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白い巨人が吸血鬼の始祖とかワケわかんないんですけど…?

吸血鬼って美形のイメージだったんだけどなぁ…

吸血の為に首筋に噛みつくってのが定説よね?

あんな巨人に噛まれたら死んじゃうよねぇ…


みんな入口で立ち止まっていたので、あらためて近くで観察する。

柵があるから、まあ、遠いんだけど。

あ、シロクマちゃんが隙間から入って行っちゃった。


「ああ~、悪戯しないでくださいね~」


セオがちょっと焦ってる。


シロクマちゃん達はいい笑顔で振り向いた。

そして2本指を立てておでこに持っていって、スナップを利かせてこっちを指さす仕草をする3匹。

それ、二指敬礼に似てるけど、お道化たあいさつ。

大丈夫かな……


巨人を見上げる。

大人の倍以上、5メートルくらいだろうか?

まるで棺の中で眠る様に胸の前で腕をクロスさせている。

でも、その棺は立てられていて、蓋も底もない。

そして十字架に見えていた物は剣だった。


「で?」


「えっ!? それだけですか!?もっと驚くとか、こう…っ」


「イーデンの白い巨人よりちっちゃいし……で? これと隷属魔法にどんな関係が?」


セオはちょっと不満げな顔で説明した。


太古の昔、空から飛来した巨人は人間を餌とした。

当然、人々は恐怖した。

しかし狙われた集落は何故か逆らわず、定期的に生贄を差し出した。

生贄に選ばれるのは処女の美少女のみ。

人々が泣きながらも生贄を差し出すのには絡繰りがあった。

巨人には人を操る異能があったのだ。

その瞳に見つめられた者は【チャーム(魅了)】されてしまうのだった。


だが、巨人の栄華も長くは続かなかった。

ある時、巨人が支配していた集落を訪れたティリオン教の宣教師が異変に気付き、巨人に挑んだ。

だが、巨人は不老不死だった。

ならばと、宣教師は巨人を封印する事にした。


だが、誤算があった。

巨人にはもう一つ異能があったのだ。

それは不老不死の眷属を生み出すというモノ。

彼らは宣教師との戦いの途中で逃げた。

始祖の命令だった。

時が来たら自分を解放しろ、と……


封印後、各地に散った彼らもまた処女の生き血を糧とし、人間を支配するようになった。

不老不死となった眷属は『吸血鬼』と呼ばれるようになった。

しかし彼らは不老不死を手に入れたが代償を払う事となった。

日光を浴びると灰になるのだ。

吸血鬼は闇に潜み、裏で暗躍し、夜の帝国を築いた。


宣教師は大陸中に散った吸血鬼を根絶する為、当時のティリオン教皇に助力を求めた。

教皇はその事実が明らかにされると世が混乱するとし、教会全体で協力し、闇に紛れて駆逐する事にした。

とはいえ、人の口に戸は立てられぬものでいい加減な噂が広まったが、真実を隠すのにちょうどいいと教会も便乗して嘘を広めた。

よって、十字架やニンニクが苦手など根拠のない対処法が周知されている。

正直、教会が吸血鬼狩りを行っていたというのは口伝だけで、正式な記録は残っていない。

いや、羊皮紙の状態が悪くて読めないだけかもしれないが。

現在では吸血鬼の存在も確認されていない。

ただ、ここにこうして巨人が封印されているという事は真実だったのだろう。


始祖だけは討伐することが出来ず、現在まで封印したままである。

だが長い年月が過ぎ、強すぎる魔力が封印の隙間から零れ始めた。

それは支配の力を多く含み、結晶化し、とある魔道具を生み出す事となった。

それが『隷属の首輪』である。


長い! 話長いよ!


ふう、やっと話し終えたという態のセオ。

如何にも他人事、というその態度にちょっとイラっとした。


「で?」


ちょっと強めに言うと、セオはオドオドして答えた。

教会が『隷属の首輪』をわざわざ創り出したり、後ろめたい事をしたという自覚はあるようだ。


「仕方なかったんですよ…?」


「結晶のまま封印すればよかったよね?」


「違うんです!『隷属の首輪』は吸血鬼を捕えるのに有効だったらしいんです!」


巨人の支配の力を結晶化したようなものだから、吸血鬼は逆らえないとか。

が、私が言いたいのはそこじゃない。


「だから、それを人間に使うのは一体どういう了見だって聞いてんの!」


あんたにも使ってやろうか!?


「ごめんなさ~い!」


両手を合わせ、情けない声で拝んでくるので興がそがれた。


「で?私のコト操ろうとしたでしょ? 媒体は?」


セオは右手中指の黒い石がはめられた指輪を外して寄こした。

首輪にも同じ石がはまっていた。

これが巨人の魔力の結晶……


「没収します。他に首輪は? いくつ持ってんの?」


「え、もうここにはありませんよ?そもそも、ここ数百年は結晶が生まれてないですしね。だから、総数は把握できてないんです」


ふ~ん……となると、現代人に首輪を使用せずに隷属魔法が使える人はいないのかもしれない。


「教会も一枚岩ではないですし、隠し持っている人もいるでしょうしね」


「そう……ところで、どうやって首輪を外す予定だったの?」


「ああ、こっちですよ」


柵を迂回するように移動し、少し階段を上る。

そこは祭壇のような場所だった。

魔法陣がある。


「ナナがその上に乗って、私が魔法を発動すれば首輪が外れたんですけどね。まさか【ディスペル(解呪)】で解除できてしまうとはね」


『ほう、私の魔法を打ち破る者が現れようとは…』


え、待って。頭上から声がしたんですけど!?

見上げると、巨人がこっちを見ていた。

顔に巻かれていた布がずれて片目が出ている。

てか、シロクマちゃん達が巨人に張り付いている!


「きゃーっ!シロクマちゃん達、戻っておいで!」


3匹は慌てて戻ってきたけど、あの布に封印の効果とかあったりする!?


巨人は動こうとしたが、黒い剣がビクともしない。

代わりに咆哮する。

怪獣みたいな爆音が耳をつんざく。

咄嗟に耳を塞いだが、そんなものでは何の意味もない。

ならばと、祭壇を結界で覆い全てを遮断した。


「みんな、大丈夫?」


声をかけてみたが、爆音の所為でちょっと難聴になったために自分がちゃんと喋っているのかわからない。


「あー、あー……みんな、大丈夫?」


「うぃー」

「だいじょぶー」

「なんとかねー」


シロクマちゃん達は耳をペタンコに倒し、なおかつ両手で押さえてぴるぴる震えていた。

人より耳がいいハズだし、煩かったよね。

アデル達も軽く頭を振って不調を振り払っていた。


「動いているの、初めて見たんですけど……」


セオが耳を押さえたまま、呆然と呟く。


もう一度巨人を見ると、無表情でこっちを見ていた。


結界を解除してもいいのかな?

まあ、封印のお陰か攻撃はしてこれないっぽいし、大丈夫かな?


パチンっと結界を消したが、巨人はもう咆えなかった。

顔の布はほとんど落ちている。

中世的な顔立ち。

石膏像みたいで生きた感じがしなかった。


『楔を外せ。封印を解け。血を寄こせ…』


声は低めの男性っぽい。


「要求の多いコト…」


『お前だ…お前の血を寄こせ…』


巨人の視線を辿った。

私?…の足元にイチゴちゃんがいた。


「ダメ」


イチゴちゃんを後ろからきゅっと抱きしめ巨人を睨む。


『違うわ! 獣ではない、お前だ!』


「私? やだー」


てゆか、私の体重って10kgとかでしょ。

だとしたら、全身の血液って1リットルもなくない?

巨人がそれっぽっち飲んでも意味なさそう。


『あっかんべー』をしたら巨人がまた咆えた。

もうやめてよ!


「【フィールド(結界)】」


って、えっ!? 今度は地震も起きてる!?

封印が解けちゃうの!?

セオを見るが、地震に怯えていてそれどころではなかった。

てか、揺れが酷くて立っていられない!


天上が少し崩れてきたが、結界を張っていたおかげで落ちてきた瓦礫で怪我をすることがないのは幸いだった。

が、突然壁から巨大な何かが飛び出してきて驚いた。

命の危機を感じたのだろう。

全てがスローモーションに見えた。

黒く、長い何かが壁を突き破って飛び込んできた。

龍だ。

とても禍々しく、荒れ狂っている。

と、思ったら巨人を咥えて上へと地面を掘り進んで上って行ってしまった……


「崩れる前に、地上へっ!」


イチゴちゃんはハッと我を取り戻し、皆を大司教館の前庭に転送した。

地上は龍が暴れた所為で地獄絵図と化していた。


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