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迷宮都市『デルタ8』に戻って来た。
昨夜は【クリーン(清掃)】をかけてすぐベッドにダイブしたから、朝はお腹の鳴る音で目が覚めた。
シロクマちゃん達も心なしか、しおれている。
「よう、戻ってきたか」
エレベーターを降りてすぐに声を掛けられた。
ヒューバート達だ。
「おはよう&ただいま」
「「「はよいまー」」」
「なんだ、元気ないな」
それぞれ抱え上げられる幼女+3匹。
いつも元気いっぱいなシロクマちゃん達でさえ、昨夜の出来事はさすがに堪えたよねぇ…
「「「お腹空いたー」」」
あ、そういう理由?
昨夜のコトで落ち込んでいるのは私だけだったか……
「ぷっ、そうか。じゃあ、列に並ぼうな」とヒューバート。
タイミングよく私のお腹が鳴ったので、私も同じくと思われた。ぐぬぬ……
トースト、たまご、ベーコン、ソーセージ、豆、きのこ、焼きトマト、ハッシュドポテトのワンプレート。
勿論、キッズサイズだ。
プレートを受け取ると、そのままヒューバート達の膝の上に乗せられた。
この人達、すぐ抱っこしたがるよね。
シロクマちゃん達はかわいいからわかるんだけど、私も同じ扱い?
ヒューバートには私がシロクマちゃんよりちょっと大きいだけの仔熊にでも見えているのだろうか……
まあ、いっか。
お腹が満たされていくたびに、しょもしょもしていた気持ちも浮上していく。
「そうだ、ギルドの受付がお前が来ないって泣いていたぞ。もう、外に出てもいいから顔を見せてやれ」
外に、出てもいい…?
振り向いてヒューバートの顔を見上げたら、いい笑顔だった。
あ、これ、『わからせた』ってヤツだ……
何したんだろう?
君子危うきに近寄らずかな……
ほぼ食べ終わった頃、フードから小さい何かが飛び出してきた。
ネズミか!?とみんなが焦って椅子をガタガタいわせたが、私は2度目なので落ち着いてたよ。
みんなが注目したのはテーブルの上で手を挙げて挨拶しているちびゴーレムだった。
「あー、チビちゃん忘れてた。おはよう。ゴハン食べる?」
首を横に振るチビちゃん。
あれ?そろそろゴハンの時間だよね?
「それ、ゴーレムか? ナナが作ったのか…?」
魔術師のメイソンがチビちゃんのちっちゃいお手々をそっと摘まんで握手してる。
「そだよー。建築用だから力持ちなの」
土属性の魔石を出してみるが、いらないと首を振る。
「胸の魔石に魔力を補充すればいいんじゃない?」
メイソンの言葉に、コクコクと頷くチビちゃん。
そっか、あの時は隷属の首輪を付けられていたから魔力が使えなかった。
それをわかってたから魔石をちょうだいって言ったのね。
チビちゃんの魔石に触れて少し魔力を流した。
すると、ほんの3秒くらいでチビちゃんが両手をあげる。
「もういいの?」
バッチリだぜ!と言わんばかりのサムズアップ。
うん、かわいい。
「なあ、ナナ。また俺達と迷宮に潜らないか? 流石に自分達だけでは完全攻略は不可能だ…」
ヒューバートは少し迷っているようだった。
私がまだ蒼天の事を引きずっている事を見抜いているの?
「お前等とクラマス達を合わせた俺達11人はいいチームだったと思うんだ」
私は役に立ってないよ。
あと、アデル達ここに居ないけど、勝手に決めてもいいの?
まあ、アデルなら断らないだろうけど。
むしろ前のめりだろうけど。
「そのゴーレムがいれば、もっと安全に攻略できると思うんだ」
靴を投げただけでは細かいトラップには気づけなかったんだっけ。
「チビちゃんに危険な役目を押し付けるの?」
「うっ、それは……」
すると、チビちゃんがドンと自分の胸を叩いた。
「まかせろって? 危険なんだよ?」
チビちゃんは両手で大きな丸を作った。
お試しで造ったゴーレムだけど、こんなに自分で考えて動くなんて知らなかった。
魔石を動力源として土人形をプログラミングで動かすのがゴーレムだと思ってたのに。
まるで魂が宿っているみたいで、もう絶対魔力を切らせない。
「ナナ、やろうよー」
「おチビもやる気だよー」
「生まれた意味はー?」
あい……
基本、シビアなシロクマちゃん達。
なかなか哲学的に心を抉ってくれますな…
第91階層のアタックは4日後になった。
アデル達とは昨夜、相談済みだったそうだ。
午後、気分転換に外に出た。
キックボードを使わずに冒険者ギルドまで歩く。
平和だ。
あれ?誰も貿易都市『コープランド』の噂をしていない……?
そっか、インターネットがないから情報はそんなにすぐ届かないのか……
「ちょえー……すっ!?」
ちょうど列が切れていたので受付にぃに挨拶したら、後ろから持ち上げられた。
シロクマちゃん達が肉球で応戦してくれるけど、買取にぃでしょ?
受付にぃもカウンターから出てきて私の両手を包むように握る。
「よかった…元気そうで……」
「うん、久しぶり」
シロクマちゃん達も受付にぃによじ登り、再会を喜び合う。
買取にぃは私を下ろすと、カリンちゃんを抱っこした。
が、頬ずりは両手で拒否された。
肉球が買取にぃの目を塞いでいる。
1度は許してしまったが、あれは教訓としてこれからも拒否るようだ。
素材の買取はなかったが、いつもお金を受け取る部屋へと連れて行かれた。
「色々大変でしたね」
買取にぃがお茶とお菓子を出してくれる。
シロクマちゃん達はご機嫌でモグモグしているけど、こんなコトは初めてだ。
「セーブクリスタルの強奪など言語道断。冒険者には教育的指導を徹底したのでもう大丈夫ですよ」
あ、そっち? コープランドに行っていた事はやはり知らないか……
って、あり? いくらギルド職員とはいえ、それは受付のおにいさんのお仕事ではないのでは?
「うちのギルドの方針は『冒険者は正義の味方であるべき』ですからねぇ。人の物に手を出す奴は竜に蹴られて飛んじまえ、です」
んん!? なんだか聞いた事のあるようでない、微妙に違う慣用句だね。
買取にぃの言い回しが一般的なのか謎だが、スルーするのが無難かな。
そういえば、さっき、受付のところで騒いだ時に周囲が怯えていたような……?
「2人とも、何者?」
「おや、言っていませんでしたっけ? 私はこのギルドのサブマス(副ギルド長)ですよ」
「なんで買取カウンターにいるの!?」
「最初は買取専門だったんですよ?でも、前任のサブマスが逃げちゃいまして押し付けられてしまったんです。貧乏くじを引かされました」
「自業自得だ。こいつがクレームばかり言ってたんで前任者が胃を痛めたんですよ」
「だって、私の鑑定結果にケチ付けたんですよ。鑑定持ちの鑑定に素人が口出す方がおかしいでしょ」
「文官だった子爵の三男坊が宮廷で失脚してここに流れてきたんですが、仕事が出来ないくせにプライドだけは高い鼻つまみ者でしたが……」
「お前は無能だと本当の事を毎日言って聞かせただけですよ」
えげつないわ!
逆パワハラだよね!
あと、受付にぃも結構言うね!
「で、こっちは将来のギルマスだ」
買取にぃが受付にぃを指さす。
「ほえ?もう決まってるの?」
「そんなワケないじゃないですか。嫌ですよ、ギルマスなんて」
「こいつ女顔でしょ? 冒険者によく言い寄られていたのですが、中でもA級冒険者にしばらく絡まれてしまって。でも、ある時からピタリと収まったんですよ。何したと思います?」
「え? え~っと……殴っちゃった?」
「蹴ったー?」
「刺したー?」
「削ったー?」
え、削る…?
「う~ん、それはそれでいい手ですけど違います。こいつ……」
「ちょっと、子供に何言おうとしてるんですか。削りますよ」
はぇ? 受付にぃもなの!? 何を!? ねぇ、削るって何を!?
「ま、まぁ、A級冒険者も撃退できる受付なんて、世界中探してもこいつだけでしょ?冒険者なんて荒くればかり。ギルマスは誰にも逆らわせない事が実は一番大事ですからね、こいつ以外いないってワケです」
誤魔化されてしまったけど、受付にぃには逆らっちゃダメ。覚えた。
「それから、領主様も今回の騒動の鎮静化に動いてくれました。有難いことです」と受付にぃ。
「本当に、今の領主様になって本当に良かった。前領主は王都から派遣された代官だったんですけど、汚職が酷かったんですよ。2年前に今の領主様が来て大掃除をなされたんです」
へぇ、やるじゃん、グレアム。
「書類の方式を統一したり、経理の新しい方法を編み出したり、勤務体制を整え残業を減らしたり、本当に神童と呼ばれるのに相応しい人物です」
買取にぃもベタ褒めだね。
てか、グレアムってばラノベの王道の前世の知識無双してたのね、ふふっ。
「それと、その……」
買取にぃがカリンちゃんを抱えてモジモジしてる。
あ、カリンちゃんの目が冷たい。
ドンマイ。
「90階層のボスでしょ? 色々あって、これだけなの」
首から紐を抜いて蒼い勾玉を見せた。
神妙に受け取る買取にぃ。
一通り見て、アイテムボックスに入れて鑑定せずに受付にぃに渡した。
受付にぃもそっと返してくれた。
ヒューバート達から色々聞いていたのかな。
変に詮索も深入りもしないでいてくれてありがとう。
「4日後にダンジョンアタック再開するの。また、素材持ってくるね」
「くれぐれも無理をしないようにしてくださいね」
「あい」
今度はグレアムの執務室に転移した。
「相変わらず突撃かよ」
「グレアム驚かないの、つまんないね」
「まあ、お帰り」
「ただいま」
続きの間からグレアムの部下が現れた。
もう、何も言わずにお茶を入れてくれる。
さっきギルドで貰ったばっかりだけど…
シロクマちゃん達は喜んでお菓子にかぶりついている。
またお腹ポッコリしちゃうよ。
「どこまで知ってる?」
権力者って信じらんないレベルの独自の情報網持ってるよね?
「お前が誘拐されて、黒龍が地震を起こしてコープランドを壊滅させた」
「ああ、表面的な事だけなのね」
私は大聖堂の地下で見た物について説明した。
吸血鬼を生み出した不老不死の白い巨人と祟り神の話だ。
「まだ、生きているんだな?」
「多分ね。あれはしつこいよ」
「お前、大丈夫か?」
「ん~……まあ、ね」
正直、蒼天のインパクトが強すぎて、始祖が私を食べようとしていても怖くはなかった。
強さで言ったら、蒼天の方がうんと上だろう。
アデル達も、相手が超速再生持ちだったから攻めあぐねていたけど、攻撃は喰らっていなかったもんね。
「祟り神を生み出して、何をしたかったんだろうな?」
「それね。教会が言ってた『7つの厄災』覚えてる?」
疫病が流行り、地震が起き、干ばつが続き、隕石が降り注ぎ、洪水が起こり、氷河期が訪れ、魔王が降臨する、ってヤツ。
「予言通りにいくように動いているのか?」
「インフルエンザが流行ったね」
「そして、地震が起きた」
「次は干ばつ…?」
「人工的には無理じゃないか?」
「でもさ、この世界って地震はプレートじゃなくて龍が起こすんだよ?もしかしたら、干ばつを起こす魔物がいるかもよ?」
「マジかよ……」
「どこで起こるかもわかんないけどさ、備蓄を徹底したらいいんじゃない?」
「それしかねぇよな…だが、他所に備蓄を促すのは難儀だな」
「そうよねぇ、起こるかわからないのに負担を抱えることになるもんね」
「それもあるが、どこに教会の手の者が潜んでいるかわかんねぇだろ?備蓄をしろと言ったところで邪魔が入るだろう」
「冒険者ギルドに話をしたら?」
「ギルドの職員に間者がいねぇとは限らないだろ?」
「おおう、そっか……八方塞がりじゃない?」
「難儀だろう?」
「難儀だねぇ」
答えは出なかった。
シロクマちゃん達は私の分のお茶とお菓子をお腹に納めてホクホクしながら帰った。
部屋に戻って、今度はリンスに【文蝶】を飛ばした。
近いうちにお店に行きたいという内容だったが、今すぐでもいいと返事が返ってきた。
「イチゴちゃん、リンスのお店に転移できる?」
「まかしときー」
ってなワケでやって来ました。
途端に幼女+3匹がいっぺんに抱きしめられる。
「えっと、久しぶりだね。元気してた?」
「ええ、ええ……皆さんもお元気そうで安心しました」
この心配っぷりは、もしかして全部知ってる?
始祖と知り合いとか言わないよね……?
「今日はね、欲しいものがあって」
「はい。何でも揃えてみせますよ」
私が欲しいのは、魔術師が使う紙とインクだ。
隷属の首輪が【ディスペル(解呪)】で外せるのなら、グレアムとか第2皇子に魔法を閉じ込めたカードをプレゼントしておきたいのよね。
『護符』っていうのかな?陰陽師が使ってそうなヤツ。
「迷宮遺物でなくていいんですか?」
「別に、それに拘ってるわけじゃないんだけど……」
リンスは渋々紙とインクとペンを出してきた。
なんで不服そうなのよ…
「くっ、これは銀貨1枚ではないんですよ」
「勝った!」
「お買い上げで?」
「うん!」
「さっき、文字の当て字間違えませんでした?」
ジト目やめて。
「おいくら?」
魔法の羽根ペンが金貨2枚、魔力を溜め込むインクが金貨1枚と大銀貨5枚、世界樹の枝で創られた魔法紙が12枚で金貨1枚と大銀貨2枚。
それが魔導書みたいないい雰囲気のボックスに入っている、
「…………………………金貨5枚です」
日本円だと50万だね。
「勝った!」
「だから、当て字……」
「魔法紙、もう1セット追加で!」
「オマケして金貨6枚です」
「オマケ…いらない」
2万円も割引しようとしないで。
「ナナー」
「これもー」
「買ってー」
シロクマちゃん達が嬉しそうにおもちゃを抱えて走ってきた。
リンスが満足そうに微笑んでいる。
安く売りたい店主と高く買いたい客のおかしな戦いはどっちが勝ちだろう?




