53
口の悪いエルフのロリっ子(300歳)はよく通る声で罵った。
大勢で押し寄せて喚けば意見が通ると思ったか。
てめぇの都合で他人を動かせるとでも思ったか。
冒険者を馬鹿にするなよ。
てめぇらの為に命張ってるワケじゃねぇんだ。
てめぇらがそんな態度なら冒険者連中は全員この迷宮都市から引き上げるぞ。
そうなったら商人も技術者も見切りをつけるだろう。
結局は何も残らない。
「そんな事させるもんかっ!」
群衆の1人がそう叫ぶと、次々に声が上がる。
すると、ロビーにいた冒険者が全員立ち上がった。
二階の酒場に居た冒険者も手すりから身を乗り出して見下ろす。
冒険者達は皆一様に新しい迷宮の誕生の予感に心躍らせていた。
歴史的瞬間に立ち会えるかもしれないという噂も広まり、少しずつこの『デルタ8』に人が集結し始めている。
邪魔をするな。
冒険者の圧が一般人に圧し掛かった。
重苦しい沈黙。
それを破る小さな声が聞こえた。
「俺達を見殺しにする気かっ」
その声をきっかけに、今度はみな人の良心に付け込むような言葉を浴びせてくる。
「お前、見た顔だな」
ギルマスが目に止めたのは先程最初に小さな声を上げた男。
今度は何を言われるのかと、民衆はビクビクして口をつぐんだ。
「そうだ、教会の者だな。はて、面妖な。教会は迷宮を攻略してダンジョン・コアを手に入れた者こそ勇者だとうそぶいていた筈だが?」
「な、なにをおっしゃっているのやら…」
「そうだ、お前誰だ…?」
横にいた男が訝しげな声を上げる。
風向きが変わった。
民衆の視線がその男に向く。
「いや、私は…」
男は逃げ出した。
民衆は男を追って行った。
「逃げましたね」と受付にぃ。
「ドサクサに紛れて、ね」と買取にぃ。
「流石ギルマス! スッキリしたぜ!」
「流石ギルマス! 口悪ぃな!」
「流石ギルマス! 容赦ねぇな!」
ここのギルマスは人気者だな…
「ギルマス、このコがナナさんですよ」
「ああ、お前が…」
えっ、受付にぃは私のコトをなんと言っていたのだろう!?
「ボクの名前はエゼルミア・エフィルロス・エレンシアだ」
ロリっ子はボクっ娘だった。
「え、え…えんぜるぱい・せふぃろす・ばれんしあ?」
「誰だそれは!?」
「え、もっかい」
「ふむ、耳の穴かっぽじってよーく聞くがよい。ボクの名はエゼルミア・エルフィロス・エレルシアだ」
「え、え、え、……エゼルちゃん!」
「………もう、それでいい」
いや、文字じゃなくて耳で聞いた初めての音って耳通り抜けるから!
「エゼルちゃんってエルフ? ハイエルフ?」
「ボクがハイエルフなワケなかろう!あんな化け物と一緒にするなっ」
「ほぇ? ハイエルフって化け物なの?」
「魔力、身体能力、寿命、何をもってしてもエルフとは比べ物にならん。アレはほぼ神だぞ」
「ほぇ~」
リンスって神様みたいなものだったのか…
シロクマちゃん達の元保護者は神様だし、この世界、伝説が近いわぁ…
「トコロでお主、この後ヒマか?」
「え? これからグレアムとお話しないといけないんだけど…」
迷宮がなくなっちゃったら、領主であるグレアムはどうなっちゃうんだろう?
「手が空いたらいつでも訪ねて来い。茶でも飲もう」
シロクマちゃん達がOKした。
まあ、いいけど……
「でね、迷宮がなくなったらどうするの?」
「いつも突然来るのはいいとして、今日は挨拶も抜きか…」
段々自分の扱いが雑になっていると感じる今日この頃のグレアム。
ナナにはそんなつもりはないが。
「正直、新しい迷宮なんてワクワクだな。自分で攻略したいくらいだ」
「お、おう。でも、ここはもう迷宮都市じゃなくなるんでしょ?」
「別にいいんじゃねぇか?【巨大迷宮】みたいな近未来の科学技術が数千年もの間そこにあるのに、この世界の文明は中世もしくは近世止まりだ。進歩の気配がありゃしねぇんなら無駄なんじゃねぇのか? まあ、領主としては失格なんだろうがな」
確かに……
この世界の文明の進み具合ってめっちゃスローだよね。
迷宮の技術を解明しようとしている人もいないみたい。
何故だろう?
現代日本で暮らしていた記憶があるからか、便利な世の中であればあるほどいいと思うんだ。
でも、飛行船は作ろうとしているし、止まっているワケでもない。
ああ、そっか。
義務教育がないから勉強や研究に興味を持つ子供が少ない。
とても狭い世界で生きていて、インターネットもないから仲間や研究資金が集まらない。
医療も発達していないし魔物に襲われる事もあるから知識を継ぐ人が途切れる。
また最初っから研究のやり直し。
そりゃ、中々進歩しないわ。
それに、地球でも文明は急に発展したワケじゃなかった。
紀元前1万2000年前の神殿がトルコで見つかったね。
そんな時代から文明はあった。
それから中世ヨーロッパと呼ばれるのは大まかに5世紀から15世紀の約1000年間なのだ。
きっと、これから1000年以上かけて19世紀頃の産業革命みたいな時代を迎えるのだろう。
だとしたら、全然進歩していないなんて言えないかも……
「で? 迷宮攻略はどんな具合だ?」
「え? たぶん順調」
「そうか……実はな、ヴァル兄が迷宮攻略の為、S級冒険者をここに派遣するらしい」
「なん、ですと…!?」
「A級冒険者に出来るんなら、うちのS級冒険者にやらせればいいじゃない?と側妃が……」
「ああ、秘密結社『コルウス』の幹部っていう第2皇子の母親ね?」
「そうだ。皇帝も乗り気でな。数日中に到着するだろう」
冗談じゃない! そんな事したら蒼天がまた目覚めちゃうかもしれないじゃない!
成仏できたとは思うけど、万が一があっては蒼天に申し訳が立たない。
S級冒険者が第90階層に到達する前に【巨大迷宮】を破壊しなきゃ……
「情報ありがとう。私達、もう帰るね」
いつものグレアムの側近がお茶とお菓子を用意してきたが、幼女+3匹はすぐに帰ってしまった。
「みんなで休憩するか」
グレアムが部下に好かれる理由の一つだった。
「アデル!第2皇子がS級冒険者を寄こすんだって!」
アデルの執務室のドアを破壊する勢いで飛び込んできた幼女+3匹。
「何だと!?」
「側妃の差し金で、皇帝も乗り気だって」
「S級に乗り出されたとしても、数ヶ月はかかるのでは?」とサイラス。
「それに、白い大鷲との戦いで1人になったんじゃなかったか?」とレスター。
「ああ、あの時派遣されたのはオーランド帝国とクルト連邦国の2パーティー。そしてオーランドが4人、クルトが1人失った」とサイラス。
そうだったんだ……
S級にも強さのバラツキがあるのね……
「新たに編成し直したって事か?」とレスター。
「どっちにしろ、焦れば失敗する。中3日のペースは変えない」とアデル。
「そうだね、準備万端で挑もう」
シロクマちゃん達と『えいえいおー』で気合いを入れた。




