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「メイソン、護符の描き方教えて?」


リンスから買ったペンセットを持ってメイソンの私室を訪ねた。


「はい。どうぞ」


シロクマちゃん達が部屋を引っ掻き回さないように、お菓子を与えておく。


「道具は揃ってるね。なら、ぶっつけ本番といこう」


メイソンの教えは簡単だった。

魔力を込めながら一気に最後まで描きあげる。

一度でも切れたら魔法は発動しない。

迷いなく描けるように、最初は下描きをした方がいい。

以上。


ふむふむ、下描きね……


というワケで、まずは普通の紙をトレカサイズにカットする。

そして極細ペンで魔法陣を描きあげる。

魔法紙もトレカサイズに切り分ける。

トレース台で本番。


「それは?」


迷宮の宝箱から出たおもちゃだ。

子供が好むパステルカラーのライトボックスにキャラのパーツが描かれているフィルムがついているヤツ。


「迷宮遺物だよ。台が光るから、下に置いた絵が透けて見えるの」


「なんて便利な!」


メイソンが代替品を探しているけど、電球がないとトレース台は出来ないだろうな。

これはLEDだけど。


「とりあえず、晴れの日なら窓ガラスでもできるよ?」


試しに紙を2枚ガラスに当ててみるメイソン。

綺麗に下絵が見えて小躍りした。

これで、下絵を描いてインクで描くという二度手間を省くことが出来る。


私は自分の作業に集中する。

羽根ペンは慣れてなくて描きにくかったけど、何とか1枚描きあげた。


「これ【ヒール(回復)】なの。成功しているか試してみて?」


メイソンが護符を持って魔力を流す。

「ヒール」と呟くと護符の魔法陣が光り、体がキラリンと光った。


「うん、成功だ! 一発で出来るなんてスゴイよ!」


「いえーい! それ、まだ魔法陣が消えていないけど、繰り返し使えるの?」


「うーん、紙もインクも上等なものみたいだから、全部で3回くらいいけるんじゃないかな?」


「ほへー、高いと回数も増えるんだね?」


「そうだね、僕達魔術師が使う魔導書は代々師匠から譲り受けるんだけど、これは半永久的に使えるよ」


うぉう、それはとんでもない価値があるのでは…?

てか、メイソンって代々続く魔術師の跡継ぎだったんだ。

何気に強者だったんだ……



メイソンに礼を言って、自分の部屋に帰る。

【ヒール(回復)】の護符はあげた。

魔術師は自分が使える魔法しか護符が作れない。

メイソンは地水火風属性の魔法しか使えないので、聖属性の回復魔法は嬉しいものだった。


さて、成功して自信が出たので本命を作ろう。

【ディスペル(解呪)】だけじゃなく、【デペトリフ(石化解除)】も少し作っておこう。

魔法紙1枚で4枚の護符が出来る。

とりあえず10枚使って描いた。


そして取り出したのはラミネーター。


「なにそれー?」

「それなにー?」

「なにするのー?」


「ラミネート加工だよ。紙切れは水に弱いからね」


それに、焦った時に紙を1枚取り出すのって難しい。

でもラミカならクシャッともならないし、鞄の中で見失いにくい。


シロクマちゃん達がやりたいというので1枚だけ作って見せ、後はおまかせした。

何十枚も同じ作業は飽きるかな? と思ったけど、最後まできゃいきゃい言いながらやってくれた。




出来上がったなら、あの人にお届けだよね。


執務室にいきなり魔法陣が現れた。

グレアムはまたトラブルか、とタメ息をついた。


「グレアムー、【ディスペル(解呪)】の護符作ったからあげる」


「へ?」


「ほら、隷属の首輪って専用の鍵とかあるワケじゃなくて、遺跡の魔法陣で外すって言ってたじゃない?でも、もうあの遺跡埋まっちゃったし、何より【ディスペル(解呪)】で外れるんだから護符を鍵代わりにすればいいじゃない?」


「おう、さんきゅな!……ラミカじゃねぇか」


「うん。何故か私が宝箱を開けると日本のおもちゃの確立が高いんだよね……あ、わかりやすいように裏に魔法名書いてるから。使う時は魔力を込めて魔法名を唱えてね」


第2皇子の分にともう1枚渡す。


「3回くらい使えるって」


「おう、助かるわ」


グレアムがいっぱいお菓子をおもたせしてくれてシロクマちゃん達のテンションが爆上がりした。

その勢いで迷宮に行きたいというのでやって来た。

自販機でジュースが買いたいらしい。


「もうすぐ踏破できそうだし、そうなったら自販機で買えなくなっちゃうねぇ」


意図せず爆弾を投下してしまった。

シロクマちゃん達がムンクの叫びの顔になっている。


「だだだ、だめー!」

「ででで、でもー!」

「どどど、どうしようー?」


「仕方ないねぇ。出来るだけ買い溜めしておこう」


でも、明日はダンジョン・アタックの日だからメダル集めはせずに、今日の購入は持ってるメダルの分だけにしておいた。




翌日、集合場所でアデル達にも護符を1枚ずつ配った。

彼らには【デペトリフ(石化解除)】も渡す。


さて、第92階層にやって来ました。

道中はもう慣れたものでサクッとボス部屋です。

ウソです。結構神経をすり減らしました。

転移陣を踏んじゃって、チビちゃんが別部屋に飛ばされてしまったのよ。

まあ、同じフロアだったから何とか合流できたんだけどね。


魔法陣から出てきたのはサイクロプス。

なかなかに凶悪な外見をしている。

盾を持って棍棒を振り回してくるが、あまり頭はよろしくないようで、戦略とか何もなく暴れるだけ。

体表が硬く、楯も使うので生半可な攻撃では通らないが、魔法剣士が多いこの合同パーティーの火力も高い。

状態異常も仕掛けてこないし、やはり軽く倒してしまった。

こうなってくると、蒼天の強さが異常だったことがわかる。

だが、油断は禁物。

今日もワンフロア攻略だけで帰る事にした。



「あのね、アデル。シロクマちゃん達が【巨大迷宮】がなくなっちゃうと自販機で買えなくなるって嘆いてて…」


「そうだよー」

「自販機ならー」

「飢饉の時も安心ー」


「あ~…そりゃ、そうなんだが…」


アデルはしばし考えて口を開いた。


「実はな、迷宮攻略の可能性が見えてきた今、次の迷宮都市の候補地が壊滅した『コープランド』に決まったんだ」


ああ、そっか…迷宮が生まれると、周辺に街が出来るんだった。

その街は迷宮遺物で創られる。

一面の瓦礫の山を片付けて街を人の手で復興するのを諦めたのか……


「避難所生活をしている者を優先的に迷宮都市に住まわせることを条件に、オレが新しい領主になることも決まっている」とアデル。


セオはどうなるんだろう?

失脚したって事なの?

教会の力を削ぐ為の措置の一環なのかな?


「わかったー」

「もう我儘はー」

「言わないよー」


被災者の事を考えて我慢するシロクマちゃんをメイソン達はめっちゃナデナデした。


「新しい迷宮が誕生すれば、大勢の人が押し寄せてくるだろう。新しい市民権を得ようとする者、名を上げたい冒険者、新たな利益を求める探索者、チャンスを掴もうとする商人などなど……それに、犯罪者も然り、だ」


混乱は目に見えてるね。


「アデル達は冒険者を辞めちゃうの?」


「まあな、そんな暇はなくなるだろう」


サイラスもレスターもアデルの護衛騎士になるそうだ。

そして新しい冒険者ギルドのギルマスにはヒューバートがなるらしい。


「新しい迷宮ー」

「どんなのだろうねー」

「楽しみだねー」


みんな大丈夫かな?……これ、取らぬ狸の皮算用って言わない?

これから戦わないといけない強敵がいるかもしれないんだよ?

調子に乗るとすぐに足元をすくわれちゃうよ……



そう思っていたのに、第95階層のボスのデュラハンも苦労せずに倒してしまった。

そうすると、迷宮都市の様子が変わってきた。

迷宮がなければ街が廃れる。

その上、魔石が取れなくなるので他所から買い入れなければならないので割高になる。

冒険者も探索者も商人も引き上げるので生活レベルも落ちる。

しかも、ダンジョン・コアを手に入れるのは他国の冒険者なのだ。

暴動が起きるのも時間の問題だった。



「2人は迷宮がなくなったらどう思う?」


幼女+3匹は冒険者ギルドを訪れ、受付にぃと買取にぃに訊ねた。


「ナナさんは新しい迷宮都市に移動するのでしょう? 私もついて行こうかな?」と買取にぃ。


「いいですね。毎日楽しそうです」


受付にぃも賛同した。


「え、カルくない!?」


「そうですか? 新しい迷宮の誕生なんて、歴史に残るような一大事に立ち会えるなんて光栄ですよ」と受付にぃ。


確かにその通りだけど、実際に住んでいる人はそうも言っていられないのでは?


「大きな流れは誰にも止められません。あなたが気に病むことはないんですよ?」


買取にぃに頭を撫でられた。


その時、ロビーに人が雪崩れ込んできた。

口々に、迷宮攻略を止めろと叫んでいる。

きっと、この街の住人達だ。

やっぱり、何不自由のない生活が脅かされるのは恐怖だよね。


買取にぃが私を抱えてカウンターの中に入った。

シロクマちゃん達も内側に飛び込む。


ロビーや二階の酒場にいた冒険者は表情を消して傍観している。

迷宮都市に住んでいるくせに、何を言っているんだ?と呆れているのだ。


「うるせぇな、クズ共。こちとら慈善事業じゃねぇんだ。てめぇらの都合なんざ知ったこっちゃねぇんだよ!」


口の悪いロリっ子が吹き抜けから降ってきて、カウンターに仁王立ちした。

耳が長い。

エルフだよね?


「ああ、今日はギルマスの機嫌が悪いのに、間の悪い…」と買取にぃ。


え、あの女の子がギルマス!?

暴言が過ぎる!

冒険者はヒーローであるべきってのが信条のギルドじゃなかったの……!?


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