを仲間にするよう命令されているが上手くいかないチャラ男達であった。
冒険者ギルドには寄っていかなければならない。
別に、幼女+3匹だけでもいいのだが、過保護なアデルとヒューバート達もついて来た。
「ちわ」
買取にぃはナナを一目見て泣いたのだと見抜いた。
不自然にならない程度にさっと後ろのアデル達に視線を走らせる。
何かに気付いたが、今この場で問いただす事はしない。
「…こんにちは。魔物の買取依頼ですね? こちらへどうぞ」
いつもの場所へ移動する時、買取にぃは受付にぃを呼びつけた。
まあ、これもいつもの事だった。
怪獣と数体のデビルなどをアイテムボックスから出す。
「今日もでっかいですね~。聞きたい事もありますし、一緒について来ていただけますか?」
カリンちゃんを抱っこした買取にぃに手を引かれ、怪獣を査定しに行く。
その間に、受付にぃはアデル達に向き直った。
「ナナさんの元気がないようですが、何か問題が発生したのではないでしょうか?」
ちょっと見ただけでナナの様子がわかるこいつも大概だよな?
だが、アデル達は受付にぃの裏の顔を知っているので全力で飲み込んだ。
そして、今回の経緯を説明した。
「チビちゃんって、あのミニゴーレムの?そうだったんですか……」
受付にぃはそんなに酷い事になってなくてよかったと胸を撫で下ろした。
「女の子にとってお人形は特別なんだよー」
「初めて自分で作ったお人形なんだよー」
「身代わりになってくれたんだよー」
いつの間にか足元にシロクマちゃん達がいた。
ナナの気持ちがわかっていない!と憤慨しながら。
ナナにとってチビちゃんはペット枠だった。
ペットも家族。
だからショックを受けているのだが。
この世界の一般市民はペットを飼うのは極々稀である。
穀物の倉庫を守る猫は街にいるが、個人で可愛がる為に飼う慣習はない。
正直、そんな余裕はない。
その上、ゴーレムは道具である。
途中で壊れる事もあれば、役目を終えれば土塊に返るものという認識で。
なので、受付にぃだけでなくアデル達も同様に、ナナの気持ちにはいまいちピンときていなかった。
子供だからお気に入りのおもちゃが壊れて泣いているのだろう、としか。
が、シロクマちゃん達の言葉を聞いて、もしかすると自分達が思っている以上にナナが傷ついているのでは? と思い直した。
「査定終わりましたよ」
ナナを抱っこした買取にぃが戻って来ると、アデル達は普通に応対したつもりだが。
「シロクマちゃん達、ここに居たのね……何? また変な空気……」
この感じ、前にもあったような……
「ナナ! ゴメンな! お前の気持ちをわかってやれなくて! チビが居なくなって寂しいよな! 俺の胸で泣け!」
ヒューバートが買取にぃの腕からナナを奪ってひしっと抱きつく。
「お、おぅ……(急にどうしたんだろ?)」
泣きそうなのはそっちでは?
よしよしとヒューバートの頭を撫でる。
ナナは落ち着いていた。
人がパニクってると自分は冷静になるというアレだ。
ああ、これは気を使わせてたんだな。
チビちゃんを失ったのは私で、冷たい事を言うけど、ヒューバート達には関係ないもんね。
「よしよし。いいコいいコ」
「ん? 何で俺が慰められてんだ?」
「はいはい。いいコいいコ」
「解せぬ」
シロクマちゃん達がヒューばっかりズルいとピーピー鳴くので降ろしてもらった。
「みんなもいいコいいコ」
3匹をいっぱいモフると機嫌が直った。
私も癒された。
敵わないな、もう。
帰り際、お前の取り分だと言われて渡されたのは白金貨2枚と大金貨6枚(2600万円)だった。
もう、怖いんですけど!
少し浮上した気分はまた底辺へと逆戻り。
ヒューバートに抱っこをせがみ、甘えまくり、外見年齢通りに振舞った。
「初めてナナが我儘を言ってくれたな」とヒューバート。
「そうだな。いつもお利口さんにしてて偉いんだが、距離があったよな」とレスター。
「そうそう、クマ共とたいして変わんねぇんだから遠慮すんなよ」とアデル。
え……シロクマちゃん達って人間で言うと3、4歳くらいだと思ってたんだけど、私ってそんなに子供っぽい?
「解せぬ」
私がヒューバートと同じセリフを言ったものだから、お前等親子みたいだな、と笑われた。
後で、チビちゃんの魔石は加工して、蒼天の青色勾玉と一緒に首にぶら下げた。
軽々しく命を創らない戒めと共に……
なんだか、緊張の糸が切れてしまった。
今日はお休みだし、する事がない。
こういう時は、ボーっとするに限る。
プールに浮かべたフロートマットに寝そべる。
シロクマちゃん達がきゃっきゃと遊んでいる声を聴きながら、ゆったりと流れる時間。
ふと、思い立って、水中メガネを付けて水中を覗き込むとシロクマちゃん達が気持ちよさそうに潜水していて見ていて飽きない。
一方、アデル達は執務室で難しい表情をしていた。
「この先、行けると思うか?」とアデル。
「少し、厳しいと思う」とヒューバート。
何故なら、自分達の攻撃がまともに通用しなかったからだ。
蒼天に修行をつけてもらい、今までとは比べ物にならないくらい成長したと思っていた。
だが、すぐに壁にぶち当たった。
思い上がっていた。
「かといって、グズグズしていたら『クリムゾン・スクワッド』に先を越されるぞ」とアデル。
「ナナを当てにしたくないんだ」とヒューバート。
「それには賛成だ」とアデル。
「そこで、だ。武器をアップグレードしようと思う」とヒューバート。
「それは色々ハードルが高いのでは?」とサイラス。
「俺達は、今、金だけはある」とヒューバート。
確かに、ナナと迷宮に潜るようになって冒険者ギルドに買い取ってもらった時の金額が馬鹿みたいに跳ね上がった。
よって、1人1人の取り分も急激に増えた。
「どれくらいがタイムリミットだと思う?」と聞くノエルは自身の武器であるハンマーを新調するのに乗り気なようだ。
「昨日聞いただろ、奴等はまだ第81階層をクリアできていない」とレスター。
そう、昨日受付にぃに探りを入れたが、クリムゾン・スクワッドはまだボス素材を売りに来てはいないらしい。
「S級っつっても、実質あのチャラ男1人だけだろ?急遽編成されたんだ、残りの4人はA級に毛が生えた程度だろうさ」とロイド。
「なら、2週間は準備期間に使える?」とメイソン。
「そうだな。それが妥当だな」とヒューバート。
次のダンジョンアタックは2週間後に決定した。
「おう、ダラけてんな」
プールにアデルがやって来た。
水着ではないから泳ぐつもりはないらしい。
「なぁに? 急用?」
アデルがこんな時間にプールに来ることは珍しいので、シロクマちゃん達が寄って行った。
あ、アデル着替えてないんだからそれは……っ!
「ぶっ!」
制止は間に合わず、アデルはシロクマちゃんのブルブル攻撃×3をまともに喰らってしまった。
「ゴメンちゃいー」
「許してちょー」
「すまんのー」
「お前等ー! ワザとだろーっ!」
アデルもシロクマちゃん達の事は少しはわかっている。
ブルブル攻撃は3匹からの洗礼だった。
アデルは3匹を追いかけ、捕まえ、プールに放り投げた。
シロクマちゃん達はきゃっきゃと楽しんでいるけど。
私はフロートボードを漕いでアデルに近寄って、彼に【ドライ(乾燥)】をかけた。
「にゃはは、シロクマちゃん達、アデルと遊びたかったんだよ」
「ああ、わかってる。ドライ、さんきゅな」
「いやいや、シロクマちゃん達がゴメンねぇ」
「いや…実はな、みんな武器を強化する事になってな、次の迷宮攻略は2週間後になった」
「ほえ~、武器の強化かぁ……わかった。私達も出来る限りアップデートしとくね」
「おう、頼んだぞ」
「あ」
シロクマちゃん達がアデルを突き飛ばした。
「おっとっとっとっと…」
根性で耐えるアデル。
が、ダメ押しにウォーターガンがアデルを襲った。
あえなく頭からプールに落ちたアデル。
私は給水した水ピストルをアデルに渡した。
激しい打ち合いが繰り広げられる。
ムキになって撃ち合うアデル。
「どっちが『クマ共とたいして変わんねぇ』だよ。アデルこそおこちゃまだねぇ」
と言いつつも、根に持つタイプだったナナはシロクマちゃん達に加勢すべく自分もカリンちゃんに創ってもらったウォーターガンを構えた。
負けられない戦いはサイラスが迎えに来るまで小一時間ほど続いたのだった。




