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街が燃えていた。
建物は崩れ、阿鼻叫喚。
夜なのに、火事の所為で街が明るい。
人々は川へと逃げ惑った。
空を見上げる。
黒い龍がとぐろを巻いている。
いや、もうあれ神龍だよね!? 黒いけど!
ドラゴンボールがあったら願いを叶えてくれるんじゃないかな!?
悲惨な現状に、ついつい現実逃避をしたくなる。
早く決着を付けないと、幼女の体力では夜は使い物にならなくなる。
「え?何で地上!?えっ、えぇっ!?」と、プチパニックになっているセオはちょっと置いといて。
ジャックは相変わらず物静か……いや、放心しているようだ。
ジュードは気絶しているからそのままで。
「あれって、以前噂になってたナイル共和国の地震の原因の龍でいいのかな?」
「おそらく……」
アデルも信じられないのだろう。
天空に優雅に揺蕩う邪悪な龍を呆然と見上げる。
蒼天が言っていたように、邪神になってしまったのだろう。
神々しいよりも、禍々しい。
「危ないっ!!」
サイラスが私を抱えて飛び退き距離をとる。
ジョージはレスターに、セオはジャックに抱えられ、他のみんなもそれぞれ回避する。
ほえ?
振り返ると、さっきまで居た場所に始祖が立っていた。
もしかして、私、食べられそうになった……?
『数千年も飲まず食わずで邪龍を操ってもう枯渇寸前。魔力量の多い生娘を食えば力を取り戻せる。お前は極上のエサだ』
「ふざけるなー!」
「ナナはー!」
「渡さないー!」
そうだ、そうだ! 食べられてたまるか!
『お前を食えば、5000年は保ちそうだなぁ』
え? 不老不死なのに、食べないとダメなの?
真の不老不死じゃなくて、条件付き?
え、だったら、魔力を封じたら万事解決なんじゃない…?
隷属の首輪って本人に使えるのかな?
私の独り言みたいな呟きに「いけるかも?」とアデル達が口々に呟く。
「やってみよっか?」
「待ってください」
止めたのはセオ。
脅威は始祖だけじゃない。
黒龍も放ってはおけない、と言われた。
確かに。
「黒龍は穢れを祓えばなんとかなるかもしれません。それはあなたにしか出来ない。そうでしょう? ナナ」
「浄化してー」
「黒をー」
「白にー」
わ、私がやるの!?
龍は空飛んでるよ!?
デカいよ!?
私はワタワタしていたが、シロクマちゃん達はすでにヤル気だ。
「ほら行くよー」
「信じる心とー」
「妖精の粉ー」
カリンちゃんが皆にキラキラした粉を振り掛ける。
それ、ピーター・パンのやつ!?
でもさ、『信じる心』って何!?
私は飛べる!?
I can fly!
…………………飛べたわ。
そんな場合じゃないけど、ちょっと楽しい。
あと、パンツ見えるから『アメジスト パープル』に変身して短パンにお着替えしとこう。
シロクマちゃん達も変身ベルトに魔石を装着してポーズを決める。
空気を読んで名乗りは省いたね。
「あ、隷属の首輪渡しておくね。2つしかないけど。あと制御の指輪」
「ああ、さんきゅな」
アデルが指輪を、サイラスとレスターが首輪を受け取る。
サイズ合わせの魔法が掛けられているとはいえ、相手は巨人。
首ではなく手首を狙うのが無難だろうか?
「私達は領民の安全確保に向かいます!」
いつの間にか我に返っていたセオはジャックと大聖堂へ走った。
ついでに気絶しているジュードを、避難所に預けてもらう。
大聖堂は崩れているけど神官や修道士だけではなく、近所の一般市民まで集まってきているようだ。
さあ、それぞれの戦いが今始まる!
なんちゃって、ちょっと余裕が出てきたかも。
夜空に浮かぶ黒龍は怒りで燃えていた。
体から爆ぜる火の粉が街を燃やす。
「えっと、ちょっと落ち着いてくれません?」
黒龍の顔の前でふよふよと飛びながら声を掛ける。
見えてます?
『何奴…』
あ、よかった。声も聞こえてる。
「えっと、幼女+3匹?」
『我の眠りを妨げよって。恨めしき人間共よ』
頭から火花が散った。
お怒りですねぇ……
「ぅにゃっ!?」
大口開けて私達を食べようとしてきた黒龍。
咄嗟に避けたけども!
お口の中丸見えだったよ。
ビーム吐かれなくてよかったよ。
や、東洋のドラゴンは口から何か吐いたりはしないかな?
そんな事より、話し合いは無理だろうか……?
「わたし達はおいしくないよー」
「お怒りはごもっともだけどー」
「ちょっと落ち着いてー」
今度は尻尾が飛んできた。
いやん! もうっ、話聞いてよ!
「【ピュリフ(浄化・聖)】」
顔に浄化魔法をぶつけたら黒い何かが吹っ飛んで白いお顔が現れた。
まだ少しモヤっているけど、シロクマちゃん達が言っていたように、元は白竜らしい。
『我は…何を……』
「龍神様ー」
「目ぇ覚めたー?」
「暴れすぎだよもー」
え、ちょっと、シロクマちゃん達? お知り合い?
神様? に対してそういう態度なの!?
『懐かしい…匂いが……』
あ、急に大人しくなった?
今の内にしっかり浄化しちゃおう!
【ピュリフ(浄化・聖)】だけでなく、【ディスペル(解呪)】の二重起動でいく。
魔法陣を2つ展開し合体させる。
それを頭からくぐる様に長い胴体に沿わせてゆく。
魔法陣が通過した場所から真っ白に輝く鱗に変貌して行き、尻尾に到達すると魔法陣はクルクルと回転してしゅぽんっと消えた。
ふうっ、浄化成功!
『攻撃魔法ではなく浄化と解呪だと…?』
「え、戦わないよ。別に敵じゃないんだし」
元々邪悪な存在ってワケじゃないのなら、シロクマちゃん達が龍神と呼ぶ存在相手に討伐とか有り得ないよ。
『なかなか面白い奴じゃの』
そう言うと、スルスルと小さくなり、私の首に巻けるくらいの、ちびっこ用マフラーサイズに縮んでしまった。
真っ白な鱗は透明感があって薄っすら虹色に光ってとても綺麗だ。
あと、デカい後に見たミニサイズはとてつもなくかわいい。
『迷惑をかけたようじゃの、礼を言う』
「あ、いえいえ。元はと言えば人間の所為なんでしょ?」
蒼天が呪いがどうのって言ってた。
『常ならあの程度の穢れなぞ自力で祓えるのじゃが……』
「それよりもー」
「大火事だよー」
「雨降らせてー」
すると、白竜は雨雲を呼びアッサリ雨を降らせた。
火は徐々に沈静化し、煙が充満した上に光源がなくなって真っ暗になってしまった。
これは街中がパニックになりそうなので【ライト(光)】を複数空に飛ばす。
少しはマシだろう。
「あれ…なんか、飛びづらくなった…?」
きゃーっ! 落ちるーっ!!!
シロクマちゃん達も落ちる。
「雨に濡れてー!」
「妖精の粉がー!」
「落ちちゃったー!」
ぽす、ぽす、ぽす、ぽす。
ほぇ?
適度な弾力の何かに受け止められていた。
これは、もしかしなくても白竜!
『まんが日本昔ばはし』のオープニングみたいじゃない!?
ああっ、白竜に乗るシロクマちゃん達を写真に撮りたかった!
白竜は今度は幼女+3匹が跨がれるくらいのサイズになって地上まで安全に降ろしてくれた。
ありがとう。
『さて、もう一つの礼もせねばな…』
白竜はアデル達が苦戦している相手である始祖を睨んだ。
そういえば、「邪龍を操って」とか言ってたね。
結界の綻びからちょっかい出していたのだろう。
始祖が干渉したから穢れを祓えなかったのか。
それは大層お怒りだろう。
頭上の雨雲がむくむくと雷雲に育っている。
なるほど、思う存分やっちまってください、オヤビン!
「みんな退がって!」
いきなり叫んだけど、アデル達は瞬時に後ろに飛び退いた。
一瞬後、始祖に神鳴が落ちた。
同時に、白竜が私達をそれぞれシャボンに閉じ込めてくれたので感電は免れたけど、何もしなかったらこっちも被害出てた。
雷恐ろしいね!
黒焦げになって倒れた始祖。
普通の雷とは違い神罰だった為か、流石の始祖も気絶したようだ。
すかさずサイラス達が隷属の首輪を始祖の両手首にはめた。
超速再生持ちのハズだが、再生は始まらない。
隷属の首輪の魔力封じの機能は始祖にもちゃんと効いているらしい。
「【スリープ(睡眠)】」
もう、起きてこないでください!
「一件落着だね」
「災害後の復興が大変だがな」とアデル。
確かに、見渡す限り廃墟だ。
朝登った大聖堂の鐘楼も折れて跡形もない。
『お主らは、我に対して恨み辛みはないのか?』
「? だって、龍神の起こす事は自然災害みないなものだし……」
ねぇ? とみんなを見ると苦笑いだった。
たくさんの人が亡くなっただろう。
たくさんの建物が倒壊したし、たくさんの思い出や財産も失われた。
実際に被害を与えたのは白竜だ。
白竜の所為といえばそうだろう。
ただ、人間が意図して呪いをかけた。
始祖によるちょっかいも重なった。
なら、それは白竜だけの所為ではない。
怒りをぶつけるべきなのは教会にだ。
故意に祟り神を作り出したのは教会だろう。
1つも証拠がないからおそらくとしか言いようがないが。
私、今回の事件を随分と他人事のように突き放して見ているな……
自分が冷たい人間だったと知って苦い思いが残った。
「自然界にはー」
「間引きが発生するー」
「人間も例外じゃないー」
あぅ、相変わらずシロクマちゃんってばシビアだね……
もしかして私の心情を慮ってフォローしてくれたのかな?
ありがとう。
そっと抱きしめると、肉球で頭をよしよししてくれた。
白竜は海へと帰って行った。
海底に竜宮城があるらしい。
あ、シロクマちゃんとは直接の知り合いではないらしい。
知人と似た匂いだっただけだって。
それって、天界の神様だよね?
アデル達の前で詳しいことを言わないでくれて助かった。
流石にシロクマちゃん達の素性とかは秘密だよ!
しばらくして、セオが戻ってきた。
落雷の様子を見に来たらしい。
「始祖は【スリープ(睡眠)】かけてる状態だよ」
隷属の首輪を始祖に使ってしまったので、制御の指輪をセオに返さなければならないのはちょっと抵抗があったけど仕方ない…
始祖は干からびてミイラみたいになっていた。
今度は全身に布が巻かれて、本当にミイラになって運ばれて行った。
ずっと【スリープ(睡眠)】をかけ続けるらしい。
そうすれば不老不死でもいつかは死を迎えるかもしれない。
前世なら、絶滅危惧種だといって保護されただろうか?
研究の為に厳重保存とか?
それこそ空想小説の中のお話か。
「大司教館は崩れてしまいましたが、広場にテントを設けますのでそこでお休みください」
セオはまだ仕事があるからと戻ろうとする。
「いや、オレ達はもう引き上げる」とアデル。
「え?でも、もう夜ですし、街もこんな有様では宿も営業していないでしょう?」
「迎えを呼んだから不要だ」
それでも引き留めようとするセオにアデルは不機嫌を露わにして言い放った。
「教会がこれほど人命を無視して目的を果たそうとするなら、次は全力で潰す!ナナにも二度と手を出すな!」
サイラスとレスターも殺気を飛ばし牽制する。
「自分達が何をしたのか、現実をちゃんと見てね」
全員に突き放され、セオは呆然と見送った。
私達は暗くなった街に紛れ、イチゴちゃんに迷宮都市『デルタ8』に転送してもらったのだった。
その日は、食事もとらずに泥のように眠った。
後日、世間に向けて領主であるセオドア・ウォーレスから災害について原因は『龍による地震』とだけ発表があった。
被害規模は甚大で、貿易都市『コープランド』はほぼ壊滅。
川では『河川津波』が起きて停泊していた船も全滅。
液化現象も起きて地形が変わったほどだった。
誰かが龍を故意に祟り神にした事も、地下に封印していた吸血鬼の始祖の事も一切触れられなかった。
そりゃ、教会としては始祖の事は公にはできないだろうし、穢れを撒いたのも教会の人間の仕業だろうから秘密にするだろうけども。
始祖の姿を見た人はセオの周囲の人間だけだったから口止めしたのだろう。
歴史は権力者に都合のいいように記録されていく。
ちなみに、避難所に置き去りにされたジョージが「ひどい!」と叫んだとか、叫んでいないとか……




